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ミシマ社とライツ社の営業が何でも答えます。会場からの質疑応答

目次
1.「ミシマ社営業部vsライツ社営業部」 話題の出版社の営業手法
2.書店営業を実演してお見せします!(ミシマ社&ライツ社)
3.ミシマ社とライツ社の営業が何でも答えます。会場からの質疑応答

高野 では、質疑応答に移ります。あっちこっちに先輩と一緒に行きましたので、わからないこととか、何なんだ、みたいな質問していただけると助かります。

質問者A 逆に店員さんのほうから「こんな本があればいいのに」っていう気持ちが伝わってきて、それを企画して出版しよう、とかいう機会はあるんでしょうか。

高野 稀にあります。たとえばこの前、六本木に行ったんですけど、六本木って、すごい飲食店が多い街で、そこの書店員さんにおもしろい人を紹介してもらったんです。

その人はNHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』かな。それに出ていたスパイスカレーのお店のシェフで。「これ、絶対、本にしたら売れると思うんだよね、やんないの?」って言われて。ていうのは、ちょうど佰食屋っていう飲食店のオーナーの本を営業するタイミングだったので、「これもいいんじゃないの」って教えてもらって。その話を営業にして、今そのカレー屋さんにアポをとっている最中です。

質問者A あるんだ。

高野 はい。

渡辺 企画書をもらったりすることはないんですけど、やっぱり会話の中で、今、書店員さんが、どういうことをおもしろがっているのかは大きなヒントになるんですね。

ミシマ社の場合だと毎週、企画会議をしていまして、本の企画もそうですし、ウェブマガジンの企画もそうなんですが、書店員さんに教えていただいた、新しい、僕らの知らなかった作家さんの存在が企画につながったりもしますし。

とにかく、書店員さんっていうのは、本って森羅万象を扱っているものなので、すごく感度が高いんです。お客さんが毎日来て、お客さんがどういうものを求めているのかっていうところに、日々向き合っているので。

なので、自分たちの本の営業だけじゃなくて、そういった雑談のようなことができる機会があれば、そこは逃したくないですし、それがおもしろい時間でもあるんですね。

質問者A どうも、ありがとうございました。

高野 ありがとうございます。

質問者B 最近、著者とか編集が自分から発信することがすごく増えて、SNSとかインタビュー、表に出たりする人が、すごく多いと思うんですね。それを見て、実際、読者の方も「あの本ありますか?」って来られる機会も多いし、書店員もそれを見て「思いがあるんだな」と思って、売りたいなと思うんです。

そういう、つくり手側が発信をすることを、つまり、営業の人をそっちのけで、つくり手と書店員がつながることを嫌がる営業マンもけっこう多いなと思って。何が違うと思ってらっしゃるのか、とか、営業だからできること、営業だからやりたいなって、思っていることが知りたいです。

渡辺 編集は、書き手と連携とりやすいので、そういう発信はしやすいですけど、営業でも、そういうアクションを起こせるというのが、今後求められてくると思います。

営業ができることっていうのは、各地に足を運んでいるので、書店さんを通じてその地元とつながっていますので、各地での情報の伝わり方とか、地方紙やテレビ・ラジオ局、ローカル雑誌といったメディアの状況に明るい。それは編集よりも営業だと思うんですね。

うちの営業の者が、今度、宮崎の書店さんで、益田ミリさんの原画展フェアをやるんです。そこで、店長さんや宮崎でやっている出版社さん、つまり地元との出版社さんのつてを頼って、地元メディアにフェアの案内をすることができました。三島も連れて行って取材を受けたりラジオに出演したり。

営業が発信の起点となって巻き込めることがあるぞと。それを営業2.0か3.0っていうのかはわかんないですけど、ただ注文を受けるだけの営業1.0からは、やっぱり抜け出なきゃいけないなっていうことに気づかされました。そこには可能性が、めちゃめちゃあるなと思っています。

