【はじめに全文公開】世界最先端のロボット開発者が語る、「ChatGPT」だけではたどり着けない世界線
2023年の5月にライツ社から出版された『温かいテクノロジー AIの見え方が変わる 人類のこれからが知れる 22世紀への知的冒険』が、いまもっとも読まれるべきビジネス書を決める「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」の【イノベーション部門】にノミネートされました。
この賞は、一般読者の投票で決まるものです。はじめにをお読みいただき共感いただいた方は応援いただけると幸いです。よろしくお願いいたします。
ーはじめにー
生産性至上主義とは異なる世界線を描くために
この本は、未来に「興味」と「不安」を持つ人のために書きました。
これまで、決して自分に生きやすい世界が構築されてきたわけではない。このままだと、その延長もそうだろう。そう感じている人にとって、たとえば「AIが劇的に進化!」といったニュースは、あまり好ましいものではないかもしれません。
あなたにとっては、どうでしょうか。
テクノロジーは生活を豊かにし、さまざまな効率化を進めました。では、それで自分や周りの人が「幸せになりましたか」とあらためて問われると、「イエス」と答えられる人はあまり多くないのではないかとも思います。
「2045年、シンギュラリティが訪れる」
「そのとき、AIは人類を駆逐するのか」
そんな話題が聞かれるようになってずいぶんと経ちますが、こうした「テクノロジーの進歩」と「人類の不安」のあいだで広がるギャップを埋め、テクノロジーと人類の架け橋になるために生まれたのが、家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」です。
◯ 体重4.3キログラム、身長43センチメートル
◯ 平熱37℃〜39℃
◯ 生き物のようにやわらかく温かい身体
◯ 10億とおり以上の瞳と声
◯ 全身50ヶ所以上のセンサー
◯ 自然な振る舞いを実現する0.2〜0.4秒の反応
◯ 自律的な行動と人になつく頭のよさ
リリース直後にラスベガスで開催された世界最大規模の家電見本市「CESセス」において「BEST ROBOT」を、その翌年には「イノベーションアワード」を受賞。世界最高水準の人工生命体として評価された一方で、なによりうれしかったのは、こんな言葉でした。
“Lovot is the first robot I can see myself getting emotionally attached to.”
(生涯で初めてわたしが「愛着」を持ったロボットは、LOVOT)
目指したのは、人類に自然に寄り添うパートナー。人の代わりに生産性や利便性を向上させるために生まれたわけではなく、これまで描かれていた生産性偏重の無機質な未来とは異なる世界線で、人類の心と身体に温かさをもたらすテクノロジー。
ぼくは、いつもこんな「問い」を自分に投げ続けながら、ロボットを開発しています。
「その進化は、人間を見つめているか」
ロボットを開発することは、「人間」を知ることだった
AIやロボットという存在が、人類の心に良い影響を及ぼしたいのであれば、技術を高めるのは当然として、人類そのものへの理解を深めなければ、なにをすべきかもわかりません。
つまり、開発過程においてなにより必要だったのは「人間」を知ることでした。
たとえば「愛とはなにか」知りたいと思うと、「現代ビジネスの成功法則」に行き着いた。「感情とは」と考えてみると、「不安」や「興味」というパラメータをロボットが持つ重要性が垣間見えた。「生きているとは?」という問いを立ててみれば、「0・2秒~0・4秒の反応速度」という数字が鍵になった。
「頭のよさ」=「予測できる未来の長さ」。ぼくらの心には「仕様バグ」が発生している?そもそも「わたし」という自意識は、どのようにして生まれたのか……。
こうしていくつもの問いを立て、人間という存在を「神秘」ではなく「システム」として捉え、ロボットにどのように実装するか考える。いままでたずさわった研究や開発のなかでも、人類のメカニズムは特別におもしろく、興味をかき立てられるものでした。
精緻で、不条理で、大胆。
