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2.出版社以外の企業が、本を出していく可能性

NewsPicks Publishing編集長の井上慎平さんとライツ社編集長の大塚の対談をお送りします。

目次
1.もともとはひとり出版社をやろうとしてた
2.出版社以外の企業が、本を出していく可能性
3.読者を消費者にしたくない。読者と一緒に育っていきたい。
4.NewsPicks Publishing編集長が考える「ビジネス書づくり」3つの条件
5.反対に、ライツ社は何がしたいんですか?
6.出版社の輪郭をゆがませよう

大塚 NewsPicksと井上さんの関係性に近いことを、実はいま僕も経験してるんです。

ある上場企業とライツ社が一緒になって、出版事業をつくろうとしてるんです。日本の働き方を良くしたい、新しくしたいっていう意志ある企業の方が声をかけてくださって。

井上 おお!

大塚 これまでも、社長さんの本を既存の出版社から出されてるんですけど。

井上 はいはい。

大塚 その企業が、原価も、リスクも、全部自分たちで持ちます全部自分たちでやる出版事業を立ち上げたいです。それをサポートしてくれませんかって、相談に来てくれたんです。

井上 はるばる東京から。

大塚 はい。

通常は、出版社が原価とリスクを持つじゃないですか。で、企業側は作家と同じ立場で著作料みたいなものだけもらう。でもその場合は、企画内容も売り方も決定権は出版社にある。リスクを持ってるからです。そうじゃない形でやりたい、と。

井上 なるほど。今回のうちと一緒。

大塚 そうです。で、僕らは一から出版社を創業して、全部やり方を知ってるからっていうことで、思いにも共感したし、今年の秋を目指してリリースすることになって。

井上 うんうん。

大塚 働き方を変えたいっていうメッセージが企業の意志として強くあって、その意志を持つ企業がビジネス書を出し続けるっていうのは、従来の出版社が本を出す意義とは全然違う。それこそその上場企業のやり方は「0.1秒の奪い合い」(※)からもう脱しているやり方なんです。

井上 うんうん。今の話聞いて、いいなって思ったことがあります。僕、本だけじゃなく、いろんな事業の中に本があるっていうほうが健全だと思ってて。

大塚 うん。

井上 本だけで稼ごうとしたら、純粋な本づくりから、売上を上げるために歪むことってけっこうあるんです。

ある種NewsPicksもそうなんですけど、別に本だけで稼いでない、という割り切りがあるから思い切ったことができる。それはもちろん売上を諦めているわけじゃなくて、その割り切りがむしろ結果的にヒットにもつながることもあるし、長期的には新しいビジネスモデルにつながるかもしれません。

大塚 なるほど。

井上 ライツ社と上場企業の話も新しいモデルですよね。「僕たちはこういうことを思っている」「だからこういう出版をしたい」っていう明確な意志、つまりカラーを持っている出版事業。今回だったら、「働き方を新しくしたいから、もっと良質なビジネス書を」だったり。

そういう、無色透明じゃなくて自分なりのカラーがある出版が、自分も元々すごいやりたかったことだし、もっともっと、増えてったらいいなって思うんです。

大塚 そういえば、この話を60代ぐらいの人にしたら「バブル時代にも流行ったよ。出版社以外の企業が本を出すのは」って言われたんです。

井上 企業が出版、みたいなの?

大塚 はい。それはなぜかと言えば、本が売れていたから。本出したら売れるんでしょ? 100万部いくんでしょ? だからいろんなメーカーが本出してよって頼んできたって。

井上 おうおう。売ってみろ売ってみろ。

大塚 (笑)出版社に依頼してやりまくったけど、もちろんそんなうまくはいかないから全部撤退した、と。それでなくなったんですって。出版社以外が本を出すっていう流れは。

井上 へええ。

大塚 でも、まわりまわって出版不況って騒がれるこんな時代に、またこうやって出版事業を始める企業が出てきてるっていうのは、すごくおもしろいなと思いました。

意志を伝える、カラーを伝える手段として本に価値があるって思い始めてるってことだと思うんです。デジタルネイティブの時代に。

井上 おもしろいですね。伝えたいことが先にある、っていうのが昔と大きく違うと思うんですよ。たぶん、バブル期の企業出版って、お金あるしとりあえず、みたいな。

大塚 おそらく。

井上 だから、たとえば、もし有名でもカラーがあまりない会社がやっても、読者側からしたら、ふーん、有名なあの会社か、ぐらい。読む意味も価値も感じてもらえない。

でも、今までやってきたことがある、いろんな人に伝えてきたことがある企業が、じゃあこれからもっとどうやって伝えるかってときに、本っていう選択肢が出てきたんですよね。

大塚 そうです。

井上 出版社って、経営がうまくいかなくなったら、「売上立てるために、ひとまず今年あと12点出さないと」みたいな逆回転し出すじゃないですか。

大塚 うん。

井上 だから、そもそもそうじゃない企業出版、すごい素敵ですし、かつ、伝えたいことがある企業がやらないと意味ないなっていう。もっと増えてほしいなあ。

大塚 そうですね。

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