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紀伊國屋書店新宿本店で、12,000円の写真集が1ヶ月で270冊完売した理由

昨日、嬉しいニュースがライツ社に届きました。
 
紀伊國屋書店新宿本店さんで、ヨシダナギさんのBEST作品集『HEROES』(税込12,000円)を、前例のない特大規模で仕掛けていただいていたのですが、そちらがすべて「完売した」というお知らせでした。

1階広場

1階話題書

2階話題書

4階芸術書

▶︎結果の数字

12,000円の本が、1ヶ月で、270冊売れた。
この数字がどういう評価なのかわかりやすく計算すると、単行本1,200円の場合だと2,700冊文庫本600円の場合だと5,400冊が売れた計算になります。通常、単行本でも文庫でも「1店舗1ヶ月100冊」売れればヒットだとは思いますが、それをはるかに上回る結果となりました。

私たちライツ社や紀伊國屋さんにとって、とても嬉しいことなのですが、この結果を次につなげるため、ほかの書店の皆さまや出版社の皆さまの参考になれば、という思いで、どのような施策を実施したか、をまとめます。

▶︎どのような施策をしたのか?

2月初旬(出版3ヶ月前)
○営業担当が紀伊國屋新宿本店さんに書籍をご案内

・ご担当者さまから大きく仕掛けたいとご依頼
(当初1階の広場と4Fの芸術書)
・同時に270冊のご発注
(通常12,000円の書籍の場合、10冊のご注文でも大きい)
(単行本で計算すると初版で2700冊を1店舗でいただくのと同じ)

○その決断力と男気に感服する
→発注してくださるからには売り切る施策をご提案しなければ、と編集担当が直接打ち合わせに行く。
ただ、この時点での状況は、書店の視点からするとよくはなかった。

・百貨店の渋谷西武で大きな個展が決まっていた
→お客様がすべてここへ流れる可能性があった
・Amazonはじめネット書店でもすでにかなりの予約注文を得ていた
→最初のターゲットであるファンの方はすでに購入済みかもしれない

現在の出版業界の情けない問題点の1つに「集客は出版社でも書店でもなく著者頼み」という課題があります。もちろん、ヨシダナギさんにもたくさんのフォロワーがいて、今回も基本的にはそこに頼るしかなかったわけですが、このような状況では単に「紀伊國屋書店で大型展開してます」と著者に告知してもらうだけでは集客できない。
だから、お客様に「紀伊國屋書店新宿本店に来てもらう理由」が必要でした。

<提案した内容>
(1)紀伊國屋書店新宿本店「限定カバー」の制作
(2)紀伊國屋ホールでの大規模講演会の実施
(3)紀伊國屋書店新宿本店でしか見られない「ヨシダナギパネル展」の制作
(4)書籍以外の「ヨシダナギグッズ(雑貨)の直接取引」
(5)『HEROES』以外の「ヨシダナギ関連書籍フェア」

○そこでまず考えたのが(1)の限定カバーをつくる
→全国でここでしか買えない、個展でも買えない商品をつくることで、まずお客様が来る理由をつくろう。「著者が告知したくなる特別」「ファンにとっての特別」をつくろうと。

限定カバー

○しかし、ここで問題になったのが予算
→限定カバーをつくるには数十万円かかる。しかし、これを単に負担すればライツ社の利益が減る(ただでさえ書籍の原価は極めて高い)。どこからか予算を捻出しなければいけない。
→そこで、(2)の紀伊國屋ホールでの大規模講演会の実施を検討しました。通常、書店でのサイン会やトークショーは参加費が無料なことが多く、本が売れること以外に利益は出ません。しかし、紀伊國屋ホールで参加費をいただけるレベルのしっかりとした講演会を行えば、そのお金を限定カバーの制作に回すことができる(お客様にとっても、結果、ここでしか買えないレアな商品が世に生まれるので両者嬉しい。さらに、いつものトークイベントより格段に大きなスクリーンでヨシダナギさんの写真や動画も見れるのも嬉しい)。
→結果、講演会には200名以上のお客様に来ていただき、限定カバーをつくる予算に補填することができました。

