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「心が動く文章の書き方は?」中学生が小説家に取材。どんなこたえが?

兵庫県の職場体験プログラム「トライやる・ウィーク 」で中学生たちがライツ社に。編集や営業を体験する中で、取材も一緒に挑戦しました。「絵本作家チーム」と「小説家チーム」にわかれての取材です。前回の「絵本作家チーム」の記事はこちら

河野裕さんは明石にゆかりのある小説家。2021年に発表された『君の名前の横顔』も明石を舞台に書かれた作品です。河野さんに取材をお願いすると、こころよくオッケーのお返事をいただきました。

河野裕さんの著作

質問を中学生たちと相談した結果、みんな本は好きだけど文章を書くことには苦手意識があるみたい。そこで、プロの小説家に「どうやったら文章を書けるようになるのか?」を相談。学校では教えてくれないような回答が返ってきました。

たくさん書き出してもらったみんなの質問

Sさん
小説が大好きで本にかじりつくタイプ。
Mさん
もの静かで探求心があって質問上手。
Aくん
やさしい剣道部で努力家タイプ。
河野 裕(こうの ゆたか)
徳島県生まれ、兵庫県在住。『いなくなれ、群青』(新潮文庫nex)にはじまる「階段島」シリーズは累計100万部突破。「サクラダリセット」シリーズ、「つれづれ、北野坂探偵舎」シリーズなど著作多数。映画化作品に『いなくなれ、群青』『サクラダリセット』。

心が動く文章の書き方

Mさん:わたしは、人の心を動かしたり、感動させられるところが小説の好きなところなんですけど、実際そういう文章を書いてみようと思ったら、どういうことが必要ですか?
 
河野:なぜ心が動くのかって、ほんとうにわからないんですよね。プロット的な心の動かし方と文章的な心の動かし方って、ぜんぜん考え方が違って。プロットはわりと王道があるんですよ。
 
ー:構成ということですか?
 
河野:そうそう。すごく簡単にいうと、人はストレスを与えて開放すると気持ちいいので、とにかくむかつくキャラを出してそいつを倒すと気持ちいいというのは、もう黄金的に言えることで。
 
一同:(笑)
 
ー:わかりやすい。
 
河野:でも、たとえば感動する詩を書くのって感覚的で、人によるんですよね。わたしの心が動く場合と、だれかの心が動く場合は違う気がして。基本的には自分の心が動く文章を書いていればいいと思うので、どんなときに自分の心が動くのかを知ることですかね。

Mさん:はい。

河野:なので、好きな曲の詩の好きな一文について延々考えるみたいなことって、わたしは価値があると思うんです。たまに例に挙げるんですけど、みなさんから見るといにしえのバンドだと思うんですけど、まだ活動しているスピッツというバンドの……。
 
ー:ぼくは世代です。

スピッツ公式サイトより(https://spitz-web.com/discography/album-09/)

河野:『8823(ハヤブサ)』(作詞作曲:草野正宗, 2000年)という曲の、「君を不幸にできるのは 宇宙でただ一人だけ」という文章があるんですよ。わたしは、この「不幸」という言葉の使い方にとても感銘を受けて。これって文としては「君を幸福にできるのは 宇宙でただ一人だけ」と一緒のことを言っているんですよね。でもそこを、本来まったく反対であるはずの「不幸」を使うことによって、同じベクトルでより強い力を出せる言葉の選び方がすごい、と思って感動したんです。

ー:たしかに。

河野:わたしはそういう言葉の使い方に興味があって、そういう文章を読むと感動するんですよね。だから、ほんとうに人によるので、自分の好みを追求するのがいいかなと思います。
 
ー:まずは自分の好きな言葉を見つける。
 
河野:そうですね。「好き」に敏感になるのが大事だと思いますね。

想いを言葉にするには?

