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ウユニ塩湖でテントを張ったらこうなった!(後半)『ウユニ塩湖完全ガイド』から一部抜粋

誰もが「生きているうちに一度は行きたい」と願う世界一の絶景、ウユニ塩湖。その「日本初のガイドブック」がついに誕生しました!特別にその中身を抜粋してご紹介します。


塩湖にテントで泊まり込んだ写真家の手記


A photographer's travel note.

想像を絶するウユニ塩湖の過酷な環境の真っ只中で撮影に挑む自然写真家の記録。なんとかウユニ塩湖にたどり着いた彼を待ち受けていたのは、雨季にもかかわらずカラカラに乾ききったウユニ塩湖。果たして、彼の追い求める絶景をとらえることはできたのでしょうか。

(ウユニ塩湖にたどり着くまでの前半の記録はこちら

雨と死の予感

一日中、雲を眺める日々が続いた。ここは僕の想像をはるかに超える過酷な環境だった。

一つは寒暖の差。日中は30度以上まで上がるが、深夜から明け方までは氷点下近くにまでなる。もう一つの敵は日差しだった。熱がこもったテントから我慢できずに外に出ても、影などない。強烈な直射日光が容赦なく降り注ぎ、頭が火傷したように熱くなる。

その繰り返しの毎日に僕の精神状態は破裂寸前で、時間の感覚さえ失っていた。「何しにここに来たんだっけ?」。

このまま一枚も写真を撮らずに帰国するかもしれない、という最悪のイメージが頭をよぎり始める。

そして、僕は空を見上げるのことを止めた。

いつの間にか眠っていた僕は、ぼやけた状態で聞いた音で一気に目が覚めた。

…ポツ

何かがテントに当たる音。

…ポツポツ

頭の上から何かが続けてテントに当たる音。「雨だ!!」

反射的に叫んでしまった。あとはこの雨が続けば……。長く孤独な時間を耐え続けていた僕を祝福するように、雨は次第に強まっていった。

しかし、僕はあることに気づいた。

ウユニ塩湖は世界一平らな土地だ。冷静になって考えてみると周囲10km以内で一番背が高いものは僕が暮らすこのテントだ。風もさらに強まり、遠くに聞こえた雷鳴はすぐ近くにまで来ていた。

必然的に雷がもっとも落ちる可能性が高いのはこのテントということになる。心待ちにしていた嵐だったが、そう思うと突然、恐怖が湧いてきた。

僕は唯一テントより高くなる三脚を伸ばし、30mほど離れた場所に立て、避雷針代わりにすることにした。嵐の中では歩くことはおろか、まともに立つこともできない。必死の思いで転がりそうになりながら三脚を立てる。なんとか固定し、テントに戻ろうとすると、後ろには何も無くなっていた。

さっきあったはずのオレンジ色のテントがゴロゴロと嵐の中を転がっている。

中には何十kgもあるカメラ機材があるにもかかわらず、強風は容赦なくテントを転がしていく。必死に走りテントを元の場所に戻す。一安心していると、しっかりと固定したはずの三脚がまた倒れている。三脚を立てに戻ると、再びテントが転がり始める…。

こんな極限状態の中で何をやっているのか、自分でも笑うしかなかった。僕は諦めてテントに戻り朝を待つことにした。

雨は次の日も続いた。

その間、爆発音のような雷鳴が地震のように大地を揺らしていた。広大なウユニ塩湖で強風に揺れるテントはまるで、大海で嵐に直撃した難破船のようだった。


恐怖の向こうに、奇跡があった

1日半にわたって降った雨は次第に弱まり、次の朝には明るい光がテントの中を照らしていた。テントを開けると、目の前に飛び込んできたいつもと違う風景に言葉を失い、震えた。

まさに、奇跡の絶景だった。

天空の水鏡としか言い表せない風景が僕を中心に遥か彼方まで広がっている。

濃紺の空も、無数に浮かぶ雲も、眩しいほどに輝く太陽も、そこにあるあらゆるものが上下対称になった幻想的な世界が創り出されていた。

雨水に満たされた大地が空の色を完璧に映し出し、地平線がどこにあるのかもわからない。どこまでも続くその光景に圧倒され、ただただ呆然と眺めることしかできなかった。

ひとり立ち尽くしていると、まるで自分自身もこの絶景の一部となって、空や雲と共にウユニ塩湖に溶け込んでいくような不思議な感覚におちいってしまう。

震える手を押さえて三脚を立て、ファインダーを覗いた。

その日、僕は生まれて初めてボロボロと涙を流しながらシャッターを切った。

ここには自分とウユニ塩湖しか存在しない。遮るものは何ひとつなかった。風の音さえない静寂に包まれた世界で、僕はただ世界に見惚れた。

どれだけの時間が経ったのだろうか。

次第にウユニ塩湖はその色を変え始めた。濃紺だった空は太陽の傾きと共に、黄金色や茜色、藤色へと目まぐるしく変貌していく。空が創造する複雑な色彩を受け、大地もまた呼応するように同じ色に染まっていった。

別れを惜しみながらゆっくりと太陽は沈み、静かな夜がやってきた。あれだけ色彩豊かだったウユニ塩湖が黒一色の世界に変わり、急にひとりになってしまったかのように心寂しくなる。

ごまかすように苦笑しながらテントに戻り、いつもと同じメニューの夕食を食べた。食後にコーヒーを沸かし、温かいコーヒーを手に外に出ると、またも言葉を失った。

星が僕の頭上にも足元にも流れた

宇宙が広がっていた。

不思議な光景だった。月の光もない新月の夜空に星々が輝き、昼間のように明るい空が広がっている。四方八方を星に囲まれ、目の前の極大な天の川は足の下にまで伸びていた。

子どもの頃、父に買ってもらった図鑑で見た景色が目の前にあった。自分が宇宙飛行士になってぷかぷかと浮遊している気分になり、しばらく宇宙遊泳を楽しんだ。

すると、一筋の箒星が僕の上と下で同時にスッと流れた。

そして、それを合図に数え切れないほどの星々が後を追って天地で流れ始め、星の雨が僕を中心に世界を包み込んでいった。

想像が及びもつかない天体ショーは明け方まで続いた。

何千年も前から続く奇跡に出会った僕を歓迎してくれているようで嬉しかった。

明日はどんな姿を見せてくるんだろう。

そんなことを考えながら、太陽が再びこの世界に色彩を与えていく姿をひとり眺め、僕は再びカメラを構えた。


※この滞在によって撮影されたのが、本書の巻頭にある24時間絶景写真集です。カメラマンの名はYuki Ueda。彼は現在も世界各地を飛び回り、絶景写真を撮り続けています。


今回完成した『ウユニ塩湖完全ガイド』には、ここでは紹介しきれない美しい写真や、一生一度のウユニ塩湖への旅を絶対後悔しないために考え抜いたコンテンツが満載です。

行きたい人も行かない人も楽しめる!『ウユニ塩湖完全ガイド』
著者:Only One Travel 
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