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自分のお店で新刊書籍を扱える! 函館の「みせさき本屋」という取り組み

「自分のお店で、本を売ってみたいなー」一度は思ったことがある、カフェや服屋さん・飲食店の店主さん、実は多いんじゃないでしょうか?

北海道の函館・西部地区で、そんな思いを現実にした「みせさき本屋」という取り組みが始まりました。(北海道新聞の記事のリンクはこちら↓)

なんと、まちの不動産屋さんが考えた!

カフェや雑貨店の「店先」をはじめ、お店の一角で、店主おすすめの新刊書籍を販売する。しかもこの取り組み、街の人たちが自分たちで仕組みを考えたというんです。

中心となったのは、まちの不動産会社・蒲生商事の谷口さん。そして仕入れをサポートしている、地元の本屋・栄文堂書店さんにもお話を聞いてみました。

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(参加しているのは現在5店舗。服屋兼雑貨屋、ドーナツ店、パン屋さん、カフェ、そして蒲生商事のオフィス兼ショールームでも販売)

「本屋をやりたかったんだ」

ーきっかけは、お店の方からやりたいという声があったそうですね?

谷口さん:
お店を始める人って、本に影響を受けた人というのが少なからずいると思っていて。
そして、お店には本が必ずあるんです。それは、売っているものだけではなくて、インテリアであったり、お客さんが待ち時間に読む物として、だったり。
もともと、自分の好きな店の店主がどんな本が好きなのかを聞くのも好きでして、お店の方とそういった話もしておりました。

ーなるほど〜。お店をされてる人は、けっこうな確率で人生を左右された本がありそうですね。

谷口さん:
そうですね。何かに影響されて、好きだからこれをやりたいと思ってやっている方は多いのかなぁと思いますね。
きっかけは、服屋兼雑貨屋さんと話しているときに、ご主人から「本屋をやりたかったんだ」という話を聞きまして。
ただ、専門店として始めるのはなかなか難しいということで、今のお店で売れたら、と。ほかの店でも、雑談の中で本の話をすると、意外と「店で売りたい」という声が多かったんです。

ー普段からそういった話をする機会が多かったんですね。そういったネットワークは不動産屋さんならではですか?

谷口さん:
個人的なライフワークが「人に会う」ということでやっていたので、そのせいもあります。なので一般的な不動産屋さんと少し違うかもしれません……(笑)

街の大家さん的な不動産屋

ーちなみに蒲生商事さん自体もとてもおもしろい会社ですよね!「函館移住計画」を長年やっていたり、林業もやってらっしゃったり。(画像を押すとHPに飛びます)

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谷口さん:
移住計画から派生してゲストハウスをやっていたり。不動産を貸す借りるだけじゃない楽しみ方をできたらいいなと。街の大家さん的なことができたらいいよねっていうのはあります。

ー調べているうちに函館に行きたくなりました!

谷口さん:
ありがとうございます(笑)西部地区っていうのは函館山の裾野のあたりのことを指すんですが、「旧市街地」って言われ方もされてて。高齢化が進んでいたり、ちょっと廃れてきているところもあります。だからもうちょっと面白くできないかなぁと画策中なんです。

ー本屋さんの数はどうですか?

谷口さん:
西部地区で本屋さんって、1つか2つかぐらいですかね……(笑)僕が相談した栄文堂書店さんも、基本は配達がメインで、ゆっくりと本を見て回るような感じでもないんです。注文した本を受け取りに行ったり、お店の人としゃべりに行くような感じで。郊外や中心部に車を走らせれば大きな本屋さんがあるんですが。

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(蒲生商事の谷口さん)

一番のハードルは仕入れ

ー本を販売するにあたって、どんなことがハードルでした?

谷口さん:
仕入れについてですね。みなさん、古本屋で仕入れたものをせどりはできても、新品の仕入れ方がわからない。
出版社に直接連絡をするのか、仲介業者を見つけるのか。結局どうしたらいいかわからないので、やめていたり。古本だけを扱ってみたり。中にはAmazonで本を買って、そのまま定価で売るから何も儲けはない、みたいな方もいらっしゃいました。

ー儲けなしでもいいから。

谷口さん:
やっぱり本が好きな人って、いるんですよね。その好きな本を自分でも売りたいというだけなんですが。そういう話をしていたところ、先ほどの栄文堂さんに、仕入れについてお願いできるか聞いてみたら、案外大丈夫だったという流れです。

ー実際、どんな形で仕入れたんですか?

