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「ミシマ社営業部vsライツ社営業部」 話題の出版社の営業手法

1.「ミシマ社営業部vsライツ社営業部」 話題の出版社の営業手法
2.書店営業を実演してお見せします!(ミシマ社&ライツ社)
3.ミシマ社とライツ社の営業が何でも答えます。会場からの質疑応答

大阪の森ノ宮という町に「まちライブラリー@もりのみやキューズモール」というスペースがあります。

ここは、置いてある本はすべて一般の方からの寄贈で集まっている「みんなでつくっていく図書館」。本のうしろには「感想カード」がついています。最初に「なぜこの本を寄贈したのか」という一言が書かれて、そのあとは次に借りた方が感想を連ねていけるようになっているのが特徴です。

ここで定期的に開かれているイベントが、シリーズ「本をつくるってこういうこと」。そしてこのたび、その中でも珍しい「出版営業」に関するイベントが開かれました。題して、

出版社の花形といえば「編集」だけど「営業」の話も聞いてみたい! という主催者のニッチな声にお答えして、ミシマ社の営業・渡辺さんとライツ社の営業・高野が伺いました。内容は、

・トークライブ
・書店営業の実演
・本の手売り合戦

そして、最終的にどっちがたくさん本を売ったか勝負、という対決をしたそう。その模様をお届けします。

知っていた方がこの対談がよくわかる!
ミシマ社とライツ社の共通点と違うところ
<共通点>
・少人数(ミ:11名、ラ:4名)
・新刊点数が少ない(ミ:年間約12冊、ラ:年間約7冊)
・地方にある(ミ:京都、ラ:兵庫)
<違うところ>
・ミ:書店と直接取引、ラ:取次経由
※ちなみにミシマ社とライツ社は10年違い
ミシマ社は2006年創業でライツ社は2016年創業です

(プロフィール)
渡辺 佑一(わたなべ ゆういち)ミシマ社 営業チーム・リーダー
1976年、埼玉県生まれ。2000年、株式会社トーハンに入社し、特販部と北陸支店で7年間勤務。2007年同社を退社し、設立して半年の株式会社ミシマ社に最初の社員として入社。代表の三島邦弘とともに、ミシマ社の営業スタイル「直取引営業」を構築。現在13期目を奮闘中。おしゃべり大好き。各地の書店にディープなファンを抱える名物営業です。

(プロフィール)
高野 翔(たかの しょう) ライツ社 代表取締役副社長/営業責任者
1983年、福井県生まれ。京都の出版社で営業マネジャーを務めたのち、2016年に兵庫県明石市でライツ社を立ち上げる。ライツ社では営業(47都道府県)を一人で担当し、これまでに出版した全書籍の重版率は7割を超える。現在3期目。おっちょこちょい。「相手の想像力」のおかげでなんとかやっているタイプの営業です。

高野 こんばんは。ライツ社の高野です。

渡辺 ミシマ社の渡辺と申します。

高野 満員ですね…。こんなに多くの方が参加していただけると思っていなかったので、ちょっと意味がわからない気持ちでいっぱいなんですけど、出版業界以外の方っていらっしゃいますでしょうか。

会場 (一斉に手を上げる)

高野 いらっしゃるんですね。超多いですね。どういうお気持ちで参加しているんですか。いや、そもそも出版営業ってめっちゃニッチなんで、編集とか、著者だったらわかるんですけど…。

渡辺 今日はどういった理由で?

観客A ミシマ社さんに以前から興味があったので。

渡辺 ありがとうございます。

高野 ちなみにライツ社って知っています?

観客A 初めて知りました。

高野 今日はありがとうございます。今日はファンになって帰ってもらえれば。

渡辺 (笑)こういう機会、読者との接点をつくるのも営業の一つ役割かな、と思います。たぶん彼は、このあとライツ社のすごい話を聞かせてくれるでしょう。

高野 丸投げじゃないですか。

渡辺 楽しみです。

高野 なかなか、どういう方が来てくださるのか(イメージするのが)難しかったので、僕は「入社1年目のときの自分(書店営業)に向けて話したら役に立つな、とか、おもしろいな」っていう話を考えてきましたので、よろしくお願いします。

じゃあ自己紹介を。渡辺さんから。

渡辺 ミシマ社は、2006年の秋に創業しました。三島邦弘という編集者、創業したときは31歳だったと思います。1975年生まれの編集者が「ひとり出版社」(※)を立ち上げました。

