「絵本と手紙に想いを託す」フェア 枚方 蔦屋書店
絵本を贈られるだけで嬉しいのに、直筆の手紙と一緒にもらったらどうですか?
大阪の枚方市にある「枚方 蔦屋書店」さんでは7月に「絵本と手紙に想いを託す」と題して、それぞれの絵本に"ある人"への手紙を添えたフェアが開催されました。
例えば、「結婚40周年を迎えた大好きな君へ」「これからについて迷っているあなたへ」「反抗期のお子様に戸惑っているあなたへ」など。
宛先が書かれた封筒をひらくと
ある人に書かれた手紙が
そのあとに、手紙と一緒に贈る絵本が紹介されています。
このフェア、手紙が胸に響くと同時に、その後に紹介される絵本が一体どういう内容なのか、とっても気になります。
(公式のInstagramではひとつずつ、手紙と絵本が紹介されています)
直筆の文字は人を励ます
いろんな手紙がありますが、いったいどうやってこのフェアを作ったのか、絵本コンシェルジュのお一人、佐伯さんにお話をお聞きしました。
ー 今回のフェアはどういったきっかけからうまれたんですか?
佐伯さん:
7月は文月ということで、手紙に特化したフェアが出来ないかと考えていて。いつもでしたらコメントカードを貼ったりするんですけど、手紙で書かれている方が、一体どんな本なんだろうって思うよねって話になったんです。メールやLINE、ビデオ通話が連絡手段の主流となった今、“手紙”というツールは手間がかかる分、今まで以上に特別感やサプライズ感を演出できるかなと。
ーはい。手紙の見せ方にドキドキしました。
佐伯さん:
うまい下手にかかわらず、大切な人の直筆の文字は、画面の文字とは比べものにならないくらい人を励ます力があるように思います。自由に会えない状況が続く今だからこそ、想いのつまった手紙と絵本が届いたら…、きっとその人にとって「人生の宝物」になるのではないか、と思いフェアに至りました。
「こんな手紙もらったら泣く!」
ー選書はどのように決めたんですか?
佐伯さん:
当店には4人の絵本コンシェルジュが在籍していて、「手紙を添えて絵本を誰かに贈る」というテーマでそれぞれ選書と手紙をお願いしました。今回は、洋書担当のスタッフも参加してくれて、最終的にお手紙と選書は16冊分揃いました。
流れとしては、月初めのミーティングで企画内容を伝え、選書は一週間くらいで決めて発注。月末に手紙を回収しました。
手前味噌ながら、うちのコンシェルジュ達の感性と選書、そして遊び心には絶大なる信頼を寄せているので、どんな内容の手紙とそれにぴったりな絵本を選んでくるのか、私自身楽しみで仕方がありませんでした。
ー手紙の内容がすごくリアルなんですが。これは実体験も?
佐伯さん:
手紙の内容については妄想ですね、全部。
ーーすごいですね。自分がもし手紙を書くなら、という感じでしょうか。
佐伯さん:
そういうのもあるし、全く実在しない人に、もしこんな手紙をもらったら嬉しいだろうなってものも。みんなそれぞれに手紙の主になりきって想像を巡らせ、工夫を凝らして書いてくれました。
ーーお客さんの反応はどうでしたか。
佐伯さん:
やはり、リアルなお手紙を封筒から出して読む、という行為は大人も子どもも、とてもドキドキワクワクする、というお声を沢山頂きました。
フェア台を設置した直後、20代くらいの娘さんとそのお母さまが〈結婚40周年を迎えた大好きな君へ〉と書かれた手紙を手に取られて、「お母さん、ちょっと大変!こんな手紙もらったら泣く!」とお話されていて。
他には、70歳前後と思われる女性と、小1か年長さんくらいの女の子のお客様。
女の子「おばあちゃんへ、やって」。
女性「あー、そんなん読まんといて。おばあちゃん、泣いてしまう」と。
絵本に貼る思い出シール
ー贈り手の思いを受け取って読む絵本は、特別な一冊になりそうですね。
佐伯さん:
元々、私たちのお店ではお客さまに〈思い出シール〉というのをお渡しする事があって。赤ちゃんの頃であれば、その様子や贈り手の想いを書いて、最初の見開きや奥付のところに張っておくんです。そうすれば、自分で文字を読めるようになった時、「私ってこうやったんや!」や「こういう想いで贈ってくれたんだ」というのが解るので、欲しいとおっしゃる方にお渡しさせて頂いていたんです。
