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小さなローカル出版社のフェアが、東京の啓文堂「ほぼ全店」で開催された理由

お声がけをいただき、先週から東京の啓文堂書店25店舗(ほぼ全店)で「ライツ社フェア」を開催されています。

(フェア概要)
期間:5月下旬〜7月15日までの約2ヶ月間
参加店舗数:25店舗
フェア点数:5点〜12点
ライツ社から送付:A4パネル2種(「ライツ社って何?」「メッセージ」)
啓文堂おすすめPOP:書店員さんのおすすめの一冊を手描きPOPに

例えば、鶴川店さんはこんな感じです。

(鶴川店)12点展開
なんと、オリジナルフォーマットの手描きフェアPOPを作成し、全点につけてくれています。

Twitterでもつぶやいてくださっています。

なぜ、瀬戸内海の端っこの明石というローカルにある小さな出版社が、「東京」の京王線・井の頭線沿線にある啓文堂25店舗でフェアをしていただけたのか。その経緯をまとめ、情報としてシェアしたいと思います。

フェアに至った経緯

はじまりは、弊社の営業と啓文堂の本部バイヤーさんの商談でした。

"売上は重要。でも、ただ売れる本を置くだけではなくて、やっぱり来てくれているお客様、特に常連さんに「おもしろい!」と思ってもらえる本屋でありたい。"

こういったご相談を受けました。たしかに、です。それが街にあるリアル書店の役割ですよね。そして、こんな提案をいただきました。

"これから「小さなローカル出版社」を紹介していくフェアを定期的に実施していきたい!"

約3,000社ある出版社のうち約8割は東京にあると言われていますが、もうすでに有名なミシマ社(京都)をはじめ、万葉集で一躍話題になった西日本出版(大阪)など、ローカルにもおもしろい(そして売れる)本を出している出版社はたくさんあります。

そんな出版社を年に数回、フェアとして紹介し、新しい本、新しい出版社との出会いを読者に届ける第一弾として「ライツ社フェア」を展開していただけることになりました。

そして、啓文堂さんがさらにかっこよかったのは、そこからです。

"決まりですね! じゃあできるかぎり「全店」でやりましょう! それから、現場におすすめの一冊を選んでもらって、手描きPOPも描いてもらいましょう!"

早かった。商談からわずか1〜2週間ほどでこの展開が店頭に姿を表しました。しかも、本当にどの店舗もスペースを割き、力の入った展開をつくり、手描きPOPまでつけてくれていました(本当にびっくりした)。

というのも、これは出版業界にかぎったことではなく、どんな小売業でも、通常「本部からの指示」というのは、現場にとっては「ゴリ押し」と捉えられることも多く、その意図が売り場には明確に反映されていないことが多いですよね。

でも、啓文堂さんは違いました。

(仙川店)12点展開
「ゴーゴーライツ社」と書かれたA4パネルまで!力が湧いてきます。

書店員さんの声

フェアの開催にあたって、荻窪店の佐々木店長にお話を伺いました。

"ライツ社を初めて知ったのは、東北へ書店研修に行った際に、本を見かけたときでした。その本に挟んであった「おたより」にライツ社さんの出版に対する熱意が書かれてあったんです。
小さい出版社なのに、すごく中身はいいものがあって、おもしろい本をつくられていて、その熱意が単純にすごいなと思いました。
わたしたちは書店員で、1日に何百冊=つまり年間で何万冊もの新刊が店に届きます。その中で「本当に売りたい!」と思うものって、1年に数冊あるかないか、なんですよね。
でも、そのとき東北で見て「これを売りたい!」と思ったのが『毎日読みたい365日の広告コピー』だったんです。仕事で迷ったり、ちょっとしたときに手にとって開くと、響く言葉がたくさんありました。
啓文堂は、多くが駅直結の小さな店舗です。なので、ふらっと立ち寄っていただくような常連さんが8割ぐらい。毎日来てくれる方だったり、毎週週刊誌を買いに来てくださる方だったり。そういうお客様になかなか変化を届けることが難しいというところが課題だったんです。
だからこそ、ライツ社のような、あまり知られていない小さな出版社でも、売れていたり、とってもおもしろかったりする本を出している出版社さんの力を借りて、お店の変化をつくっていきたい。そしてなにより、書店員が「これを売りたい!」という熱意をお客様に伝えられる本を探していきたいんです。"

