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【はじめに全文公開】 認知症のある方「ご本人が見ている世界」を、実際に見られるように。

『認知症世界の歩き方』筧裕介(ライツ社)
2021/9/15発売

約100名の「認知症のある方ご本人」へのインタビューを行い、その「語り」を専門家が分析。そして、「認知症のある方が実際に見ている世界」を視覚表現のプロであるデザイナーたちが「スケッチと旅行記の形式」で直感的にわかるようにした途方もない苦労作が、ライツ社より出版されます。

この本の存在と、その制作に込めた思いを、まずはひとりでも多くの人に届けたいと思い「はじめに」を無料で全文公開いたします。興味を持っていただけましたら、お近くの書店やAmazonでお買い求めいただけるとうれしいです。

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ここは、認知症世界。
認知症とともに生きる世界では、だれもがいろいろなハプニングを体験することになります。

・乗っていると記憶をどんどん失ってしまう
「ミステリーバス」
・人の顔を認識できなくなる
「顔無し族の村」
・会計までにいくつものハードルがある
「カイケイの壁」
・あっ!という間に時間が経つ
「トキシラズ宮殿」
・腕の進む方向を見失う
「服ノ袖トンネル」

etc…
この本では、認知症のある方が経験する出来事を「旅のスケッチ」と「旅行記」の形式で、だれもがわかりやすく、身近に感じ、楽しみながら学べる形で紹介します。

とにかく、「本人」の視点で
認知症を知ることのできる本を
目指しました

認知症のある方の心と身体には、どんな問題が起きているのでしょうか。そして、いつ・どこで・どのような状況で生活のしづらさを感じているのでしょうか。

いざこういうことを調べてみても、これまでに出版された本やインターネットで見つかる情報は、どれも症状を医療従事者や介護者視点の難しい言葉で説明したものばかり。肝心の「ご本人」の視点から、その気持ちや困りごとがまとめられた情報が、ほとんど見つからないのです。

この大切な情報が不足していることが原因で、認知症に関する知識やイメージに偏りが生まれ、ご本人と、周りの方の生きづらさにつながっています。

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そのすれ違いを、少しでも減らすことができないか。認知症のある方ご本人に起こっていること、ご本人が感じていることをより多くの人に理解してもらいたいというのが、この本をつくった一番の思いです。

「認知症のある方が生きている世界」を、
実際に見られるように

とはいえ、認知症のある方が抱えるトラブルを理解するのは簡単なことではありません。そこでわたしたちは、認知症のあるご本人にインタビューを重ね、「語り」を蓄積することから始めました。その数は約100名にのぼりました。

それをもとに、認知症のある方が経験する出来事を「旅のスケッチ」「旅行記」の形式にまとめ、誰もがわかりやすく身近に感じ、楽しみながら学べるストーリーをつくることにしました。

それが、「認知症世界の歩き方」です。

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乗るとだんだん記憶をなくす「ミステリーバス」、人の顔がわからなくなる「顔無し族の村」……。ご本人の頭の中では、この世界がどのように見えていて、何に困っているのかが、わかる。つまり、「認知症のある方が生きている世界」をあなたが体験できる13のストーリーです。

「認知症」とは、なにか?

これから始まる、認知症世界の旅を楽しむために、最低限覚えてもらいたいのは、これだけです。

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例として、「わたしたちが外出先でトイレに入るまで」の過程を見てみましょう。

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ある行動に至るまでに、わたしたちはこうしたステップを一瞬で行っています。しかし、認知機能が働きにくくなると、この一連の過程がうまくいかなくなるのです。

たとえば、「お風呂を嫌がる」のは
どうしてなのか?

「本人が、お風呂に入るのを嫌がって……」。介護をされる方から、よくお聞きする話です。見方によっては「介護への抵抗」と感じられる、その人の「お風呂に入りたくない理由」は1つではなく、実はその背景には、さまざまな認知機能のトラブルがあると考えられます。たとえば、

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単純に、家族に手間をかけさせたくないと思っている、という場合もあるでしょう。

このように、お風呂という1つのシーンをとっても、その人が抱える心身機能障害(心と身体の不調・トラブル・誤作動)や生活習慣・住環境によって、なぜ・どんなことに困難を感じるのかは異なるのです。

つまり、認知症を「ひとくくり」にしない。それが、とても大切なことです。

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どうしてそんなことするの……?
行動の「理由」を知ることが、
本人も介護者もラクにする

「できること」も「できないこと」も、人それぞれで異なります。

たとえば、すでに買い置きがあるのに食パンを何度も買ってきてしまう、という日常のちょっとした失敗。でも、食パンを買いすぎるのも、単純に「いつ買ったのか忘れてしまっている」のか、「戸棚の扉を閉めたことによって食パンが見えなくなったため、その記憶が消えてしまっている」のかなど、原因はさまざまです。

失敗だけを見ていると「本人に買い物をさせない」と行動を制限するしかないように思えますが、その背景にある理由がわかれば、対応の仕方は変わります。

買い物リストをつくる、ストックは必ず見えるところに置く、そもそも戸棚の扉を外す……。

 こうしたやりとりの中に、 「わかってくれない」「わからない」といったすれ違いは起こるものです。

でも、それを少なくすることができれば、ご本人も周りの方も楽になる場面が増えていくことでしょう。

ちょっとした工夫だけで、今まで通りの生活を続けることができ、本人の尊厳を守り、認知機能の低下を防ぐことにもつながります。

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「認知症世界の歩き方」の完成を一番喜んでくださったのは、だれよりも認知症のある方ご本人でした。

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また、ご家族からは、こんな感想をいただきました。

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この本だけで、すべてがわかるわけではありません。でも、認知症のある方にはどんな世界が見えているのかを知ることで、自分や自分の大切な人にどのようなことが起きるのかを、より想像できるようになるでしょう。

認知症とともに幸せに生きる未来を
つくれるように

認知症は「今のところ」は、医学的に治す方法はない、という事実があります。

しかし、「本人の視点」から認知症を学び、生活の困りごとの背景にある理由を知ることで、「どうやって、認知症とともに生きるか」、つまり、「付き合い方」や「周りの環境」は変えることができます。

付き合い方や周りの環境を変えることで、その困りごと自体が発生しない、ということも起こり得ます。解決する困りごともあるでしょう。

「病」を診て「症状」に対処する医療・介護視点のアプローチではなく、「人」を見て「生活」をともにつくり直す。

そんな視点からできるアプローチもあるはずです。

認知症のある方が生きている世界をもっと自分も知りたい。この超高齢社会の日本に、もっとその世界を想像できる人が増えることで、変わることがあるに違いない。

認知症とともに、幸せに生きる未来をつくるきっかけになれば。そんな思いで、この本をつくりました。

自分と自分の大切な人との生活をともにつくっていく手引きになれば幸いです。

issue+design 筧 裕介

10月17日、出版記念イベントを
開催します。

認知症当事者の声を聞ける貴重な機会です。ぜひ。





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ライツ社
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