(※)社員数が一人の出版社。意外と多い

そしてわたしは、このときは取次(※)にいました。本の問屋さんですね。当時は北陸支店で働いていて、もともと三島とは知り合いでも何でもなかったんですが、自分の一つ上の年齢の人が出版社をつくったらしい、というのを知って、メールを送ったんですね。応援していますって。普段はそういうことやらないんですけど、ちょっと気になったので。

(※)本の問屋。書店に本を送品する物流、書店への請求などの金融を担う。

そうしたら三島から、当時、小松(石川県)にご両親が住んでいらっしゃって、年の暮れに帰省するので会えませんか、という流れになったんです。そのときに本をつくる人の「パッション」みたいなものを初めて体験しまして。

高野 パッション。

渡辺 出版社の営業の知り合いはたくさんいたんですけれども、本をつくる人の情熱に初めて触れて、一緒に働けたらな、なんて。ちょうど、ミシマ社も営業が必要だっていうタイミングと重なって、募集に応募して入社しました。今、ミシマ社は13期目なんですけれども、僕は会社ができて半年後に入りました。

入ってすぐに着手したのは、書店との直接取引営業(※)の立ち上げです。そこから関わって、ずっと営業一筋でやっています。

(※)取次を介さず、直接、出版社と書店が取引をすること。メリット:出版社&書店の取り分が増える デメリット:両者の業務が増える

趣味は将棋ですね。将棋、お好きな方がいたら、ちょっとこの後。

進行役 またでお願いします。

渡辺 はい。すみません(笑)

高野 ライツ社の高野といいます。営業をしていまして、ライツ社は、兵庫県明石市で3年前に設立した出版社です。今は4人でやっていまして、編集2人、事務1人で、営業が僕1人。なんで僕が47都道府県すべてを担当しています。

ミシマ社との違いで言えば、取次経由の出版社です。取次は、簡単にいうと本の問屋で、書店と出版社の間で本の送品だったり、請求などのお金の面だったりをやってくれるところです。

営業の手法が直接取引と取次経由ではちょっと違うので、そのあたりを紹介したあと、実際に両者が書店でどういうふうに営業をしているのか実演したいと思っています。でも、渡辺さんがめちゃくちゃ嫌がられていました。

渡辺 僕は、実演あんまりしたくないんで、ちょっと話を引っ張りたいんですけども。

高野 いや。

渡辺 なんで、明石でやっているんですか。ライツ社って。

高野 めっちゃ引っ張るじゃないですか。

渡辺 ライツ社さんは、何年でしたっけ。創業。

高野 2016年の9月ですね。

渡辺 なんかご縁があったんですか。

高野 大塚(代表取締役/編集長)が明石出身で、僕も大学からずっと大阪、神戸、京都で。関西好きで。関西でやりたいなと思っていたんです。たまたまなんですが、大塚の祖父の古いビルがありまして。

僕と大塚は京都の出版社にいて引っ越さないといけなかったんですけど、ちょうどビルの1階はテナントとして空いている、プラス上の階に住居が2部屋空いていて、これはちょうどいいなっていうのと、その年に明石の市長が「本のまち」っていうフレーズを売り出していたのでタイミングいいなと思いまして。融資も受けられそうだな、という。

渡辺 なるほど。わかりやすい。大塚さんが、前の出版社で編集をやってて、高野さんは営業をやっていた。そのとき、メンバーって何人ぐらいいたんですか?

高野 8人ぐらいですね。

渡辺 けっこうですね。

高野 今の2倍ですね。いろんな経験ができました。

渡辺 ミシマ社は、東京の自由が丘で創業して、東日本大震災のタイミングで京都の城陽市に避難して、それがご縁で京都にもオフィスを構えることになって。

高野 もうおそろしいのが、僕レジュメつくってきたんですけど、打ち合わせ一切無視していますね。まだまったく本題に入れてないっていう。

渡辺 そうですね。

高野 転職の話で終わってしまいます。

渡辺 高野さんは営業希望だったんですか?

