\ホームレス状態の方々がカメラで街を切り取った写真集 『アイム』発売/ Homedoor事務局長 松本浩美 Interview
ホームレス状態の方々がカメラで街を切り取った写真集 『アイム』が2022年4月28日に発売いたします!
発売に先立ち、写真集制作に関わってきたHomedoor事務局長の松本にインタビューを行いました。
プロフィール
—–2017年からホームレス状態の方々にフィルムカメラを渡し、日常を撮影してもらうという活動を続けてきました。ホームレス状態の方々に写真を撮影してもらおう!というアイディアはどのようなきっかけから生まれ、写真集の出版へとつながったのでしょうか?
広告代理店の若手のクリエーターたちがNPOのポスターを作るという企画にHomedoorが参加したのがきっかけです。その時に来てくださった方々が、ホームレス状態の方々にカメラを渡してみるのはどうか?とご提案くださいました。実際、おもしろい写真がたくさん集まったので、ポスターだけではなく、それをインターネット上で販売してみることになりました。
結果、いろいろなメディアさんから反響をいただきました。ホームレス問題に関心を持っていただけたこと自体とても珍しいことでした。また、通常だとホームレス問題は社会的な記事として取り上げられることが多いのですが、どちらかというと芸術やアートという観点で切り取っての取材が非常に多かったです。ホームレス問題をこれまで以上にさまざまな人たちに関わっていただくきっかけになるのではないかと感じました。
さらに、出版社であるライツ社の方々がとても熱心に関わってくださっています。クラウドファンディングを通じていただいたお金があるので、写真集の印刷代は賄えています。でも、企画に関わるお金の部分はほとんど赤字の状態でライツ社さんはこのプロジェクトを進めてきてくださいました。広告代理店の方も、最初はポスター企画を通してこのプロジェクトに関わってくださってきましたが、今は完全にボランティアでこの写真集の出版を支えてくださっています。こうしたさまざまな方々の熱意に本当に感謝しております。
—–写真を撮影してほしいとお伝えした時、みなさん(ホームレス状態の方々)どのように反応されていましたか?
最初はみなさん、「え?何を撮ったらええの?」という感じで。「別に俺は写真には詳しくないから、ええ写真は撮られへんで」という方がほとんどでした。でも、実際に撮ってみてもらうと、芸術的な写真をたくさん撮られる方、自分が慣れ親しんだ風景の写真を撮られる方、今の自分の生活をありのままに写してくださる方など、本当にさまざまでした。一人一人個性がはっきり写真に出るなと感じました。その人が見たものをそのまま写すということに価値があるのだと感じました。
—–現像された写真をはじめてご覧になったときいかがでしたか?
「あの人がこんな写真を!?」と思いました。撮影者の皆さんがHomedoorでは見せていない一面を垣間見た気がして、とても興味深かったです。写真集には掲載されていないのですが、ずっとお花の写真を撮影されている方などもいらっしゃいました。
—–このプロジェクトをきっかけに、新たにHomedoorとつながりが生まれた方などはいらっしゃいますか?
顕著だったのが、この写真集にも登場されている加藤さんという方です。夜回りで「写真を撮影してくださる方を募集します」というチラシをお渡ししたところ、翌日「昔写真を撮ってたことがあって」とHomedoorにやってきてくれたんです。写真撮影後にも、来てくれる機会が増えました。
その後、HUBchariのお仕事をしてくれるようになりました。Homedoorにはじめて来所された際は、運転免許を失効中だったのですが、HUBchariのお仕事に従事されていく中で、お金を貯めて免許を再取得されました。HUBchariをトラックで再配置する運転の業務を今はしてくれていて、HUBchariになくてはならない存在になりました。また、加藤さんは知り合いもHomedoorに連れてきてくれたのですが、その方はHomedoorは夜回りではお会いできていない方でした。写真撮影を通じて、こうしたつながりも生まれました。
このように、「仕事があるよ」だけでなく「写真が撮れるよ」という切り口があったことによって、Homedoorへの来所のきっかけになったという方もいたという点はとても興味深かったです。
—–写真集作成中、印象に残っているエピソードはありますか?