高野 あれですよね。著者と編集が読者に直接発信して、書店員もそれで盛り上がって売れているけど、わたしたち営業はB to Bで書店員に営業しているが、今後、それ以外の、たとえば読者に直接発信する役割を担えたりするんですか? みたいな質問ですかね。

質問者B も、そうですし、書店員自体の役割、わたしは、「ちょっと謎だな」と思うときがあるんです。結局、つくっている人と読んでいる人が直接つながる、すごくシンプルな、ダイレクトなつながりができたときに、書店員だったり、営業だったり、営業の人と同じようにわたしも書店員として、どういう役割があるのかなって気になっている、という感じです。

高野 書店員さんの役割。

質問者B そのヒントが欲しいなと。どういうところがやりがいだったり、自分たちのポジションが業界を豊かにしていると思ってらっしゃるのかなと思って

高野 なるほど。

それは僕も悩んでいたんですけど、営業2.0みたいなやつは、無理だなと思いまして、そこは、もうバッサリ諦めています。つまり、編集のほうが著者に近かったり、読者に近かったりするので、そこの発信力っていうのは、営業が担うのはなかなか難しい。

なので、やっぱり本を案内するプロであるべきかな、と。今日、全然プロじゃなかったですけど。

毎日書店でいろんな本を見ているし、同じくらいデータも見てるので、内容がおもしろいおもしろくない、だけじゃなくて、この企画は売れないですねとか、この企画は、めっちゃ、絶対、ここのここで、こうやったら売れますねっていうのを、編集であるとか、場合によっては著者に言ったりするんです。

そこらへんは、醍醐味というか、マーケティングセンスっていう言葉なんですかね。ただ上に言われたものを営業するとか、僕たちの会社にそういうのはないですけど、というのじゃなくて、仕入れセンスがある営業っていうのが必要なのかなと思っています。

渡辺 事前の案内をしたとき、売れそうですね、はいいと思うんですけど、売れなさそうですねってなったときに問われるのが、営業の力量だと思います。

高野 企画段階で?

渡辺 企画段階で。ていうのは、企画段階からタイトルとか内容が変わったりとかすること、ざらにあるので。

高野 そうですね。いっぱい。

渡辺 そこは、僕だったら編集者としての三島のセンスを信用しています。

最初、あんまりわかってなくて、企画にいろいろ意見言っていたんですけど、本当バカだったなと思って。わたしの浅い解釈なんてあまり意味がなくて、この本が最終的にもっとおもしろくなるにはどうなのかっていうのを編集者は、見出さなきゃいけない。僕にはそれはできないことです。でもお店の方への案内の内容やタイミングについては工夫できます。

本って発刊直前の最後の最後でクルって、うわ、これ、こんなおもしろいやつになった! っていうのがあるじゃないですか。だから書店さんにも、内容を見てもらいたいときにどのタイミングのゲラを渡すか、けっこう気を遣うんです。まだちょっと早いんじゃないかとか。

高野 多いですね。

渡辺 多いんですよ。

高野 今のはあれですよね。どこまで自分が企画に参加するかみたいな話ですよね。

渡辺 そうですね。

高野 僕、相当、最初から参加するんです。

渡辺 ご自身でも企画出されたり、書き手への連絡も積極的にやってらっしゃいますよね、高野さんの場合だと。

高野 はい。編集するのは、もちろん編集なんですけど。

『売上を、減らそう。』も、もともと僕が佰食屋の中村さんの記事を読んで、この人、いいなと思って、編集に伝えたことがきっかけです。でも、あとは内容もタイトルもデザインも全部編集が考えるっていう感じなんですけど。

営業は営業でやることがあるので、また、そういう著者と読者が直接つながることとは分けて考えてはいます。でも、誰であれ、出版社として絶対に発信力は持っておいたほうがいいですね。別にそれは、営業が持つ必要はないかなと思います。

渡辺 社として持ちたいですね。

質問者B ありがとうございます。

高野 わからない。難しいですね。

質問者C ライツ社さんが、先ほど重版率が7割で、売れない本が3割って。最初は、全部、売れると思って出版するわけじゃないですか。実際に3割が売れなかったとして、営業的にその要因が何だとかっていうの、わかるんですか。

