「自分の本屋を開きたい!でもわからない!」「一冊!取引所って知ってる?」
独立系書店や独立系出版社が注目を集めていますが「いつか自分でも!」と思ったことはありませんか? でもそんな時どうしたらいいのか、特に本の取引って難しそうですよね。
そこでご紹介したいのが「一冊!取引所」。
「一冊!取引所」は「書店と出版社をつなぐ、クラウド型受発注プラットフォーム」として2020年にスタートしました。名前のとおり一冊からの取引も可能。書店と出版社が集まっているので、そもそもどんな取引のパターンがあるのかを知るのにもおすすめのサービスです。
参加書店一覧のページ。行ってみたい本屋さんがたくさん!
独立系書店や独立系出版社を中心に、参加書店は750店以上、出版社も75社以上が参加し、日々新しい取引が生まれています。そもそも、ちいさな書店や出版社が取引先とつながるきっかけってあんまりない。そのきっかけづくりや受発注を一箇所でできるようにしよう!とはじまったのがこのサービス。
今回は運営会社のカランタから、代表の蓑原さんと運営担当の渡辺さんに、サービス設立の経緯や活用例などをおききました。
●カランタ メンバープロフィール
蓑原 大祐(みのはら だいすけ)
カランタ代表。WEBデザイン、デジタルコンテンツ制作会社・ディーエスケープロダクション合同会社の代表でもあり、ミシマ社、株式会社CICACと合同出資でカランタを立ち上げる。ミシマ社の代表・三島邦弘さんと両社の創業当初にシェアオフィスをしていたことから同社のWEB制作も担当。
渡辺 佑一(わたなべ ゆういち)
カランタサービス運営チームマネジャー。トーハン勤務後、2007年よりミシマ社の営業チームリーダーとして活躍。2020年よりカランタに移籍し、営業や普及活動を担当。
今氏 一路(いまうじ かずみち)
カランタの最高技術責任者兼エンジニアで取締役の一人。IoTプロダクト、アプリ、システム開発などを手がける株式会社CICACの代表でもある。
三島 邦弘(みしま くにひろ)
出版社のミシマ社代表。「一冊!取引所」発起人のひとりで、カランタの取締役。肩書は最高戦略責任者。著書に『パルプ・ノンフィクション』(河出書房新社)など。
業界のハードルを下げたい
―そもそもなんですが、「一冊!取引所」をはじめた経緯をお聞きしていいですか?
蓑原:共に出資したミシマ社代表の三島とは15年来の知り合いで、ひとり出版社だったころから関わってきました。
彼から出版業界のことをよく聞いているなかで「何か力になれたらな」って思うこともあって。そんななか、2年前くらいに彼が「自社のシステムを作りたい」と言い出したんです。内容は1件ずつ人の手で行なっていた会計や取引の円滑化だったんですけど、「この状況は、きっと(取次さんを通していない直接取引の)出版社みんなが困っているんじゃないか?」って思ったのがきっかけです。
―社内システムの話から広がったんですね。
蓑原:そうですね。そこで「みんなが使えるものを作った方が良いのでは」という話を提案しました。あと弊社エンジニアの今氏を交え話している中で「取引する場も作ろう」という話になったんです。
―というと?
蓑原:出版社を立ち上げるときって、どうやって取引を広げるかが大きな課題で。そのハードルを下げることで「本を作りたい!」と思う人も増えるんじゃないかと思いました。また、書店さんにしても、一括で情報を手に入れて発注するというサイトを作ったら時間の短縮にもなるな、と。
はじめは、ミシマ社の三島、エンジニアの今氏、私のいずれかの会社で始めようかとも思っていました。ただこのシステムを提案することで、業界の何かが変わるんじゃないかという意気込みで、三社の合同出資でカランタを立ち上げ、スタートさせることにしました。
大動脈と毛細血管?
ーミシマ社のブログ内で三島さんが「一冊!取引所」を毛細血管のようなものと表現していたのが印象的でした。そもそもみなさんが何をつないでいこうとしているのかを教えて頂けますか?
