出した答えは「子ども扱いしない」。子どもの活字離れに対して、ショッピングモールの中にある未来屋書店が考えたこと
この夏、全国の未来屋書店さんで「未来屋ビブリ王決定戦!」というフェアが開催されています。
子どもたちが自分の大好きな本の「推しコメント」を応募、選考を勝ち抜いた「チャンプ本(ビブリ王)」を発表する、この夏スタートの新しい試み。
先日、未来屋書店さんから「放課後ミステリクラブの作者、知念実希人さんに、その審査員長になってほしい!」という申し出をいただきました。その打ち合わせで未来屋書店さんのプレゼン資料を拝見したところ、子どもたちに対する姿勢が本気だったことに感動。逆にライツ社からは、取材を申し込むことに。
「家族連れの多い書店だからこそ、子どもの活字離れに対して真摯に向き合ってきた」と言います。出した答えは「子どもを子ども扱いしない」。そこには、ある担当者の原体験がありました。
大手書店の企画書に書いてあった、超個人的な思い出
ー:
この「未来屋書店が大切にしていること」という資料が印象的で。「小学生のころ、アルセーヌ・ルパンに夢中になり…」みたいな超個人的なエピソードが、大きな会社の企画書に書いてあることにびっくりしました。これは北田さんが小学生のころのお話ですか?
北田さん:
そうなんですよ。 なんでわざわざ学校に図書室があるのに図書館に行ったのかあらためて考えてみると、図書館って大人たちがいて、大人たちのルールで過ごせる場所で、自分を子ども扱いしないところがよかった。
ー:
そこが大きな違い。
北田さん:
そこが好きだったんだろうなと。そして、未来屋書店もそういう場所になれたらということで、一番に書かせていただきました。
ー:
1人の読書家として扱われている感覚。この「自分らしさの礎となって今の私があります」って言葉もいいなと思いました。
北田さん:
ほんとうにセリフ回しからでも感じることはありますよね。『シートン動物記』や『ファーブル昆虫記』なんかもよく読んでました。やっぱり読書から知らなかったことを知れるし。
小学生の段階で1日30分の読書習慣があれば、読書から離れない
ー:
書店減少にともなって読書人口が減ってきているということにも、強く危機感を持ってらっしゃると。こちらの資料の「着目点」には、そうなんだ!と目を丸くしました。
北田さん:
小学生の段階で1日30分の読書習慣があると、そのままずっと読書時間が確保されているんですよね。
ー:
やっぱり小さいころからの読書習慣なんですね。
北田さん:
短期間ですぐに効果は出ないかもしれないですけど、この辺を増やしていかないと、将来はいま読んでる人しか読書人口がいなくなってしまうので。次の世代にどれだけ本を好きになってもらうかっていうのが大事ですよね。
ー:
週に1回、月に1回、半年に1回でも書店さんに来てもらえるか。
北田さん:
このことについてはいままでも本気でやってきたのですが、さらに力を入れないといけないなと、待ったなしの状況です。なので、売り場から変えていこうとはじめたのが「みらいやの森」なんです。
本屋とは、「誰もが自分らしくいられる場所」であるべきだ
ー:
たぶん、名称を隠したら、だれも本屋さんのコピーだとは思わないですよね。「単にモノを売る場所ではない」という思いがすごく溢れてます。
北田さん:
これはほんとうに新入社員からベテラン社員まで、選抜メンバーで集まって考えに考えたものです。
喜田さん:
上層部から営業店舗の人間も含めて、30人ぐらいですかね。これをやるにあたって、「未来屋書店って、いったいどういうことを大事にするべきなんだろう」というところまで立ち返って考えました。
ー:
ゼロから考えなおしたんですね。
喜田さん:
もともとモールに書店があるということもあり児童書が強い店ではありましたが、あらためて「子どもに立ち返る」というところから、方針を話し合っていきました。未来屋書店のステイトメントとも言えます。
ー:
おとなが読んでも「本屋ってそういう場所だったんだ」と気づかされると思います。
北田さん:
そうですね。やはり本を読むことで、人の想いや考えに触れ、知らなかった世界を知り、知らなかった自分を知ることができる。その素晴らしさを社会に伝え、提供する場を存続させること、なにより子どもたちのお気に入りの場所になって未来の読書家を育むことこそが、社会的任務と改めて痛感しております。
ポップにしない。かわいい字にしない。子ども扱いしない児童書棚
ー:
実際に売り場をつくるにあたって苦労があったと思うんですが。
北田さん:
喜田がまさに中心になってやったんですけど、どうですか。
喜田さん:
そうですね。「子ども扱いしない」というところから始まったので、商品棚や分類についてはかなり試行錯誤しました。いつもの子どもの分類を取っ払うところからはじめたんです。普通に大人の中で話されてる、LGBTQとか、人権とか、子どもだってテレビを見てたら知りたくなるような、そういう分類も増やしていって、そこに本を選んでいきました。
北田さん:
前例がない棚をつくらないといけなかったからね。
喜田さん:
図書館分類みたいなものを取次のトーハンさんがお持ちだったので、その辺から分類を出したり、児童書も引っ張ってきたりとか、 取次さんの知恵もお借りして連携しながらやっていきました。
ー:
資料には「子どもが1人でいられる場所」という言葉もありました。
北田さん:
これも、子どもを1人の人としてまず見るところから、そうなれば子どもが1人で読める場所も必要だねと、アイデアが出てきました。
ー:
なるほど。
喜田さん:
ふつうのベンチが外にあるんじゃなくて、 棚に埋め込みで屋根があるような場所で、1人の読書家として、かなり集中して読めるようにしています。
北田さん:
デザインも大人と同じようなデザインにしました。子どもってどうしてもポップな感じになっちゃいますけど。
喜田さん:
すごい細かいんですが、ジャンル表記などに使ってるフォントも大人に揃えたんですよ。ちょっと大人っぽい文字にしてみようという、そこも小さなこだわりです。
ー:
いいですね。あと、体験イベントも一歩踏み込んだ体験ですよね、たとえばこのシンデレラキッズ。
北田さん:
それこそ、書店員として働いてもらうんですよ。たとえば、品出しをやってみたり。
ー:
あ、ほんとに働くんですね。
喜田さん:
はい、1日書店員です。バックルームからはじまって付録付けとかもやってもらったり。
ー:
きっと、子どものイメージとはまったく違う肉体労働を。
喜田さん:
あんまり脚色したくなくて、ほんとうの業務をやってもらう感じです。
北田さん:
アルバイト代も払いますよ。参加料を500円いただいて、図書カードでお給料だよって戻しする。
ー:
おおー、おもしろい。うちの子にもやらせてあげたい。
子どもたちが「1人の読書家」として、本をおすすめできるフェア
ー:
こうした「未来の読書家を育む」という流れのなかで生まれたのが今回の「未来屋ビブリ王決定戦」。
北田さん:
はい。夏は課題図書系の本が売り場に並ぶんですけど。
ー:
いろんな課題図書がずらりと並ぶイメージです。
北田さん:
未来屋書店としては、まずは本に興味を持ってもらうため、「未来屋すいせん図書」というフェアを10年続けてきました。課題図書も大事なんですけど、どうしてもカタい印象は出てしまう。課題図書とは違う切り口で、おもしろい本に出会ってほしいという思いがあります。
ー:
敷居をぐっと下げてるんですね。
北田さん:
この「未来屋すいせん図書」をさらにおもしろくしようという試みが「未来屋ビブリ王決定戦!」です。いつもだと、書店からお客さんへの一方通行の提案になってしまう。そこで、子ども同士でおもしろい本を紹介するという切り口もおもしろいんじゃないか、という挑戦なんです。
ー:
ここでも「1人の読書家」として、本をおすすめできるわけですね。
北田さん:
はい。今回、未来屋書店の従業員3000人ぐらいはいるんですけど、小学生のお子さんがいる人にアンケートをとってみたんですね。読書感想文の図書はなにを基準に決めていますか?と。店頭で選んでいる場合は「子どもが自分で決めている」っていう回答が圧倒的に多かったんです。
ー:
へぇ!
北田さん:
まずは本に興味を持ってもらいたいということで10年やってきことが間違いじゃなかったのかなと。
ー:
ほんとうですね。
北田さん:
そういう意味でも本を読む楽しさが伝わる推薦企画をもっと打ち出していこうと力を入れているんです。
ー:
こんなに熱い思いのこもったイベントに、弊社を巻き込んでくださって、ほんとうにありがとうございます。
書店からお客さんへの一方通行だったフェアに、子ども同士でおすすめするという新しい矢印を加えたイベント。今年の夏はぜひ、お近くの未来屋書店で『未来屋ビブリ王決定戦!』にご参加ください!
熱いコメント募集『未来屋ビブリ王決定戦!』
■ビブリ王決定戦 応募要項
とっておきの本をみんなに紹介しよう!!ビブリオバトルとは?おすすめの本を紹介し合い、参加者らが一番読みたいと思う本を決める書評合戦です。未来屋ビブリ王決定戦は文章でみんなに本をおすすめる未来屋書店オリジナルの”ビブリオバトル”です。審査委員長に小説家の知念実希人先生をお迎えし、応募作の中から「一番読んでみたい」と思わせるコメントを選考します。みんなの推し本に対する熱いのコメントをお待ちしています!
出版業界を新しくしたい。もっと良くしたい。読者と、書店と、友達のような出版社でありたい。「本ができること」を増やしたい。いただいたサポートは、そのためにできることに活用させていただきます。