高野 出版したあとであれば、だいたいこうかなって思います。そもそもテーマがニッチ過ぎたなっていうのとか、社内では盛り上がっていたけど実用性がなかったな、とか、結果が出てみるとある程度、それはわかると思います。でも、出版する前は、わかんないんですよね。それが大いなる問題というか、難しいところです。

逆に言うと、このぐらいかなって思ってた本のほうが、グンと伸びるってこともあります。だから、両方、あります。

渡辺 こんなにすごく売れると思わなかった、っていう本もありますよね。

高野 はい。

渡辺 売れないっていうのは、初版の刷り部数に対して思ったより売れなかった、つまり、期待値との乖離が大きいっていうことなんですよね。

とはいえ、1冊も売れてない本っていうのはないんですよ。必ずどんな本でも読者ハガキっていうのは、最低1枚、絶対返ってきている。

高野 そうですね。

渡辺 ということは、いい本だったかどうかということより、商業出版として当初思ったようにいかなかったということです。でも、出したいと思って出したんです。ちょっと質問とは違うんですけども、「この本出さなきゃよかった」っていう本は1冊もないんです。

高野 そうですね。僕の中では、売れない本っていうのは赤字な本です。

渡辺 商業出版としてやっている以上、実際、初版止まりで在庫いっぱい残っちゃうと赤字は赤字ですよね。

高野 100万、200万単位で赤字ですね。

渡辺 でも、そういうリスクを背負った上で世の中に出していくものなので。

高野 ミシマ社って、重版率何パーセントなんですか。

渡辺 5割を超えていることは間違いない、という感じですけども。

高野 僕たちより新刊点数多いのに。

渡辺 重版しすぎちゃったっていうことは、ときどきあります。

高野 最後の1回が…とかよくありますよね。

渡辺 後から振り返ったとき、重版1回分やらなくてもよかったって…。

高野 いきなり動き止まるんですよね。

渡辺 あります。わかんないです。出してみないと。

質問者D 僕、長い文章をあんまり読まないんですよ。僕みたいな人に本のおもしろさを伝えるには、僕もほかの人に「この本おもしろいよ」って伝えようとしたときに、どうやって伝えようかなとか思うんですけど。どうすればいいのか、なんかあったら聞きたいなと思って。

渡辺 ちょっと直接的な答えになってないかもしれないんですけど、わたしの座右の銘は、「本の近くにいるといいことがある」なのですが。

本を読む前って、たとえば誰かから借りたりとか、お店で買ったりとか、何かしらアクションがありますよね。そうやって、その本とめぐり合えたことが、まずおもしろい。それも含めて「読書」なのではないかと思ってます。

本って、いつもそばにいてくれるんですね。なのに、読まなくても文句言わないし。ここにいてくれるだけ、だけど、これは少なくとも自分が読もうと思ってアクションを起こしたって考えると、そこから、もうすでに何かが始まっているっていう。そして、読むまで、ずっと待っていてくれるんですよね。

だから、長い文章の本を今は読まなくても、いつか読むタイミングで読むっていうのが何よりだと思いますし、本は、それをずっと待っててくれるんじゃないかなと思っています。

質問者D ありがとうございます。

渡辺 読んだときにここがおもしろい、だからあなたも読むべきだとかって、なかなか言えないと思うんですよね。おもしろさまで決めつけられちゃ、たまんないですよね。だから「少なくともわたしはこう思ったよ」とかそのぐらいのことしか、たぶん、言えない。はい。このへんにしときます。ありがとうございます。

質問者E 今日はいいお話をありがとうございました。最後にちょっと直接的なことをお聞きするんですけれども。わたしは、実は、自分の自宅の回りの本屋さんがどんどんなくなっていって、電車に乗らないともう本が手に入らないんです。でも、出版営業の方から言ったら、やっぱり、本って手に取って見てもらわないと売れないっていう側面もありますよね。それでたとえば本屋さんで手に取って読んでもらうために、こういうセールプロモーションをしている、販促をしているっていうことがあったら、ちょっと具体的に教えていただけたらなと思います。