高野 そうですね。もともと出版社に入りたいなと思ったんですけど、そこで初めて出版営業っていうのがあるんだって知って。

出版業界っていう仕事の中には、編集っていう本をつくる人がいて、書店員っていう本を売る人がいて、著者がいるっていうのはわかっていたんですけど、営業してる人もいるんや、と知って。本はつくれないし、書店はエントリーシートですごく落ちていたし、自分のいちばん得意なところで仕事したいな、と思ったので。

渡辺 書店員にもなれたらなっていう気持ちもあったんですか。

高野 そうですね。でも全然ダメだったので。

渡辺 なるほど。僕もダメだったんです。

高野 そうなんですね。

渡辺 かすりもしなかったですね。

高野 ちょっと強引に戻しますけど、出版営業の話に。

渡辺 そうでした。

本屋さんに並んでいる本は、出版社に「発注」して本屋さんが意思を持って仕入れる場合と、取次から「委託配本(※)」されて自動的に届くっていう場合があるんです。

(※)出版社が注文を取ってきた以外の店舗に対して取次が自動的に送品すること

本屋さんには、店に何を置くかは、できるだけ自分たちで決めたい、という思いがあります。

そこに営業が、つくり手がこういう思いでつくったんです、とか、この本はテレビに出る予定が決まっているんですよ、とか、いろんなことを絡めて伝えて、販売の現場の方と一緒に、より読者に手に取ってもらう形をつくる。

高野 そうですね。3分の1ぐらいは、営業が手を掛けて置いてもらってるみたいな感じじゃないですかね。いちばんわかりやすい例は、紀伊國屋書店梅田本店っていうお店があれば、そこに直接、僕たち営業が個店舗営業に行って本を案内する、という形です。

渡辺 そうですね。

高野 で、紀伊國屋書店梅田本店だったら、たくさん営業が来るとは思いますけど、ほかの地方だったらどこまで直接行けるのか(遠かったり効率が悪すぎたり)、みたいな話になるんです。

そういう場合は、紀伊國屋さんの本部、東京にあるんですけど、そこに直接行くかメールか電話かで案内する、本部営業っていうのがあります。本部で一括で発注してもらって、そこから個店舗に届く、という流れですね。

もう一つが、取次営業。委託配本分の交渉ですね。大きく分けると3つです。

渡辺 はい。で、ミシマ社は書店と直接取引をしているので、取次営業がないです。

高野 前提を共有できたので、このまま、まずはライツ社の営業手法について話していきますね。

僕は、1人で全部営業しています。書店さんの数って実店舗だと8,000店ぐらいあるんですけど、全部行っているのかというと、全然そんなことはないです。1人なので、できることはすごく限られている。なので基本的なモットーとしては、最大限効率を上げて、最大の効果を発揮する、みたいな感じでやっています。

渡辺 本はどのくらい刷ってますか?

高野 ライツ社で言うと、初版(※)は平均7,000部ぐらいです。幅で言うと4,000部から1万2000部ぐらいまでは刷ったことがあります。

(※)最初に刷る部数(⇔重版)

まず初版の時点で、個店舗に直接行くのは30店舗ぐらいですね。47都道府県ありますけど、極端に言うと東京20大阪10みたいな感じです。福岡と名古屋にも可能であれば行きます。やっぱり大都市に旗艦店はあるし、売れるので行きます。

初版に関してはめちゃめちゃ売上額がでかい書店で、大きな展開をつくって、そこで重版(※)時に他店へ案内するときの実績になる異常値を出そう、という狙いです。

(※)売れ行きがいい書籍を刷り増すこと。重版した書籍は売れていると見なされる

渡辺 異常値。

高野 そうですね。たとえば紀伊國屋さんだったら、初版でまずは梅田本店と新宿本店で異常に売れている、という実績をつくる。

渡辺 そしたら紀伊國屋さんのほかの50〜60店舗ぐらいに…。

高野 そうです。波及していくということです。もっと全国に足を運んで、とにかくいろんな店舗で大きな展開をつくってもらうという方法もありますが、初版の場合、返品(※)のリスクが上がるので。

(※)書籍は基本的にいつでも返品できる

ということで、直接行って大型展開を狙う個店舗営業は、旗艦店に絞っています。そこに本部営業を組み合わせて注文をとっていくと、(初版分が置かれる書店は)800から900店舗くらいになります。