Mさん:自分が伝えたいことや強い思いがあっても、それを自分の言葉にして伝えるのが苦手です。やはり本を読むのが大事なんですか?
 
河野:わたしも自分の考えを書くのが得意ではないんですが……「読む」と「書く」バランスだと思います。上手に書きたければ書いてみたほうがいいし、書くためには読んでいないとそもそもの引き出しがなかったりするので。でも、難しいんですよね。なので、わたしはどちらかというと、文章の流れで出てきたものを書くという手法に近いので。
 
一同:おお……。
 
河野:思ったことを文章にするのって難しいですけど、文章の書き方ってそれだけではないんですね。書くことによって自分の中に新しい気づきがあったりするので、そういうことを楽しんで書いてみてもいいんじゃないかと思います。
 
ー:楽しんで書けたら最高ですね。
 
Mさん:楽しい……。
 
一同:(笑)
 
河野:なんでしょうね。でも、自分なりにいい文章書けると、自分で感動したりするんですよ。なんか恥ずかしいなと思いながらも、やはりそういうのは楽しいので。あくまで不特定多数の読者ではなくて自分好みを追求すると、わりと自分が好きなように書けるんじゃないですかね。

読書感想文はどう書いたらいい?

Sさん:あの、ちなみに宿題とかで作文とか読書感想文が出されるんですけど、指定の長さにぜんぜん足りなくて、どう書いたらいいんですか……? 

河野:なるほど。学校教育では評価されない話だと思って聞いていただくといいんですけど(笑)。本って一冊まるまるの感想って難しいんですよ。でも、気にいった一文について10行書けと言われたら、わたしは書けるんですね。全体を批評しないといけないと思うと大変だけど、好きなところだけに絞ってしまうと、筆が進みやすくなるんじゃないかと思います。

Sさん:おお。ありがとうございます。

話をつなげていく方法

Aくん:感想文とかを書いているときに、話と話をつなげるのが苦手なんです。それはどうしたらいいですか?
 
河野:基本的には連想ゲームなので、AとBの間にあるものを媒介として、ということになるんですけど。わたしの立場では「話ってつながっていないといけないのか」というのがあるんですよね。たぶん先生は「つなげろ」と言う気がするんですけど(笑)。
 
一同:(笑)
 
河野:個人的には、いきなり「ところで」と言って違うこと言い始めてもいいじゃんと思っているので。
 
ー:ああ、そうか。
 
河野:具体的にこれをつなげたいというのがあると「じゃあこういうことを考えましょう」と言える気がするんですけど、難しいですよね。
 
ー:Aくんは感想を書いているときに、どういうことを書いていたりする?
 
Aくん:「どこどこがこうなっておもしろかったです」と書いたあとに、別のシーンにいくとき。なんていうんでしょう、なんか区切りがわからないみたいな。
 
河野:なるほど。書きたいものを書くのか、評価されるものを書くのかで、考え方が変わるんですけど。評価されるものを書きたいのであれば、最初に「どこそこがおもしろかったです」と書いたときに、その「どこどこ」からテーマをピックアップするんですね。たとえば「ここでは親から子どもへの愛が描かれていておもしろかったです」と書いた場合、無理矢理にその小説から愛に関するエピソードを引っ張ってきて「同じように愛の書き方では」といった感じで自分なりの文脈を作っちゃうという考え方。でも、わたしはそんなことしなくてもいいと思っているので(笑)。
 
ー:なるほど。テクニカルな(笑)。
 
河野:そう。もうテーマを決めちゃうというのは書きやすくなるかと思います。最初のシーンのテーマを自分なりに決めちゃって、小説内からそのテーマにそっているところをピックアップしてきたら、どうしたところで1本の線では書けるので、いいのかなと思います。
 
Aくん:ありがとうございます。
 
河野:こんな感じで答えていて大丈夫ですか? あまり学校生活のためにならない感じがするんですけど。
 
ー:いやいや(笑)。じぶんでテーマ決めるのはすごくよさそうです。

アイデアはどうやっておもいつく?