高野 なるほど。書店店頭でっていうことですよね。

質問者E それとそれ以外に工夫されていることがあったら。

高野 なるほど。たとえば『HEROES』っていう本の例で話します。これは、1万2000円もする写真集なんですけど、紀伊國屋新宿本店っていうところで、ものすごく大きく展開してもらったんです。でもデカイし、高いし、どう考えても手に取ってもらいにくいですよね。

だから、これはヨシダナギさんっていう写真家の作品集なんですけど、ただ本を置くだけじゃなくて、ヨシダナギさんの今までのヒストリーをパネルにしたり、写真がキーホルダーになったガチャガチャを機械ごと書店に置いたりして、目に留まる展開をつくりました。

でも、それだけだと1万2000円の本なので、手に取ってもなかなか買ってくれないので。紀伊國屋新宿本店用だけのために5種類の限定カバーをつくって、それぞれ通常版と並べて6種類、それで話題にして、そのファンの方とか、そもそも写真が好きな方に買ってもらう、という工夫をしました。

プラス、イベントっていうのは、すごく大事になってくるんで、紀伊國屋ホールっていう400名ぐらい入るところでトークイベントをして店頭で目立つ展開をつくる、SNSで話題になるように限定カバーを用意する、最後は読者が直接体験できるイベントを打つ、といった感じで、プロモーションは、できることを全力でしております。

質問者E ありがとうございます。

渡辺 店頭でのトークイベントとかサイン会とか、ライブ的なものは、やっています。

ただそれも、やりゃいいっていうことじゃなくて、けっこう熱量が問われます。そういうのはお客さんに伝わるので、なぜそれをやるのかっていうのは、けっこう大事にしています。

あとはPOPやパネルといった販促物は必ずつくって。時期に応じて新しいものに作り替えたり、もう日々、常にどういうふうにやると売れるかな、手に取ってもらえるかなって試行錯誤してやっています。

質問者E トークイベントとか人数が限られているから、果たしてペイしているのかなって、逆に思うんですけど、それは?

渡辺 トークイベントの設計は、会場によって変わってきます。場所代の有無や集客の上限、入場料の設定などで、ペイできるかを見極めます。うちからすると、なるべく演者に謝礼は払いたいんですね。とすると、関西のイベントに東京から書き手を呼ぶことはとても難しくなります。

そういう場合は、イベント以外の用事で関西に来ることがないか聞いてみたり、いろいろな角度から実現の可能性を探ります。そういったハードルを越えて、この人がここでやるんだ、となったときに話題性も生まれてくるので、そういった露出自体が、その本を知られるきっかけにもなるという。

高野 僕は、あんまりやらないです。逆にペイできない程度のイベントならやらない、というのか。あるいは逆にペイなんか求めず割り切って、ただみんなと触れ合えることを目指すか。

渡辺 基本イベントだけでペイっていうのは、なかなか大変です。

高野 そうですね。なので、かなり絞っています。

渡辺 うちも絞ってます。イベント屋ではないので。まあ、それでもやりたいって言ってくれる人の熱量が、やっぱり、すごかったりするんですよね。

高野 もちろん。「絶対ここでやったらプラスになる」っていうのがあれば。それがお金なのか体験なのか自分たちの経験値なのかっていうのはわかんないですけど、絶対にプラスになるっていうところでやるっていう感じですね。

渡辺 なるほど。

高野 本当にいろいろつたない進行でしたが、このあと飲みに行きますので、何かありましたらというのと、ここからが本当の勝負(手売り合戦)ですので、みなさん、本を一度手に取っていただければ幸いです。今日はありがとうございました。

渡辺 ありがとうございました。

気になる手売り勝負の結果は・・・!

「11冊 対 11冊」でまさかの引き分け! 勝負はまたの機会(あるのか?)に持ち込まれました。現場からは以上です。


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