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本のカテゴリでおもちゃの棚を再構築したらすごいお店になった話 「こどもto」@大阪

4月17日、ららぽーと門真(大阪)にオープンした「MIZUSHIMA Select Books & Select Goods + こどもto」。

「こどもto」とは、大阪水嶋書房の新業態で、こどもの好奇心を刺激し、遊びながら学べるサイエンスや知育のグッズを扱うお店のこと。

おもちゃコーナーが併設してるだけ? いえいえ、大人がみてもワクワクして遊びたくなってしまうものがたくさんあるんです。

しかも、すべてが本のカテゴリで分けられているので、一度ハマればその分野にどこまでも突き進んでしまえる、ある意味沼のようなお店。

さらに、この新しいスタイルは他の地方書店への提案を視野に入れ、パッケージ化をすすめているそう。

立ち上げを担当した原さんにお店を案内してもらいました。

原 聡美(はら さとみ)
大阪水嶋書房「こどもto推進部」係長。ららぽーと門真店、ニトリモール枚方店の店長を兼任。ハマっていることは、ご当地B級グルメを食して、それを再現調理すること。

「こどもto」は、1号店が2022年11月にららぽーと堺にオープン。書店と併設したコラボ型店舗は今回が初めての取り組み。


不思議さを、実際に体感して

ー:どんなものが人気なんですか?

原さん:うちの人気商品ってわりとお父さんが引っかかるものが多いんですよね。大人もさわってみたくなるもの。

ー:たしかに、さっきからこれが気になってて。

ボールがエンドレスに転がっていく、「ウッドパズル コースター」

原さん:これはすごく売れるんですよね。だいたい、幼稚園の年長さんとか小学校1年生くらいの男の子がいるお父さんが、「俺いっしょに作ったるから。あいつも喜びそうやし」っていって買っていくんです。絶対お父さんが夢中になるでしょうって感じで(笑)

お店のいちばん前に陳列されたサイエンス系の商品。
もともとは運動量保存則と力学的エネルギー保存則の実演のために作られた装置

原さん:これも「ニュートンのゆりかご」って昔からあるものなんですが、お子さんは、「なんで1個動かしたら反対側も1個だけ動くんやろ、2個動かしたら2個動くんやろ」って、これが不思議なんですよ。この不思議さを実際に体感してもらって。これも買われる方が多いです。

裏からピンに物体を押しつけるとその形が飛び出す「ピンアート」

原さん:あとこれも人気です。こっち側に出てるピンを押すと、向こう側に手の形で出るんですよね。これで顔の形を出したりとか、単純なようでいて、自分で工夫して、いろんなことをしていくんですよね。こどもたちが夢中になってて、最終的にお母さんが根負けして買っていくのを見かけます。

磁石の反発力で宙に浮くコマ「マグネティックレビテーター」

原さん:これはコマが浮いていて、ちょっとさわると回るんですが、よくお子さんがお父さんに「なんで浮いてるの?」と聞いてて。「磁石やで」「くっつくんじゃないの? なんで?」って興味を持って説明を聞いてくれるから、 そこでまた、コミュニケーションが生まれるんです。

きっかけはショッピングモールへの出店

ー:いやー、おもしろいものがたくさんありますね。

原さん:お店全体の売り場面積が200坪あるんですが、その中の3分の1を「児童書」が占めているんです。

ー:けっこう広いですね。そもそも、なぜこんな売り場になったんですか?

原さん:出店場所はアウトレットもあるショッピングモールの中なので、客層は若いファミリー層が多いです。小さなお子さんのいる家庭が多いとおもうので、だったら書店さんもその客層を中心にした本屋さんにして欲しいと施設側からの要望があったんです。

ー:たしかに、高確率で家族連れの方ですね。

原さん:でも、本だけでやるよりは、なにかおもしろいことがしたいというおもいがあったんですね。本ってなんにでも相性がよくて、すべての分野に通じるんです。

ー:そうですね、関連する本が絶対ある。

原さん:そして、書店ってお客さんからの信頼がものすごくあるんです。本屋さんで売っているものだから大丈夫という安心感があります。そこで、要望にも答えていこうとしたらやっぱり「教育」なのではないかと考えました。

ー:書店で教育というと、ドリルとかがおもい浮かんじゃいますけど。

原さん:ガチガチの教育ではなくて、遊びながら学べる、まさにこの売り場のような、こういうのが作れないかなと考えました。

「こどもto」中央にそびえる知育グッズたち。

本のカテゴリでおもちゃを再構築すると

ー:実際の売り場の工夫ってどんなものがあるんですか?

原さん:通常ならおもちゃの棚って「パズル」とか「ブロック」とかおもちゃの種類で分けられていますよね。でも、うちは本のカテゴリで「科学・実験」とか「生物」とか「音楽」といった分類にしているんです。

ー:なるほど。本のカテゴリで再構築するとそのまま学びにつながりそう。

原さん:だから、実際に手を動かして学べるような実験キットや工作キットも充実させました。

スマホに取り付けて撮影までできる「ハンディ顕微鏡DX」。こども用もあるが、この大人向けの上位モデルの方が売れているそう。

原さん:なにか自分の興味を刺激されるものがあって、そこからなにかが発展していくかもしれない。 こどもだからこども用品だけ触ってもらうんじゃなくて、むずかしいけどこんなのやりたいと思って、最初はできなくてもだんだんできるようになる。その段階をここで踏めたらなって。