Sさん:独特の世界観のストーリーって、どうやって思いついているんですか?
 
河野:難しいですね……。なんかね……、根本的にはわたしが変だということにつながる気がするんですけど(笑)。
 
Sさん:ええ?
 
ー:(笑)

河野:この小説(『いなくなれ、群青』)の設定は、本屋さんを歩いていて、ひたすら本のタイトルをながめていたときに、「〇〇ボックス」という本の「ボックス」に引っかかったんですね。「わたしが一番書きたい箱ってなんだろう」と思ったときに、わたしの興味があったのはごみ箱だったんですよ。
 
一同:へえ。
 
河野:宝箱対ごみ箱というものを仮定したときに、宝箱ってびっくりさせる方法のバリエーションに想像がついて、物語性がなかったんですね。宝箱自体に物語性があるんじゃなくて、そこに到達するまでの過程に物語性がある感じがして。対してごみ箱ってわけがわからない感じがしたんですよ。その人のすべてがそこにあるくらいの気がして。ごみ箱というものをテーマにしたときにどんな小説が書けるんだろうと考えたときに、「自分の人格の一部」を捨てるという設定が出てきた、といったつながりで。
 
Sさん:はあ……!
 
ー:ちょっと鳥肌立ちました。
 
河野:なんかアレコレ考えるしかないので、「アレコレ考えた結果です」という感じですね。
 
Sさん:わあ(笑)。
 
河野:なぜごみ箱に魅力を感じたのか、あと付けで説明すると。そこに捨てていくものって、その部屋の主の個性がすごく出るよね、と思ったときに、キャラクターを書くときに、そのキャラクターがなにを捨てるのかに注目したらそのキャラクターは立つんじゃないの、という仮説がわたしの中にあって、それに従って作ったということだと思うんですけど。だいたいベッドとかに寝転がって、「うー、なにももう思いつかん、思いつかん、思いつかん……、あ、できた」くらいの感じのことです。
 
一同:(笑)
 
Aくん:すごい。

題名ってどうやって決めてるの?

Mさん:わたしが読書感想文を書くときだったら、文章を書いてから題名を考えるんですけど、河野さんはどうやって題名を決めていますか?
 
河野:理想論でいうと、書く前に題名が決まっているほうが書きやすいです。でも、題名をつけるのってほんとうに難しいので、結果的に最後になりがちですね。本のタイトルは最終的にわたしが決めるんですが、わりと編集さんと話し合っています。本の売り方に直結するところでもあるので。『いなくなれ、群青』はタイトルを決めるだけで、編集さんと午前中から日が暮れるまでずっと話をして、そのあいだに神戸の喫茶店を3軒はしごしました。
 
一同:(笑)
 
ー:そうなんですね。

河野:ちなみにこの小説(『君の名前の横顔』)だけタイトルの最終稿は編集さんが出しています。
 
ー:そうなんですね。
 
河野:「君の名前の○○」でというところまでつけて、「○○」の熟語二文字をほんとうにいろんなパターン考えたんだけど、いまいちしっくりこなかった中で、担当さんが出した「横顔」って言葉が一番良かったからそれになったという。
 
ー:へえ!
 
河野:そう。なので、わりと忸怩(じくじ)たる思いもありますね。編集さんに持って行かれた(笑)。
 
ー:(笑)。やはり悩まれているんですね。

伏線のはり方を教えて!

Sさん:伏線の張り方とか教えていただけないでしょうか?
 