『アイム』のスリーブケースにもなっている雀の写真などを撮影してくれた方が、植物や動物にとてもお詳しかったことが印象に残っています。
お話を聞いてみると、昔家を建てるための基盤整備の仕事をされていた関係で、この木は切っても問題がないかどうかなど調べることがあったそうで、動植物にはとても詳しいことを知りました。わたしが全く聞いたことがない名前の動植物なども多く撮られていて、「これは夜にしか咲かない花やね」と言っていたことも記憶によく残っています。写真集に載っていますのでぜひ探してみてください。
—–松本さん一押しの写真を教えてください。
まず、朝ご飯のビールとチョコチップパンの写真です。
「普段やったらこんなええビール飲まんけど、写真撮るから見栄張った」と撮影された方がおっしゃっていてかわいいなあと思わず思いました(笑)。また、「なんでこのチョコチップパンを選んだんですか?」と質問したところ、「自分が食べるだけでなく、これなら、鳥に餌としてもあげられるから」とおっしゃっていました。自分以外のことも考えて生活されている点が興味深いなと思いました。
次に、こちらの写真です。
こちらはどこかのマンションの前にあるこどもたちが遊んだりできるスペースです。撮影された方に「なぜこの写真を撮影しましたか?」とお聞きしたところ、「わたし、お家に憧れがあるんです」とおっしゃっていました。この方は写真集のインタビューにも詳細が書かれていますが、さまざまな事情があり野宿をされていた女性の方です。単身での野宿は心配だったので何度かHomedoorからも居宅移行のお話もしましたが、なかなか踏ん切りがつかないようでした。
そんな中でも「家に憧れがある」という発言を、この写真を撮影された際(家を借りていない段階)におっしゃっていたことが印象深かったです。「家」というものに対して、ご本人なりの考えやこだわりがあるんだなと。
(完成した写真集は相談員からも「すごく良い!」と評判でした。)
3枚目は、天王寺にある大阪市立美術館のお写真です。
この方は、Homedoorが夜回りをはじめた2013年から関わってきた方です。少しずつ話をしてくれるようになり、お会いして8年目に「家を借りようかな」と相談に来てくれました。その際に詳しくお話を聞いていくと、親御さんの手術代を借金していたことが大きな原因で野宿生活になったことを知りました。現在、その方はお家を借りられて生活を送られています。
この方に「なぜこの美術館を撮影されたのですか?」とお聞きしたところ、ずいぶん昔にお子さんが美術展の二科展に選ばれたことがあり、ご家族で一緒に展示されている作品を見に行かれた思い出の場所だったことがわかりました。「カメラを渡された時にすぐあそこに行こうと思った」とおっしゃっていて、この写真撮影をきっかけに、ご本人がもう一度思い出に浸れる時間が提供できていたのかなと思いました。
この写真を見てみると、ホームレス状態の方々お一人お一人に家族がいて、思い出があるということがよくわかります。テレビなどを見ていても「ホームレス」という言葉を「人格」や「集団」のように捉えて使っている人がいるなと感じることが多くありますが、決してそう使うべき言葉ではないのだと改めて思いました。
4枚目は炊き出しのおうどんのお写真です。
この写真だけ見ると、どこかの定食屋さんで食べられたものなのかなと捉えられるかもしれないのですが、これは大阪市内の炊き出しで配布されたもの。撮影された方は、これが楽しみでよく食べに行かれているそうです。
撮影された方が、写真集巻末のインタビューでこの写真の背景にある炊き出しのお話について書いてくださっています。一度写真を見ただけだと、「なんだろう、このうどん」と思われるかもしれないのですが、インタビューを読まれた後に、もう一度写真を見ていただきたいです。読者のみなさまにこの写真集の意義について考えていただけると嬉しいです。
—–最後に、この写真集に込めた思いをお願いいたします。
こちらのタイトルは"I am"、「わたしは〜である」の「アイム」です。「この場所を撮ろう」「今この瞬間を撮りたい」と一人一人の方々が意思を持ってつくってくれたものが、この写真集です。
写真集を通して、ホームレスという言葉はあくまで状態を指す一つの言葉であるということを読者の方々に知っていただけたらと思っています。この写真を撮ってくださっている間にも、Homedoorを通して家を新たに借りられた方や仕事を見つけた方も多くいらっしゃいます。そうした「変化」の中で撮影された写真でもあります。撮影者一人一人の人となりやその人が大事にしている価値観、その時何を感じていたのだろうかと考えながら一枚一枚を見ていただければ嬉しいです。
最後にこの写真集の楽しみ方をお伝えします。
まずは前半の写真を見てください。そのあとインタビューを読んでいただき、もう一度写真を見かえします。写真集として、読み物として、そして「アイム」という世界にひとつだけの書籍として、三度楽しむことができます。ぜひご覧になって、感想をSNSなどで書いていただければ嬉しいです。