渡辺:血管の例えで言うと、大動脈は大きい取次会社の流通と、そこと取引のあるチェーン書店やネットストアが担っています。ただ「最近本屋を始めました」という個人の方が、その大動脈と出会うためには、相手の求める規模に見合うくらいのビジネススケールが必要ですが、始めたばかりのころって、少しずつ進めていかなければいけないし、そもそも大動脈側も小さいビジネススケールには対応が難しいというのが現状なんです。
その一方で、出版社の方から「新しく本屋を始めた方々にも自社の本を知ってもらいたいが、どうしたら良いのかが分からない」という話を聞きました。「一冊!取引所」はそういった書店とつながれるきっかけになることを期待しています。
ーなるほど。
渡辺:また大動脈である大きい書店側の方々も、売る人であると同時に読む人でもあり、「自分が読みたいと思った本を仕入れて売りたい」という想いがあります。ただ、たくさんある出版社のホームページをひとつずつ調べて、やり取りをする余裕はない。そんなときにスマホでも使える「一冊!取引所」を空いた時間に見てもらうことで、スタイルの違った様々な出版社の新しい本を発見することができる。
出版社と書店の双方にとって出会いのマッチングサイトをイメージしてもらえると面白いかもしれないです!
―マッチングサイト!わかりやすいです。
蓑原:今までも各社が“点”で何かをしようと思っていました。その“点”をつないでいくような形で、毛細血管のように広がるといいなと思っています。
「一冊!取引所」内の「本を探す」から出版社を選べば登録書籍がずらっとでてきます。
開業準備中だけど、どうしたらいいかわからない!
ーこれから本屋や出版社を立ち上げたい、立ち上げたという人たちに「一冊!取引所」ができることってどんなことでしょうか?
蓑原:先日「一冊!取引所」とは? のページ内容に「開業されたい方へ」という項目を追加しました。どうしたらいいかわからない、という悩みがございましたら我々にお問い合わせください。
ー無償でアドバイスしてくれるんですね!
渡辺:「新しい書店が街に増えたらうれしい。新しい出版社の本が多くのみなさまに届けられたらうれしい」という思いで追加しました。
ーこういうのって本を読んだり調べるだけじゃわからないことがたくさんありますよね。
渡辺:例えば、どんな取次があるのかといったようなことでも、なかなか最初はわかりにくく、ポイントがつかみにくいと思います。出版流通は外から見るとブラックボックスなので……。なにがポイントなのかは、やりたいことによってケースバイケースだと思いますので、気軽に聞いてもらえれば。
直接取引の指南も
渡辺:これから本屋を開こうという方には、各出版社がどのような条件で取引に応じてくれるか(または取引できないか)を調べるツールとしても「一冊!取引所」は便利です。
蓑原:とくに直取引をしようと思っている方向けに、このあいだ、「一冊!取引所」のYouTubeチャンネルで「直取引のはじめかた」を解説しましたよね。渡辺がスライドを用意して。
ーこれもすごい親切ですね。やはりそういう問い合わせもあったんですか?
渡辺:そうですね。それにお答えする形で配信させていただきました。詳しくはYouTubeをぜひご覧いただきたいのですが、書店さん側のメリットは、出版社の情報収集やお問い合わせまでをシステム内で完結できること。出版社側で取引OKとなれば、そこから継続的な関係が生まれ、以降はクリック操作だけで簡単に発注ができて、出版社から返事ももらえる。
―やっぱり出版社のHPを一つずつ見るのは大変ですよね。これならいろんな出版社と血の通ったやりとりができると。
渡辺:そうなんです。書店の方からは「一冊!取引所を使ったことで、はじめてこの出版社を知りました」というお声もいただきました。あと、YouTubeチャンネルでは、出版社の方をゲストにお招きして、本づくりの思いを伺うこともしているのですが、書店さんが配信を見てくれて新規取引につながったケースもあります。
蓑原:ほかにも、チャットで盛り上がって本のパネル展が決まったとか。その書店の方も「一冊!取引所がきっかけでその本を知った」と教えてくれて。うれしかったです。
出版社にとっては新規開拓に
渡辺:先日、出版社の「スタンド・ブックス」の方が、システムを利用したことで直取引の書店が増えたと言っていました。私からすると「スタンド・ブックス」は直取引にも柔軟に対応する出版社さんで、既にこういった取引があると思っていたんです。でも「直取引はやっていたが、システムを使うことでさらに活性化した。今までは個別メールのやり取りが中心だった新規取引店の開拓に、分かりやすい窓口が出来たのは大きい」と言って頂いたことが、本当にうれしかった。
―このサービスによって「スタンド・ブックス」さんの直取引の間口が大きく開いた?