紀伊國屋ホール

これで来てもらう理由になる「商品」はできた。

○でもまだ足りない。足を運ぶには「体験」も必要だ。
→そこで考えたのが(3)です。個展会場にもないパネルを制作し、拡材として設置。これに加え、(4)の通常、個展でしか販売していないヨシダナギグッズ(雑貨)も許可をいただき特別に販売。そして(5)の『HEROES』以外の「ヨシダナギ関連書籍フェア」。

(1F広場)
・ヨシダナギさんのプロフィール写真の特大引き伸ばしパネル
・作品の特大引き伸ばしパネル
・音楽付き販促ムービー
(1F話題書)
・ヨシダナギさんの経歴をまとめたパネル
・作品ではないヨシダナギさん自身が映ったオフショット写真のパネル
・過去にインタビューされたウェブ記事を印刷し束にしたもの
・写真集の仕様(どこにこだわったか)を紹介した説明書き
(2F話題書)
・写真集に掲載した撮影記のテキスト抜き出し
・ヨシダナギ関連書籍フェア
・ヨシダナギグッズ(雑貨)の販売
(4F芸術書)
・作品パネル展
・ヨシダナギグッズ(雑貨)の販売
etc...

たくさんの拡材を用意し、1〜4階までの「すべてのフロアで異なる体験ができる展開」にしました。12,000円の写真集となると、手に取るのも躊躇される額です。加えて、各フロア1冊のサンプル以外はすべてシュリンクがかかっている。なので「写真集を立ち読みしなくても買える魅力と安心感」を拡材で伝える必要がありました。
そして、雑貨に関しては「書店にガチャガチャマシーンがある」という違和感はSNSでも話題になりました。
関連書籍フェアでは、ヨシダナギさんの他の著者はもちろん、「クレイジージャーニー出演者の本」、「世界を知る図鑑・芸術書」、「楽しく読めるアフリカ」など様々な切り口で選書。そのすべてに営業が手描きPOPを書き、設置しました。

※この結果、当初1階の広場と4Fの芸術書だけの展開の予定だったのが、1Fの話題書まるごと&2Fの話題書まるごとも含めた超大型展開となりました。

4月下旬(出版)
そして、出版。
と同時にプレスリリースを配信。確実にファンがいるであろう、旅系メディア、写真系メディアには本の素材をほぼ丸ごと提供。ヨシダナギさん自身にも時期をずらしてSNSで告知していただきました。

5月下旬(出版1ヶ月後)
「渋谷西武での個展が終わったあと」にサイン会を複数回開催。予定していた講演会も実施。写真集完売。
→早く売り切りたいという焦りもあったのですが、あえてこのタイミングに実施したおかげで、「渋谷西武に行きそびれた」というお客様にとっても、ヨシダナギさんにもう1度会える貴重な機会をつくることができたのではないかと思っています。

▶︎所感

すべては紀伊國屋書店新宿本店さんの書店魂・バイヤーセンス、著者であるヨシダナギさんのブランド力のおかげなのですが、いい本をつくって書店に置く、だけが出版社の役割ではないことを改めて実感しました。「書店に来てもらう理由」すらも出版社が一緒になってつくること。これからの時代は、それが大切なんだと思います。

担当の方からは、このようなお言葉をいただきました。

今回の施策は売上面でもその他の面でも、店にとってプラスしかなかったと思っております。

ヨシダナギさんが命がけで撮影し、生み出した写真集をどんな形でお客様に届けるのか。どれだけ売るのか。そこに出版社と書店の責任があります。売れた分のお金は、書店や出版社の利益・活動資金になるのはもちろんのこと、著者が制作活動に邁進するために必要な資金となります。

そのために、営業側ができること、編集側ができることすべてを組み合わせて、書店さんと一緒になって頭を使って考える。やる。
発売日前日、開店前からライツ社のスタッフ3名と紀伊國屋書店のスタッフ2名と走り回りながら展開をつくる時間は、本づくりと同じくらい興奮したし、おもしろかった。

本を売ること、著者の作品を届けること、同じ目的を持つはずなのに、どこかすれ違うことの多い、書店と出版社。みんなが1つになる、という経験をもっともっとつくっていきたいと思いました。

※『HEROES』は初回限定版がおかげさまで出版社在庫すべて完売し、現在通常版にはなりますが重版中です。6月中旬にはまたいろんな場所でその姿が見られるかと思います。大切に、ヨシダナギさんと一緒に、持てる心と編集知識と営業努力をすべて詰め込み制作した写真集です。

ぜひご一読ください。

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