河野:まあ、小説ってさかのぼって書けるので、あと出しで張るのが一番楽なんですよ。
 
ー:そうか(笑)。
 
河野:でも、それをやることって少なくて、特にシリーズだとどうしようもないんです。
 
ー:シリーズまたいでの伏線もありますよね。
 
河野:そう。根本的に一番きれいに伏線がはまるパターンは、あとから見つけてきたパターンなんですよ。
 
一同:へえ。
 
河野:ここで書いてあることはこういう意味だったことにしようって、あとから考えることはよくあります。
 
一同:(笑)
  
河野:自分の書いた文章をしっかり覚えておいて、使えそうなものをピックアップしてくるみたいな能力が、はたから見ると伏線を張る能力に見えていたりするんですけど。それに付随してわたしがやりがちなのは、自分でも意味がわからないけど、意味ありげなことをとりあえず書いておくと、あとから拾いやすいというのがあって。
 
一同:(笑)
  
河野:ある先輩作家さんが言っていたんですけど、シリーズ小説において設定に矛盾が見つかると、それはチャンスなんですよ。なぜなら、その矛盾を100%きれいに説明できたら、それはすごくきれいな伏線になるから。わりと世の中の伏線ってそんな考え方でできているので。
 
ー:矛盾を逆手にとるんですね。
 
河野:もちろん考えて張っているやつもあるんですけど……体感的には、「そういえば、前こういうこと書いていたな。出してこよう」みたいな感じでやっています。これがミステリー作家になるとぜんぜん違う答えになると思います。もっともっと理屈で伏線を張らないといけないので。
 
ー:そうか。伏線だらけだったりもしますもんね。
 
河野:そうですね。
 
ー:でも違った見え方ができて、すごくうれしいですね。
 
河野:伏線ってびっくりする展開を納得させるためにあるんです。びっくりすることだけ書いても読者って驚いてくれなくて、落差に納得するから驚けるんであって。基本的な組み方としては、驚かせるために情報を先出ししておきましたというのが伏線。なので、まずその驚きをイメージして、その驚きを納得させるものを事前に紛れ込ませておくように伏線は作ればいいのかと思います。
 
ー:はあ……すごいですね。ちょっと伏線を張って見ようかな(笑)。
 
河野:そう。伏線を張ってみてください(笑)。

ふりかえり

ー:ありがとうございます。みなさんきょうはどうでしたか?
 
Sさん:文章を楽しんで書くというのがすごいです……(笑)。
 
河野:わたしも9割9分苦しいですよ。でも、たまによくできたなという瞬間があるので、そのために書いている感じです。マラソンってつらいけど、ゴールしたときは絶対気持ちいいじゃないですか。まれにいい文章が書けたときなんかは、ほかでは得られない楽しみもあるので。
 
Mさん:わたしやったら考えつかへんくらいすごい考え方をされていて、すごいなと思いました。
   
河野:自分とは違う考え方ってすごく見えるものですよ。ちゃんと話すと、わたしもMさんすごいなと思うと思うので。その程度のこと、という感じでいい気がします。
 
Mさん:ええ……。
 
ー:おお、素敵です。
 
Aくん:何年も文章を書かれている人の考え方を聞けて良かったです。
 
河野:作家さんによってそれぞれなので、わたしのことは一般的な作家像ではないという認識で見ていただけると(笑)。
 
一同:(笑)
 
河野:作家と言っても同じ文章というツールを使っているだけで、ぜんぜん別の仕事くらい違ったりするんですよね。わたしに似た考えの作家さんもいっぱいいるし、ぜんぜん違う考えの作家さんもいっぱいいると思うので、そういうものなんだと思っていただけるとうれしいです。
 
Aくん:わかりました。ありがとうございます。
 
河野:ありがとうございます。楽しかったです。
 
一同:ありがとうございました。
 


緊張しつつもいろんな話を聞いている中学生のみんな、そして河野さんも同じ目線で真剣に答えているのが印象的でした。
お話を聞いて、文章の書き方っていろんな方法があるんだと目から鱗のおもいでした。みなさんもぜひ伏線を張ってみてはいかがでしょうか。
明石が舞台になった河野裕さんの著作『君の名前の横顔』もおすすめです。


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