最後に、取次に依頼する委託配本は基本的にすごく少ないですが、多くて100店舗くらい。なんで、だいたいいつも初版で1,000店舗くらいに本を納品してますね。

理想で言ったら個店舗営業は30じゃなくて50~60店舗ぐらいは行きたいなと思っているんですけど。

渡辺 営業したらしただけ注文が集まってしまう場合があるんですよね。それをすべて出荷しようと思うと初版部数が増えていきます。でも、発売日が過ぎてフタを開けたら、全然売れなくて、あれ?ってなったときに、在庫がいっぱい残ってしまう。返品ができるので。

高野 そうですね。

渡辺 それが商業出版のリスク。

高野 たとえば7,000部刷るのと1万部刷るのじゃ桁が違ってくるので。もし外れた場合、数十万円が丸々赤字になります。

ライツ社の重版率って、すごく高いほうなんです。重版率71パーセントで、これ、業界平均は18パーセントぐらいと言われてるんですね。高いほうではあるんですけど、やっぱりそれでも3割は外れる(重版できない)ので、初版のリスクを無制限には負えないです。

重版の営業の場合は、すでに売れているという実績があるので、どんどん仕掛けていきます。

渡辺 さすが代表取締役副社長ですね。やっぱり、そういうふうに考えないとね。

高野 いや、渡辺さんも考えてくださいよ(笑)経営的に。

渡辺 僕も考えますけれども。

だから、初版の売れ行きがよかったら重版して、またそれがよかったら重版して、と刻んでいくのが通常の出版社の考え方ですね。

高野 はい。ミシマ社って、個店舗営業、めっちゃ行ってそうじゃないですか。東京と京都で拠点があって、今、営業の人は何人?

渡辺 4人でやってます。関西と東京で2人ずつ。

高野 何店舗ぐらい行くんですか?

渡辺 言っても一人ひとりが直接訪問で動ける数って、高野さんが、今言ったのと同じくらいです。13年前に直接接引を始めたとき、初版本が納品できた店舗数って、たしか記憶では230店舗とかそのぐらいなんですよ。四国に1軒も取引先がない、とかいう状態でした。

高野 へぇー。

渡辺 最初に出したのが、内田樹さんの『街場の中国論』という本なんです。これが、おかげさまでよく売れました。お客さんから直接問い合わせがあったり、書店員さんのなかにも内田先生のファンがいたりで、「ミシマ社っていう知らない出版社から出ているけど何だこれは?」と、お客さんが自らうちのホームページを検索して、連絡をくださったんです。

そういう感じで、発刊後に、取引先がどんどん増えていきました。一人で営業も事務も全部やっていて、個店舗営業までなかなか手が回らなかったので、大変ありがたかったです。

今は、新刊を出すたびに、400から1,200店舗ほどのお店に納品できています。営業メンバーも4人いるので、手が回る感じにはなっています。

ただ、うちの営業メンバーは「みんなのミシマガジン」っていうウェブ雑誌の記事をつくっていたり、僕自身だと営業事務、直接取引なので請求書を大量につくったりもしているので、4人分すべての活動時間業務量を営業に充ているわけではないです。

高野 なるほど。

渡辺 たとえば今日だと(7月1日)請求書を出さなきゃいけないんですが、請求書の紙がたぶん700枚ぐらいあって、その請求明細が同じぐらい出ていて、それを僕一人で、ずっとここ3年ぐらい処理してるんですけど。

高野 ブラックじゃないですか(笑)

渡辺 いや、意外とやれちゃうんですよ、これが。

高野 いやいや(笑)請求書の話だと、ライツ社は、その業務はすべて取次さんにやってもらっています。

渡辺 問屋さんとやるメリットの一つですね。請求書のやりとりが少なくて済む。

高野 そうですね。

渡辺 僕はその業務を一人でやる、職人状態になっていたんです。僕がなんで今日、営業の実演をこわがっているかっていうと、この3年ひたすらそれをやっていたので、実演とかもうちょっとこわいんですよ。

高野 すごいガード固めてきますね。

渡辺 シャチハタ押すのとか超速いので、あれ、実演したい。千手観音みたいになって。今、マイク持っているので、ちょっとあれですけど。マイクなかったらやりたいぐらいなんですけど。何の話でしたっけ。

高野 営業です。

渡辺 そうだ。伺ったらライツ社は委託配本がほぼないから違いましたけど、極論、営業をほとんどせずとも取次に初版分すべて委託配本してもらえる出版社もあるわけじゃないですか。でもミシマ社の場合は、直接注文をもらわないと出荷ができない仕組みです。

