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ありとあらゆる人の力を借りてでも、こどもたちに、本気のミステリを届けたかった

こんにちは。
ライツ社でこどもの本の編集をしている感応(かんおう)と申します。
 
少し自己紹介をしますと、新卒で大手児童書出版社に入社し関西地方の営業と児童書編集、その後、老舗児童書出版社へ転職しました。2社目では子ども向けの月刊誌や漢字字典、保育者向け専門雑誌・書籍の編集などをしていました。

20年ほど児童書出版社に勤めたのち、2年半前に東京から関西に引っ越して、ライツ社に入りました。

そして、入社以来ずっとワクワクドキドキしながらつくっていた作品が、やっと世に出ました。「人生初のミステリ」がコンセプトの、児童書本格ミステリシリーズ創刊です。

子ども向けなのに大人でも解けない本格ミステリ

知念実希人さん作、Gurin.さんイラスト、坂川朱音さんデザイン、そして大日本印刷のご担当者さん、書店員さん、知り合いの子どもたち、過去に所属していた会社の方々、ライツ社みんなの力を総動員して、全力で作り上げた渾身の1作です。

はじまり

2年半前。

入社したばかりのころ、「知念さんとこどもの本をつくる」というビッグ過ぎるお題を会社から伝えられました。代表の高野が、いつもお世話になっている書店さんから「一緒に絵本をつくっては」と、知念さんを紹介されたとのこと。

このお題をもらった私は、知念さんの書籍を読み、結果、大きく2つの理由で、これは絶対に楽しい企画になる!とワクワクしました。
 
ひとつめ。

知念さんの文章、とってもまっすぐなんです。ど直球です。とにかくまっすぐ。(ミステリクラブと同時期に刊行された『ヨモツイクサ』(双葉社)のようなホラーものまでまっすぐ!)

そして、読者との謎解きただそれだけを、無邪気に心から楽しんでいる。このまっすぐさは、嘘や邪気に敏感なこどもたちの心に、確実に響くと思いました。
 
ふたつめは、知念さん、強火ミステリおたく※なんです。(※ある特定の人物・作品を熱狂的に応援している、愛していること)

知念さんには、『硝子の塔の殺人』(実業之日本社)というミステリ好きによるミステリ好きのためのミステリ作品があります。国内外の名作ミステリへの重たい愛の羅列。重たいんです、ミステリ愛が。好きが溢れかえっているんです。
 
そこで「絵本」の企画を「読み物。小学生向けのミステリ」へと路線変更。知念さんの好きなものをまっすぐに書いてもらうのがきっと全員楽しい。
 
まっすぐなミステリおたく。

これほど「人生初のミステリ」にぴったりの作家さんがいるでしょうか。こどもたちにストレートに響く、おもしろいものにきっとなると思いました。

こどもたちに、本気のミステリを


原稿が来ました。夜中ひとりで部屋で読んで、興奮しました。すごくすごくおもしろかったんです。

登場人物たちが考え、悩み、ワクワクしながらその瞬間を生きている。

人が死んだり痛い目に遭ったりするものがいやで、こどものころミステリが苦手だった自分に贈りたい、やさしいミステリ。
 
探偵役の男の子の考えをたどれば、「推理って何か」「考えるってどういうことか」がわかる「子どもが初めて読むミステリ」なのに、大人でも解けないというところがすごいところ。

「ずっと文芸でやってこられた方が、どうしてこんなにもおもしろいこどもの本が書けるのでしょうか」
 
「これは大人のミステリとまったく同じ手法で書きました。ただ、犯人候補の数を減らしただけです」
 
「へええ」
 
「ただ、キャラクターづくりに非常に苦労しました。魅力あるいいキャラクターたちになったと思っているので、シリーズでやりたいです」

出せば数万部すぐに売れてしまう大人気作家さんが、こどもだましでない本気のミステリを、こどもたちに楽しんでもらおうとしているのです。

そして、シリーズでやってほしいとお願いしていましたが、1巻の原稿とともに「シリーズで」とのお返事も返ってきたのです。

強力な仲間


そこからGurin.さんという明るくキャッチーで躍動感のあるイラストを描くイラストレーターさん、坂川朱音さんという大胆でわくわくするデザインが素敵なデザイナーさん、という強力な方々が一緒にやってくれることになりました。

Gurin.さんのイラストはくるくる動く登場人物の表情が最高


知念さんと、という話が出てからは、小学生の集団社会での姿を学びに月に1〜2回学童保育でパートを始め、元いた会社の方々や書店の児童書担当さん、知り合いのこどもたちに読んでもらってアドバイスをもらい、ありとあらゆる人の力を借りました。

異例のプルーフ重版

「発売2ヶ月前にはプルーフを完成させて書店さんに配ってください」

プルーフ……? ライツ社はプルーフをつくったことがありません。
プルーフとは、書店さんに読んでもらうための簡易に印刷した本です。

元いた会社の人や書店さんに教えてもらいながら、見様見真似でつくりました。

プルーフは、たいてい絵がまだ入っていない簡易のデザインでつくることが多いのですが、ミステリクラブは知念さん初・弊社初の児童書。それもシリーズ。

絶対にコケることができない企画。

書店さんに本気を感じていただくために、本番に限りなく近いものに仕上げました。プルーフなのに、表紙も中面もカラーの豪華版です。ほぼ本番です。

営業マンがなぜかプルーフをアクスタのように扱ってくれて、プルーフとともに撮った各出張先の写真がSNSにアップされました。
 
プルーフは300部刷りました。
ありがたいことに、すぐに無くなりさらに100部印刷。

異例のプルーフ重版です。増し刷り分も最終的にほぼ無くなりました。

プルーフをお送りした多くの書店さんから、ありがたい感想がたくさん届きました。ひとつひとつが励みになって本当にうれしかったです!

いただいたご意見は本番の印刷までに検討の上、反映することもできました。本当にありがとうございました。

感想がうれしくて特設サイトまでつくってしまいました

 読書は楽しい

「読書は楽しい。そのことを子どもに知ってほしい。それがこの作品を書いた最大の目的でした」

プルーフに掲載した知念さんの言葉です。
企画当初、知念さんに聞きました。

「朝読などで読めるように、5分や10分で区切りを着けられるような章立てはできますか?」 

いただいたお返事は以下のようなことでした。

「わたしの作品は、読みだしたらぐいぐい引き込まれて止まらないように書いています。なので、5分や10分で本を閉じられるものにはなりません」 

「授業を始めるから本を閉じなさい!」「もうごはんだからやめなさい!」と、おとなが怒るくらい中毒性のある本になってくれたら最高、そんなワクワクする妄想が止まりません。
 
2年半かかって、やっと「放課後ミステリクラブ」のシリーズが立ち上がりました。

私はこの本が、全国のこどもたちのミステリ好きの扉を開いてくれると信じています。

そしていつか、書店さんの棚をにぎわせてくれると信じています。

この中から、ミステリ作家さんが出てきてくれるかもしれません。

20年、30年と書店さんの棚に置かれるシリーズになってほしい。

私が、小学生のときに出会った「おばけのアッチシリーズ」(ポプラ社)から読書が大好きになって、児童書の編集者になったように、読んでくれたこどもたちの一生の宝になりますように。
 
2巻『雪のミステリーサークル事件』は今年の冬に、3巻『動くカメの銅像事件』は来年の春に出ます。もう3巻の原稿までいただいています。これまたおもしろいのでお楽しみに!
 
みなさま、『放課後ミステリクラブ』シリーズを、どうか末永くよろしくお願いいたします。


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