名称未設定-6

「絵と生きてきてよかった」 絵本作家たなかしん20周年記念ベスト作品集 『REMEMBER』

画像1

幼稚園の頃、ぼくは世界が怖くて仕方なかった。おともだちはみんなぼくより大きくて友達になんてなれそうもないし、のらねこはいつだって怪獣みたいだった。だからぼくは絵を描いた。

猫よりも強そうな恐竜を描いて、手を繋ぐ友達を描いた。おいしそうなパンを描いて 柿につぶされないカニを描いた。今日は何を描こう。それはいつの間にか当たり前のことになって、今もまだ描いている。

あんなに怖かった世界にむき出しで飛び出していった絵たちは、ぼくに友達を見つけてくれて愛を教えてくれた。

世界と繋がる鍵になった。

鍵はたまに誰かの心の扉にもぴたりとはまって、少しだけ力になれることを知った。ぼくの絵に意味が生まれた瞬間だった。どくんっと心音が聞こえた。

この画集『REMEMBER』は、そんな鍵を集めた宝箱みたいな本になってほしい。子どものおもちゃ箱みたいにガラククばかりで、でも思い出したら心があたたかくなるような。

11月29日(金)画家・たなかしん初となるベスト作品集『REMEMBER』が発売されます。冒頭に記載した文章は、本作の「はじめに」に寄せられた、たなかしんさんの言葉です。

画像10

たなかしんについて

画家としては、砂の上に絵を描く唯一無二の芸術家として「阪急百貨店うめだ本店」「名古屋タカシマヤ」「丸善日本橋」などで個展を開けば、瞬く間に完売。イタリアやフィンランドでも展覧会を開催。

絵本作家としては、若かりし頃「ボローニャ国際絵本原画展」に単身、自著を持ち込み、異例の海外からの作家デビュー。「UAE国際絵本展」4年連続入選。最新刊「ねむねむごろん」(KADOKAWA)は、発売すぐに4刷を突破し、「MOE絵本屋さん大賞2019」ノミネート。

画像12

1979年3月26日、大阪府生まれ/兵庫県明石市在住。絵の下地に、明石の海の砂を使い、独特のマチエールを生みだす。

海砂は波打ち際の細かい部分を使う。そこには、山から運ばれた岩や砂など大地の恵み、海から運ばれた貝殻や珊瑚などの海の恵みが混ざり合う。採取した海砂は塩を洗い流し、天日に干す。そうすることにより、太陽のエネルギーさえもキャンバスに閉じ込める。

そんな、明石在住の芸術家たなかしんさんと、明石の出版社ライツ社が出会い、生まれたのが本作となります。

〈作品集の仕様〉
・大きさ…B4サイズの超・大型版
・掲載作品…初期作品から未公開作品まで200作品以上の特大ボリューム
・印刷…京都の老舗美術印刷「サンエムカラー」の超高精細印刷
・表紙…「砂のザラザラ感」を完全再現した特殊紙を採用

画像3

画像4

画像5

画像6

画像11

20周年の軌跡がすべて詰まった一冊です。ここではその一部を紹介します。

55ゆめごこち

ゆめごこち

人で溢れかえる東京、表参道ヒルズで個展を初めて開いた。挑戦、ターニングポイントだった。

コンセプトは自分の夢を誰かに覗いてもらうような、そして夢心地になって帰ってもらえる展示にしたいと思ってつけた。

ギャラリーは全面ガラス張りで外から中がよく見える。1日数万人が通るらしい。これだけの人に見てもらって何も反応がなければ、画家じゃなくて違う道にいっていたかもしれない。
ぼくのことを何も知らない人たちが、外から絵を見て、ギャラリーに入ってきてくれる。「わぁ」とか「素戴~」と口にしてくれた。

ゆめごこちになったのは、ぽくのほうだった。

画像7

HEROES

ヒーローとはどんな存在だろうかと考えたとき、寄り添ってくれる者と答えたい。

敵と戦ってくれるわけでもなく、誰かを倒すわけでもない。誰も傷つけず、ただそっと寄り添い、心をぽっと温めてくれるような存在。

そうなりたいという願望かもしれない。みんなのヒーローになれなくても、誰かのヒーローにはなれるかもしれない。きっとみんなそう。

そうであってほしい。

画像8

聖なる者たち

誰かにとってかけがえのないものは、神様に近い。

この世に存在するありとあらゆるものが神聖さを帯びている。何かを見るとき、ふとそんな風に見てみると、世界はガラッと表情を変える。

花壇に居座る猫は神様の使いに見えるし、サーカスのピエロは死神にだって見える。愛する人は天使に見えるし、異国の苦しんでいる子が聖職者に見える。救えないぼくはただの人間であることを思い知る。

だからせめて耳を傾ける。見逃さないように、聞き逃さないように掬う。

表現することは種まきに近い。いつか受け取った誰かが花を咲かすかもしれない。それが奇跡を起こすかもしれないと、他力本願に描くのだ。

199アスミルヒカリ

アスミルヒカリ

足音は前をゆく うつした景色は心のなかで ぬくもりは消えず いつまでも明日をてらす やさしい夜がつつみこむように ひどい今さえ変えてしまえるように

今 踏み出した足は 昨日出せなかった一歩でしょう 今 叫んだ言葉はずっと溜め込んだ思いでしょう 今 流した涙は 明日のための希望でしょう 

ああ しっている しっている きみはだれよりもしっている ぬいぐるみは汚れても ペンのインクが切れてても 題名だって忘れても 月が欠けてなくなっても 明日見る光は消えやしない 

思い描いた世界まで たどり着ける足音が きみの心にこだまする 明日見る光がよんでいる

189ユメミルセカイ

おわりに

20年、本当にたくさんの方の元へ作品が旅立っていった。

「作品を手放すのは寂しくないのですか?」よく聞かれるが、まったく寂しくない。むしろうれしい。だってぼくの手元にあっても全ての絵を飾ってあげられるわけじゃない。倉庫にしまわれるくらいなら、誰かのもとで大切に飾ってもらえる方が幸せに決まっている。今日もどこかでぼくの絵を眺めてくれている人がいると思うだけで、とても満たされる。

『REMEMBER』という言葉には、繰り返し贈る、という意味があるそうだ。この本を開いたとき、何かを想像し、何かを感じ、受け取ってもらえたらうれしい。もしかしたら、心を通してたくさんの人に伝わるんじゃないだろうか。なんて想像すると世界は少し優しくなる。

絵と生きてきてよかった。

生かしてくれたみなさんに、ありがとうと伝えたい。これから出会うみんなにも前倒しで言いたい。ありがとう。出会ってくれて、ありがとう。

たなかしん


たなかしんベスト作品集『REMEMBER』出版記念展

画像14

場所:阪急うめだ本店 9階アートステージ
会期:2019年11月27日(水)〜12月2日(月)※催し最終日は午後6時終了

ギャラリートーク
11月30日(土)、12月1日(日)両日:午後3時〜3時30分
サイン会
毎日午後1時〜午後6時頃
※休憩等で離席している場合があります。


いいなと思ったら応援しよう!

ライツ社
出版業界を新しくしたい。もっと良くしたい。読者と、書店と、友達のような出版社でありたい。「本ができること」を増やしたい。いただいたサポートは、そのためにできることに活用させていただきます。