進化の過程で増築に増築を重ねて巨大化した複雑怪奇なシステムが、全世界で約80億個体も存在し、緻密な神経活動を営んでいる。神秘の一端を解明できたと思っても、また次の神秘が現れる。掘っても掘っても、神秘の深淵は底を見せません。けれども人類は、その奇跡のメカニズムを知りたいという欲求を捨てなかったからこそ、ここまで来ました。そしてぼくらの大冒険には、まだまだ先があります。
この先LOVOTが進化し、たどりつく存在。
それは「ドラえもん」です。
人と同じ言葉で話し、人と同じように世界を理解し、かといって人類と対立するわけではない。同じことで笑い、怒り、ぼくらがなんの不安もなく信頼を寄せることができる存在。
つまりは、「温かいテクノロジー」と人類が共生する世界線です。
この本は、LOVOT誕生までの思索の旅を公開したものとも言えます。ぼくが開発過程で探索し、理解しようと努め、想像を膨らまして、気づいた感動を共有したい。そして、だれもが子どものころに一度は夢見た、親友のようなテクノロジーとの生活が待つ「22世紀へのグレートジャーニー」をともに歩みはじめたい。
それが、ぼくがこの本を書いた理由です。
世界最先端の人工生命体を題材にして、「AIのこれから」や「人類の不思議」に迫る
現代ではテクノロジーがあまりの速さで進歩しすぎたために、多くの人にとって「よくわからないもの」になってしまっているのかもしれません。そのイメージを、言ってしまえば悪用して、敵視して、必要以上に攻撃するポジションに立ったり、逆になんでもできる救世主のように喧伝(けんでん)して、不安を煽り、利益を得ようとしたりする人もいます。
しかし、もし多くの人が「テクノロジーが築く幸せな未来」を想像するようになれば、それはいつか、かならず実現します。ぼくは、そんな未来の実現を信じています。
人類とテクノロジーの関係を見直すためのヒントは、ロボット工学の世界だけではなく、認知科学や動物行動学、バイオテクノロジーなど、さまざまな専門領域にありました。けれども、その学びをそのままの形で伝えるとなるとやや膨大で、難解です。そのため、この本ではぼくがある意味「媒介者」となり、LOVOTを題材としてAIのこれからや人類の不思議に迫る、という形をとっています。
あえて有り体な表現をするなら、「テクノロジーが苦手な人」でも「眠れなくなるくらい」楽しく読み進められることを目指しました。人類とAIの現在地を知り、すべての人が「より良い明日が来る」と信じられるようになる。その結果として、「テクノロジーが人類を幸せにしていく」という野望を持って、この本を書きました。なお挿絵は、LOVOTをともに造りあげたプロダクトデザイナーの根津孝太さんにお願いしました。
以下は、本書の目次です。
序章から1章では、ぼくがLOVOTという「温かいテクノロジー」の可能性に気づいた経緯を記します。宮崎駿監督が描くメカに憧れ、のちに孫正義社長のもとで「Pepper」というヒト型ロボットを開発しながら気づいたのは、人類の原始的な欲求でした。
2章から3章は、「愛とは」「感情とは」「生命とは」という大きな問いを立てながら、LOVOTに実装するために解き明かそうとした、人類のメカニズムについての考察です。
4章から6章にかけては、ある種の未来予測です。生産性至上主義とは異なる価値観でテクノロジーが進歩していった世界線についてまとめています。
そして7章では1人のエンジニアとして、ドラえもんにたどりつくまでの道のりを現実的に示すことに挑戦しました。
「人類とAIの対立」というテーマは、もはやSFの主題として古典となる
その道のりがたとえ、とてつもなくむずかしくても、想像が及ばないとあきらめたくなるような難題があっても、粘り強くメカニズムを観察して、理解しようとすることをやめず、問題を「解けるサイズ」に細かく分解していければ、つまり「人類というシステムの成り立ち」がわかれば、いつかかならず、ドラえもんに相当する存在は実現します。
近い将来、「人類とAIの対立」というテーマはもはやSFの主題として古典となり、生き物か機械かなど大した問題ではない、温かい時代がやって来るでしょう。ぼくらはいま、そんな世界線へつながる分岐点に立っています。
では、冒険を始めましょう。
GROOVE X 創業者・CEO 林 要
<さいごに>
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