配本には頼れないので、ファックスやメールや直接訪問を絡めて注文を取りきる。取引先に自分たちが案内をしなかったら誰が案内するんだ、っていう話で。

高野 取次の配本っていうのに関して補足しますね。通常、出版社が発売する新刊の初版が7,000部で、自分たちの営業で4,000部注文を集めました、とします。で、そのままだったら、その4,000部を売って、残り3,000部は在庫にしましょうってなるんですけど、そこで取次さんに営業をかけるわけです。「これはいい本なので売れると思うからほかの書店に委託配本してほしい」と伝えて、「いいですね、やりましょう」となったら、2,000部上乗せしてもらえる、という形です。

渡辺 ライツ社はでも、初版の場合、委託配本での取次分の上乗せはほぼない?

高野 はい。できるだけ自分で注文をとってきます。売れる! と思っているとはいえ、まだ売れるか売れないか未知数な初版の本を上乗せするっていうのは、自分たちにも書店にもリスクがあると考えていて…。なんで、地道に自分で営業します。

渡辺 僕が営業に行った先々で、ライツ社の新刊展開がすごく目立っているのをたくさん目にして、何なんだこれは? と思ったら、その裏で高野さんが営業を仕掛けまくっていたということが多々ありました。

高野 いや、それは(笑)

渡辺 発刊と同時にああいう大きな展開をするには、問屋さんに頼っていているだけでは難しいです。

高野 初版はそうですけど、個人的には取次さん、めっちゃありがたいと思ってます。特に書店に置かれさえすれば売れる確率の高い重版書籍は。

ていうのは、初版を自分で頑張って営業して、本が売れて。重版するじゃないですか。でも、僕は営業1人なんです。なんでそこから全国に広く展開できるのって、取次も一緒に営業してくれるからなんですよ。

もちろん、異常値を出した個展舗とそのチェーンで売り伸ばしていくっていうのは基本なんですけど、重版したときには、取次にも案内して、全国の取次支店に営業をかけてもらいます。そしたら、1,000冊、2,000冊と注文集まるので、取次の力はすごく大きいなって思いますね。本を一緒に広めてくれるパートナーです。

渡辺 いや、でも、それは謙遜かなって。仕掛けが得意ですよね。

高野 だから。

渡辺 僕なんか、なんでこのお店でこんな大きい展開できるんだ、この人はって、何度涙したことがあるか。

高野 いやいやいや(笑)それは僕じゃなくて書店さんのおかげです。

重版で言うと、初版でいろいろ仕掛けて売れました、2週間で実売数が納品数の15パーセントを超えています、これは重版いけるな、となる。そしたらいろんな書店本部に営業します。30チェーンぐらいですね。

渡辺 本部のバイヤーの方が、このお店でこういうタイプの本が売れたときは傾向としてこのぐらい広げても大丈夫っていう基準を持っているんですよね。

高野 そうですね。僕の営業方針は、とにかく1人なんで効率よく、というのが一つ。それともう一つは、ライツ社の本は若い世代向けの本が多くて、新聞広告との相性がよくないので、その分の広告費を書店に直接還元する形で営業しよう、という方針です。

渡辺 というと?

高野 報奨金ですね。

たとえば「この本が1冊売れるごとに通常の掛け率に加えて、本体価格の10パーセントを払います」とか。そういったものをつけることで大きく注文をいただくことはありますね。

お金を払うっていうのは悪いことなんじゃないのかって思われるかもしれませんが、考え方としては、効果が出るか出ないか未知数な広告費を使うくらいなら、そのお金を書店に還元して、書店員さんにとってメリットがある状態で全力で売ってもらおうって考え方です。

渡辺 リベート。

高野 はい。ポイントとしては、報奨金って売れてる書籍じゃないと意味ないんですよ。

渡辺 レジ通らないと、お店も売上にならないですからね。

高野 そうですね。売れたら初めて報奨が付いてくるので、そもそも提案が採用される基準はけっこう厳しくて。なのでちゃんと書店の利益になって、こっちの利益にもなる書籍に絞って提案することは当たり前ですが気をつけています。そこらへんも理解して、本部さんは追加ですごく大きく注文をしてくださるってるんだと思います。

渡辺 ミシマ社は報奨金ないんですか? みたいな質問はないんですかね。

高野 あんまり。

渡辺 あんまり興味ないです?