渡辺:そうですね。先ほど「毛細血管という言葉が印象的だった」と言ってくださいましたが、そういった細い所でもちゃんと血の通ったやりとりが届くシステムに育ちつつある。こういう声をもっと増やしていきたいです。
これから「居場所」をつくるみなさんに
渡辺:これから本屋を開くというのは、まずは商売第一だとしても、「場づくりをはじめる」という側面もあると思います。そういう場が小さくとも全国にポツポツと立ち上がりつつある今、その場に足を運ぶ読者がいるということにまで、出版社の側もちゃんと思いを寄せていけるかどうか。お互いを理解しようとする、そんな関係性を築けるか? というのは、けっこう大きいことじゃないかと私は思うんです。
―お互いを理解しようとする関係性。
渡辺:はい。完全に理解できるかは別として、ちゃんと同じ方向を向いている安心感とでもいいますか……。「一冊!取引所」は、単なる受発注システムではなく、そういう関係性を築ける場でもあると、書店さんには知ってほしいです。
蓑原:書店さんには無料で使えるようにしたので、まずは気楽に使ってみて、そこからなにかを感じ取ってもらえたら嬉しいです。
“取り次ぐ”という仕事の価値
―ユーザーの声を形にする上で、渡辺さんの取次やミシマ社での経験が発揮されていると感じています。
渡辺:最初、取次のトーハンで、7年間勤めていましたが、最初の3年ぐらいは言われた事もちゃんと出来なくて、周りの人に温かく見守ってもらいどうにか続けることができました。その後、北陸支店に転勤したのですが、支店に行ったとき会社の仕組みがどのようになっているのか、ババババッて見えた瞬間があったんですよ。
―今までやってきたことが整理された感じですか?
渡辺:外に出て振り返ってみると初めて全体像が掴めることってあると思うんです。トーハンという会社の力学みたいなものを、支店に異動した時に理解しました。次にミシマ社に入った時にも同じようなことがあり、その後カランタに来たときにも改めてミシマ社でやってきたことを感じたんです。そういう気付きの部分を、これからの未来が豊かになるところに使っていきたいと思いました。
振り返ると自分は「取次人」なんだなっていう感覚があるんですよ。本が好きで流通や出版の世界に長く関わってきたので、自分の職業人としての本質は“取り次ぐ”ということにあると思っています。形は少し変わりましたが、「一冊!取引所」の運営としてやっていることも取次人としての延長にあるなっていう感覚がすごくあります。
―それってどういう感覚ですか?
渡辺:流通って結構味気ないものに見えるかもしれないけれど、熱い思いを持ってやっている人もたくさんいる。作り手の情熱と同じく、届ける情熱をプラスさせて読者に届くようにしていきたいと思っています。流通のところで1回熱が下がる感覚を持たれてしまうのって“取次あるある”みたいな感じじゃないですか? だけど取り次ぐことで高まる部分もあると思っているので、自分のキャラクターを出しながらいいものにしていきたいです。
―そうですね。「一冊!取引所」という名前に、「この一冊を届けたい」という想いがあることを、改めて感じました。
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「つくる」「うる」「とどける」どの分野でも意思を持って頑張っている人がいて、本が手元に届くまでにいろんなドラマがあるなと、今回の話を聞いて感じました。
これから書店や出版社をはじめようと計画中の方はぜひ下のリンクからサイトをのぞいてみてください。わからないことがあれば、問い合わせをしてみてください。次のステップが見つかると思います。
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