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本があるということ。私は障害者施設で働いています。

今回の記事は、栃木県で働くとあるお母さんが寄稿くださいました。

きっかけは一通のメールから。

「本の良さをもっとたくさんの人に伝えたいです。」
「介護福祉士で、仕事は知的障害者の支援です。」

ご返信をする際にこんなお願いをしました。

よければ、働かれている施設の利用者さんたちが、どんなふうに本が読まれているのか、知りたいです。

それから少しずつ、お書きいただいたのが、こちらの文章です。

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本は世界をより広く味わうことを助けてくれる

お話を通じてコミニュケーションができることもあれば、そこから広がる世界もある。本は私たちの可能性を広げてくれる大切なツールだと思っています。そして、本は世界をより深く豊かに味わうことを助けてくれます。それは健常者も知的障害者も変わりません。

私は40代。子ども二人のお母さんです。住んでいるのは栃木県の北のほう。
自然が多くのんびりとした住みやすいところ。そこで 知的障害者の支援をしています。

障害者ってふつうあまり接点がないかもしれません。障害にもいろいろあり。体に障害のある方。精神や知能に障害がある方。生まれつきな人もいれば、人生の途中から障害を持つ人も。
気がつけば地域には障害のある人のための施設がいくつも。身近にこんなに 障害のある方がいたなんて。知らなかった!

週に何度かは図書館へ

私たちの施設では、いろいろな活動をしています。体力を維持するためのウォーキングやストレッチ。自分たちの施設をきれいにするための環境整備。創作活動。食材購入。プールトレーニング。
図書館に行くこともその中のひとつ。本が好きだったり、楽しめる利用者さんを中心に週に数回、図書館へ通います。

「電車の雑誌」で得た知識を披露してくれる

電車が大好きな利用者さんがいました。自閉症です。色が白くて目がくりくりしていて。なぜかいつも、誰にでも敬語。話し方は棒読み。まるでカタログのパンフレットを読んでいるよう。

電車の雑誌を持ってきて、休み時間にはよく眺めていて。

「Iさん、知ってますか?E721系は3種類あるんです」
「0番代、500番代、1000番代の3つです」
「1000番代は、2016年の11月から入りました」
「へ、へぇ~。知らなかった。すごいねー。詳しいね」
「僕はこのあいだ、お父さんと電車を見てきたんです」
「そうなんだ。良かったね」

いつも豊富な知識を披露。たくさんお話してくれました。

「アンパンマン」の擬音に目を光らせる

Yくん。持っているのは知的障害とてんかん。手先が少し不器用だったり、読み書きが難しかったり。話せる言葉の種類も多くはなく。Yくんは男の子らしく戦闘ものが好き。大好きなのはアンパンマン。つねに一人で何かと戦っています。(自分は悪と戦う正義のヒーローに)

図書館へ着くと、まずアンパンマンの絵本コーナーへ。本を手に取り絵を食い入るように見ていて。読んであげると、擬音のところで目がぴかっと光ります。

「どばーん」
「くっそー」
「うわっやられたー」

紙芝居を読んだことも。野菜の運動会のお話でした。じーっと紙芝居に見入っているYくん。終わってから一言。

「楽しいねー」

「工作の本」から夢を探す

Mちゃん。彼女はダウン症です。日本で生まれてくる赤ちゃんの600~700人に1人はダウン症なんだそう。ダウン症は染色体の21番目が3本で1本多いです。普通の人より心も体も成長がゆっくりです。Mちゃんはおしゃべりで明るい性格。愛情豊かで、好きなものがたくさんあります。

図書館に行くと、いつも選ぶのは工作の本。本を見ながら やってみたいこと、作ってみたいことをたくさん話してくれます。

「あのね、ムーミンのクッキーを作ってみたいんだ」
「ムーミン?ムーミン好きだもんね」
「うん。Yさん(Mちゃんが大好きな職員さん)に作ってあげるの!」
「そっか。いいね。がんばってね」
「うん」

また、こんなことも。

「車の運転できるようになりたいの」
「運転できるようになりたいんだ?」
「そうなの。そしていろいろなところに行くんだ」
「行けたらいいね」
「うん」

未来への夢や希望がたくさんあるMちゃん。本をキッカケにお話がたくさん飛び出します。

話せる言葉は少なくても「日本むかし話」が大好き

Hくん。彼はカーペンター症候群っていう、かなり珍しい病気。年齢は20代後半。けれど身長は小学校低学年ほど。知能の発達も たぶん2~3歳くらい。いつもニコニコ。元気いっぱい。明るく無邪気で みんなに親しまれています。
話せる言葉は数語。「ままー」「えびー」「やー!」「はじゅがしー」(恥ずかしい?)送迎の時は車の中で「やー!」だから Hくん、本には興味ないと思っていました。

ところが。あるとき職員の一人がHくんに昔話を。

「むかしむかし
あるところに おじいさんと おばあさんが いました」
「やー!」
「おじいさんは山へしば刈りに。おばあさんは川へせんたくに」
「えびー!」
「ある日 おばあさんが 川へせんたくに行くと川上から大きな桃が どんぶらこっこ どんぶらこっこと 流れてきました!」
「やー!」
「おばあさんは家にその桃を持ち帰り、包丁で切りました。桃は ぱかーんと割れて、中から玉のようなHくんが出てきました!」
「えびえびー!」

それからHくんはお話が大好きに。いまでは絵本片手に職員を追いかけるようになりました。本やお話には興味ないだろうと勝手に思っていたけれど。きっかけがあれば変わるんですね。
職員のたまたまの昔話をきっかけにお話が好きなことがわかって、その後ご家族の話でわかったのは、小さな頃からお話が好きだったそう。「小さいころから寝る前に絵本の読み聞かせしてた」とのこと。勝手に決めつけちゃだめですね。

Hくんがよく持ち歩いている本

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Mちゃんが先日気に入って良く見ていた本

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私たち出版社の人間は、ふだん本を作っていても、本が読まれている光景を目にすることは少ないです。しかし、本を読んでくれる方の声を聞いたとき、驚くほどやる気が湧くものです。

今回も、このお母さんのお話を聞かせていただき、そう思いました。そして、ほかの本に関わる方にもこの話を伝えたいなと思いました。

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創業の夜は雷雨でした
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2016年創業。海とタコと本のまち「兵庫県明石市」の出版社です。writes.right.light「書く力で、まっすぐに、照らす」を合言葉に、ジャンルにとらわれず本をつくっています。 https://linktr.ee/writes_p
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