ーすごい素敵です。お店で買いたくなります。
佐伯さん:
絵本って、絵の記憶が頭にずっと残っていて、お母さんがこれ読んでくれたなとか、家で一人でいた時にジッと見てたなとか、(絵を見ると)どういう状況でどんな声で読んでくれたかパッて思い出せたり。
将来、小さなお子さまが親になって本屋さんに行った時、そうやっていろんな事を思い出す事が出来たら、それはすごく幸せな事だなと思うんです。
そこから、自分の子どもにも読んであげたいと思うだろうし、そういう手から手へっていうところが、ロングセラーのいいところだと思います。また、新しい絵本でも、これから先、ロングセラーになりうると感じるものは色々と厳選してオススメさせて頂いてます。
『絵本を人生の宝物に』
ー絵本コンシェルジュとして大切にしていることは何ですか。
佐伯さん:
『絵本を人生の宝物に』というのが、オープン当初から私たちが大切にしているコンセプトです。開くたびに気づきを得られたり、次の世代に繋がっていくような、ずっと手元に置いてもらいたい絵本にいっぱい触れてもらいたいと思っております。
いち書店員ではありますが、これから大人になっていく子どもたちの心の栄養や人生の支えになるような一冊をお届けできたら、と願っております。
ーオススメする時に気をつけていることはありますか?
佐伯さん:
絵本は、そのままでも楽しめるんですけど、自分の経験や体験などを積み重ねていった上で、もう一度その絵本を開くと、もっと深い作家さんのメッセージを感じられることがあるんですよね。本は作家さんはじめ、沢山の人の手によって想いを託されたバトンと思っておりますので、ご提案の際にはそんな思いも一緒にお伝えできるよう、心がけています。
一番大事なことは、まずは自分たちが楽しむ
ーフェアは、どういったところからヒントを得たりしますか?
佐伯さん:
最近では、時間をテーマにした『時は金なり』というタイトルのフェアや、『10歳のあの子に贈りたい絵本』、『えらぶってすてき』というフェアなどがありました。
例えば、『10歳のあの子に贈りたい絵本』は、20歳の半分の10歳という節目に1/2成人式があるので、その時に本をプレゼントしたいというお客さまからのご要望が多かったのもあって、フェアにしてみようと。選んだ本が子どもだけでなく、大人や中高生にもグッとくるような気づきになる本が多かったので、老若男女を問わず大きな反響がありました。
ーお客さまとの何気ないやりとりが、人の心を掴むフェアになっていくんですね。
佐伯さん:
人って感動したり、すごいと思ったとき、伝えたい!って思うじゃないですか。うちはコンシェルジュがいるという事で、本を選んで欲しいというお客さまがたくさん来られるんですが、私たちが熱量を持ってお伝えすると、お客さまも「子供向けの絵本と思っていたけど、へ〜なるほど!」と返してくださって。
また、何より一番大事なことは、まずは自分たちが楽しむ、ということ。私たちスタッフがワクワクしながら作ったフェア台は、その空気感がフロア全体やお客さまにも伝わると感じています。
ーほんとそうですね。本の企画も一緒だと思います。
佐伯さん:
本は全国どこでも価格は同じで、最近はご自宅からでも購入できますので、そんな時代、リアル書店ならではの醍醐味や枚方 蔦屋書店に来なければ出会えなかった一冊をご提案できればと考えております。
ーお店では様々なイベントやワークショップも行われていますね。
佐伯さん:
今はコロナの影響で自粛しているイベントもあるのですが、毎月、入荷した新刊を一緒に絵本好きの方達と色々深く読み込んでいく「コンシェルジュカフェ」というイベントは、もしかしたら9月くらいから始まるかもしれないです。
ー再開される日を楽しみにしております!お忙しいところありがとうございます。
明るい出版業界紙 on note(β)では出版業界の明るいニュースを届けています。