ー:そのうち親の知らないことまで詳しくなるかもしれないですね。博士ちゃんみたいな。

原さん:そうですね、とんでもない子になるかもしれない。

コミュニケーションも必要だし、問題をどう解決するかも大事

ー:遊びながら教育っていうのがお店のコンセプトの「絵本」「知育」「サイエンス」につながるんですか。

原さん:そうなんですよ。「絵本」と「知育」と「サイエンス」って、こどもに必要な要素が、ぜんぶ詰まってるんです。この3つは対象年齢も違うんですよ。

ー:そうなんですね。

原さん: 絵本と知育っていうのは、だいたい0歳から小学生にあがる前の子に対しての、絵本の読み聞かせや知育玩具など。あれで培われるのは、非認知能力という、目に見えない、数字ではかれないような、人とのコミュニケーションや、相手をおもう能力なんですね。

ー:人をおもいやる力。

原さん:そこから小学校に上がって、伸びるのは認知能力という数字ではかれる能力なんですよ。なにか問題が起きた時にどう解決するか、先を読んでどういう風にやったら早いのか。そういう能力が認知能力なんですね。

ー:なるほど。

原さん:相手のことをおもったりコミュニケーションも必要だし、問題をどう解決するかも大事。その両方を、兼ね備えたお店にしたいなとおもったら、絵本と知育とサイエンスなんです。

ー:そこまで考えての構成なんですね。

こども一人当たりにかける金額は上がっている

ー:新しいことを実現するのは大変だったんじゃないですか?

原さん:実は社内でも会社の会議では「新しいことせんとあかんな」という話があがっていたところでした。きっかけとして、堺と門真のショッピングモールのお話をいただいたんです。そこで私が社内に「こどもto」を提案したんですが、本当にのるかそるかわからない提案だったので、最初は経営サイドはけんもほろろでしたよ。「絵本」「知育」「サイエンス」が本に合うわけない。売れるかってね。

ー:おお、ちなみに利益率は本単体よりはいいのでしょうか?

原さん:はい、利益率としては本よりはいいですよ。それでいうんだったら革とかアパレルの方がいいんですが、コロナ後にアパレル関係ってものすごくやられてしまったんです。それはアパレル業界全体がネットにすごい勢いでとられてしまってるんですね。だから同じタイミングでもう一本柱になる事業はないかという話は出てました。

ー:その中で、なぜこどもが注目されたのでしょうか?

原さん:いまは一人のこどもに対して、おとうさんおかあさん、おじいちゃんおばあちゃん、おじさんおばさんとか。みんなが祝福して、みんなプレゼントしてくれるんです。こども一人当たりにかける金額って少子化になって上がってるとおもいます。

ー:なるほど、言われてみればうちもそうかも。

原さん:はい、これも世の中にいえることで、いままで見学の受け入れをしてこなかった工場がこども向けに工場見学をはじめますとか、少子化の子供にどうやって絡めていくかというのは考えているとおもいます。

絵本グッズ屋さんにはしたくなかった

ー:そこから実際の出店に向けてなにを考えたんですか?

原さん:最初に出たアイデアは、絵本グッズ屋さんを入れることでしたが、私は反対しました。

ー:どうして反対されたんですか?

原さん:絵本グッズ屋さんが悪いんじゃなくて、絵本グッズだけだったら、家族の半分をそぎ落としてしまうと考えたんです。女の子とお母さんは楽しいって言うかもしれないけど、男の子とお父さんは(好きな人もいますけど)大半がおもしろくないとおもってしまうんじゃないかなと。

ー:たしかに、そこで男の子とお父さんは別のお店にいっちゃいますね。

原さん:お父さんもお母さんも、男の子と女の子も、おっきい子もちっちゃい子も、みんながお店の中で行き交えるようにって、そういうイメージがあったんですね。こどもって中学生ぐらいになったら、一緒に出かけたりしなくなるじゃないですか。みんなで家族一緒に、おでかけできる時間って少ないのでね。いろいろ楽しんでもらいたいなとおもいます。

絵本やグッズ、知育おもちゃが隣接し合い、いったりきたりして楽しめる。

地方書店に向けてパッケージ化

ー:今後の動きみたいなものって構想はあるんでしょうか?

原さん:書店の中にこういう売り場があると、お客さんや商品はどういう動きをするのかとか、書店とコラボしたら書店側も来客者数が増えるといったことをデータとして収集し、他の書店にも提案して広めてみたいと考えています。

ー:どんな書店かイメージはありますか?

原さん:売り場はあるけど、なにで売り上げをとっていくべきか悩んでいる、という書店さんは多いはずです。 大手の書店さんではなくて、例えば私たちみたいな地方の書店とか、郊外の駐車場があるような書店とか。そこに、いろんなパッケージとして展開できる提案をしたいんです。

ー:どんな提案をしていく予定ですか?

原さん:例えば、10坪くらいのスペースがある場合には、それに合った展開方法を提案します。自分の店舗でデータを蓄積する必要があるのですが、これぐらいの広さだったら、こんな展開で、これぐらいの売上が見込めるだろうという情報を提供したいです。

ー:自店でデータを取って広げていくんですね。

原さん:そうです。私たち自身も苦しい状況に立たされているので、他の書店さんも同様な課題を抱えていることを理解しています。書店がただ本を扱う場所ではなく、リアル店舗ならではの魅力や体験を提供することで、本を買いに来てくれるお客さんを増やせる可能性があると信じています。

ー:これからの動きがますます楽しみになりました。ありがとうございました。

原さん:ありがとうございました。


「本はなんにでもつながれる、書店ならではの信頼感がある」という書店の強みと「家族で楽しめるお店に」という原さんのエネルギーががっちりはまっているなと感じました。
地方にいる身としては、こうした新しい取り組みの書店が都市部だけでなく地方にも増えてくれるとありがたい。どんどん広まってほしいと思いました。
というわけで、気になった方はどんどん遊びに行ってほしいし、ご興味のある書店さんはぜひ原さんにご連絡してみてください。

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