高野 いや、聞いたら怒られそうかなと思って。

渡辺 ミシマ社の場合は、取引条件がそもそも違うんです。取次経由だと書店さんに残る粗利ってだいたい2割ちょっとなんですけど、うちは、直接取引で7掛けで卸します。そうすると本屋さんは売れると3割手元に残ります。もともと、お得になるようにしてあるんです。

ただ、直接取引の出版社って、書店側の業務オペレーション的にはイレギュラーなんですよ。人手をかけずに仕組みやシステムでローコストの運営をしようとしている法人さんにとって、直接取引自体がひと手間になっているんです。今、書店さんって人手不足にもなっているし。でも、そういう状況だからこそ、営業が関わることでおもしろさが出せるんじゃないかと思っています。

ミシマ社という出版社にそういうおもしろさを期待されているようなところも、感じるところはあって、ミシマ社の本を扱ったら、ちょっとおもしろくなっていくんじゃないかなっていうこともセットで扱っていただけるんだとしたら、こっちのスタンスも問われてくるし、単に売れた、売れないとかではなくて…。

高野 で、結論としては、どっちなんですか(笑)

渡辺 いや、だから、うちはリベートみたいなのはやってないんですよ。

高野 なるほど。

渡辺 もともと掛率的にお得ですよ、と。

思うんですが、報奨金絡みの仕掛けに乗っかると、どの店も同じような本が目立つ展開になっていて、それがおもしろいのかって。

高野 うん。僕は1人でやっているので、端的に言うとドライ&効率を重視してますが、前提としては、ライツ社の本を仕掛けてもらうほとんどの店舗に対して、どんな立地で、どんな人が来ていて、どんな売り場で、そこにはどんな展開があったらおもしろいか、イメージしながら案内しています。

というのも僕、前職のときに6年ぐらい書店営業やっているんですけど、その時代ってほぼ個店舗営業をしてたんですね。42都道府県ぐらいかな、の地域に直接行って、そこでお店と、そこにいる書店員さんの顔を見ているんです。たとえば福井県には勝木書店っていう地場のチェーンがあって、本店っていうのはこんな店なんだっていう姿が浮かぶ。

だから、それがなくて、いきなり効率的にやろうとかメールだけとか、何でもかんでも報奨金かけてバーンっていうのは無理だと思います。

渡辺 無理ですね。

高野 それは無理なので。営業は血肉が通っていなければ。

今でも毎回の新刊営業のタイミングってわけにはいかないですけど、うまくスケジュールを組んで地方を回ります。仙台だったり広島だった札幌だったり、四国を1週間で一気に回ったり、書店イベントと合わせて岩手に2日だけ行ったり、休暇も兼ねて沖縄に行ったり(笑)、帰省のタイミングで北陸回ったり、飛行機で他社の先輩と二人で熊本行って営業したり。

渡辺 本当、そのとおりです。

高野 という感じでございますが、ちょっと、あとは質疑応答でお答えするので、個店舗営業の実演をやりたいなと思っています。

渡辺 やりましょうか。僕、書店員役やればいいですよね。

高野 いや、ちょっと。なんで。なんで僕だけ営業やるんですか。

渡辺 それで話、引っ張れればなと思ったんですけど。

高野 書店員役は、今日ちょうど紀伊國屋書店の話題書担当のOさんが来てくださっているので、その方にお願いします。

で、じゃんけんしましょうよ。どっちが先にやるか。最初は、グー、じゃんけん、ポイ。あいこでしょ。あ、負けた。渡辺さんどっちがいいですか。

渡辺 あとで。

高野 じゃあ僕から。最近、『売上を、減らそう。』っていう本を出版しました。京都のステーキ丼専門店「佰食屋」っていうのを経営されている中村さんの本なんですけど、それを営業します。Oさん、相手役をお願いしてもよろしいでしょうか。

Oさん はい。

高野 基本的には、事前に営業に行くアポを取った状態でのスタートです。では。

次回は、ライツ社高野とミシマ社渡辺さんの営業実演の模様をお届けします。出版社ごとに全然違う営業トーク。書店に本が置かれている背景には、営業マンと書店のこんなやりとりがあったのか!

次回、「書店営業を実演してお見せします!(ミシマ社&ライツ社)」へ続く|8月6日(火)18時公開



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