書店員が「これを売りたい!」 という熱意を伝えられる本

佐々木店長の言葉にハッとしました。

出版社の編集は、書店員がこれが売りたい! という熱意をお客様に伝えられる本をつくれているのでしょうか。営業は、提案できているのでしょうか。

出版社の押し込みでもなく、本部のゴリ押しでもなく、現場の書店員さんが売りたい! と思ってくれる本をフェアを提案する。当たり前だけれど大切なことをこのフェアを通じて教えていただきました。

(高尾店)8点展開
ライツ社からのおたより(テイクフリー)を中心にぐるっと。

フェア商談の裏側

通常、書店さんから展開のご相談を受けた際、出版社の営業マンは自社のフェア提案をします。多くの場合、内容は以下の数パターンです。

1.売れ筋書籍の大展開 → 確実に実売も上がるので「◎」
2.「新社会人」「夏の旅行」などテーマを持たせたフェア → 時期に合わせた新鮮な売り場にできるので、ある程度売上も上がる「▲」
3.とりあえず自社の書籍数点をまとめた出版社フェア → 在庫過多の書籍をフェアに組み込む、いわゆる「押し込み」の要素が否めないので「×」

こんな感じです。出版社が絶対にやってはいけないと思うのは「3」です。

ですが、悲しいかなこういう展開をよく見ます。その実売率は「10%〜20%にしかならない」とも言われています。だから、そういう「とりあえず自社の利益さえちょっとでも出ればいいや」みたいな商談には絶対にしたくありませんでした。

その点、啓文堂さんの提案は本当に素敵なものでした。出版社のメリットでも書店のメリットでもなく、啓文堂に来るお客様にメリットがあるもの、そして今後につながるものを、と考えていらっしゃったからです。

今後は、たとえばライツ社(兵庫)から、ご近所の西日本出版さん(大阪)を啓文堂さんにご紹介することだってできます。そして、西日本出版さんは次の出版社を…と、いいともの「テレフォンショッキング」みたいなことを啓文堂さんとやっていけたらと思います。

啓文堂25店舗では、フェア点数、置き方、推しの本、POPも「見事にバラバラ」なライツ社フェアが実施されています。

一見すると「統一感のない展開」こそ、書店員さんがおもしろがってくれている結果なのであれば、嬉しいです。そして、おもしろいだけじゃ意味がありません。大切な「実売率」も上々の出だし、だそう。

現在、ライツ社に届いている展開写真が下記です。

ぜひ沿線の皆様はお立ち寄りください。そして、全国の出版社や書店さんにこの事例の経緯の公開が少しでもお役に立てば嬉しいです。

(府中本店)12点展開
『全196ヵ国おうちで作れる世界のレシピ』をオススメしてくれています。

(中河原店)5点展開
飛行機の手づくり拡材が目立ってます。モクモクの雲がかわいい。

(高幡店)12点展開
ワゴンを丸ごと1個使って。こちらは『365daysまいにち東京』推し。

(豊田店)6点展開
なんと「レジ前」という一等地での展開!

(下高井戸店)6点展開
「小さな出版社を応援します!」という心強いお言葉をいただきました。

(橋本駅店)6点展開
手描きPOPがキャッチー!

(桜上水店)(6点展開)
イラストつきのPOPが目立ってます!(これつくるの楽しかっただろうな)

(北野店)6点展開
いちばん売れる「エンドの角」を用意してくださいました。

(稲田堤店)6点展開
『僕たちはもう帰りたい』の紹介を丁寧にしてくださっています。

(八幡山店)6点展開
本屋大賞の・・・上・・・!

(渋谷店)12点展開
絵がめっちゃうまい。(書店員さん隠れた才能ありすぎあるある)

(吉祥寺店)12点展開
きれいな展開。手描きPOPがたくさん!

(久我山店)6点展開
『毎日読みたい365日の広告コピー』に可愛いPOPが!

(明大前店)5点展開
全部にコメント付きPOP。ありがたいです。

(小田急相模原店)6点展開
贅沢に棚ひとつ全部使っていただいています。絵うますぎ汗

(荻窪店)11点展開
 スペースギリギリまでびっしり並べてくれています。

(永福町店)6点展開
『僕たちはもう帰りたい』がここでも人気。(書店員さんも帰りた自粛)

(つつじヶ丘店)7点展開
緑のグラデがとってもきれい。繊細な書店員さんなんだろな。

(狛江店)11点展開
「中身が充実」という押しの一言。確かに、ボリュームは負けません!(というか分厚くてすみません)

(多摩センター店)12点展開
敷物があると華やかで統一感が出ていいですねっ!なんだかすごい出版社感。

出版業界を新しくしたい。もっと良くしたい。読者と、書店と、友達のような出版社でありたい。「本ができること」を増やしたい。いただいたサポートは、そのためにできることに活用させていただきます。