谷口さん:
まず、本を仕入れるときにお金が発生するんだろうな、というところがハードルで、つまり買取だと思っていたんですね。そういう点から教えてもらう形で。委託で返品オッケーなのかと聞いたら、いける出版社もあればいけない出版社もある、というので、まずは何を仕入れたいかをみんなでリストアップして、買取じゃないものを中心に本屋さんに仕入れてもらいました。

ー仕入れてもらった本屋さんには売上が立つんですか?

谷口さん:
「みせさき本屋」の加盟店に、まず売上の1割、残りは本屋さんの売上にしてもらっています。「売上はいらないから本を取り扱えたらそれでいい」という方もいました。

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本がきっかけで会話が生まれた

ー今回、「本を売りたい」が最初にあったわけですが、本がある空間になったことでいいことはありましたか?

谷口さん:
スタートして間もないので、まだ反響というほどではないんですが、昨日本が置いてあるお店に行ったら、やっぱりお客さんと本がきっかけで会話ができたというのは、もちろんありました。
まちを巡っていると、「ここでもみせさき本屋」をやってるんだ」と発見してもらえるかなと思います。
それに加盟店同士で「あ、あの人ってこんな本読むんだ」というように気づきがありました。お店同士って、お互い働いているんで、普段コミュニケーションが取りづらかったりするんですよね。

ー売るだけじゃない、本ならではの副産物ですね。

谷口さん:
あとは、新聞記事を見た方で、2組から「ウチでも取り扱えないか」というご連絡をいただきました。

ーおお! 新刊の仕入れってできるんだ、という感じでしょうか。

谷口さん:
その方もAmazonで買って仕入れていましたという方だったり、出版社に直接連絡しても、100冊からの注文ならって(笑)ロットがかなり大きくて、本業でもないからそんなに売れないよ、という状態で。

ーそうですね(笑)でも隠れているだけで「本を売りたい」っていう需要はかなりありそうですね。

谷口さん:
そうですね。やっぱりみなさん本が好きというか。

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利益はちゃんと出るんですか?

つづいて、仕入れをサポートした栄文堂書店さんにもお話を聞いてみました。

ー最初に谷口さんから相談されたときはどうでした?

栄文堂さん:
どんな形でできるかな、と。うちは取次(本の卸会社)さんを通している普通の書店なので。でも、「卸という形でよければお手伝いさせていただきますよ」と伝えました。それから取次さんと話をして。そしたら、「返品ができる出版社なら、基本的には大丈夫」ということだったんですね。出版社によってはできないところもあるので。

ーそういう流れだったんですね。

栄文堂さん:
買い切りしかできない出版社の本がないかどうか、事前にリストを作ってもらって確認しました。「返品をしたい場合は、出版社に確認をとって、返品する時は返品了解書をつけてって、そういった部分はうちでやりますよ」ということで、まずはスタートしました。

ー委託で販売できるというところが大きかったんですね。

栄文堂さん:
そうですね。仕入れ時に取次さんに支払う手数料があるので、一度に仕入れられる冊数はそんなに多くはないですが。
あとは、仕入れた本を売り切ればいいですが、返品するときの送料もうちの負担にはなってしまいます。
返品率が上がれば、取次さんに対してのうちの成績も悪くなってしまうので、リスクがないとは言えないですけど、せっかく若い方がやりたいとおっしゃってるんで、お手伝いできる範囲で協力できればと。

ー売上の1割は販売してくれたお店に入ると聞きました。

栄文堂さん:
そうですね。今は少なくなりましたけど、昔は病院の売店とかにも本を卸させてもらっていたので、そのときと同じなんです。
ただ、うちはそうしているってだけで、ほかの書店がやるかはまた別の話だとは思います。

ー手間もかかるし、利益はかなり薄くなってしまうと思います。それでも引き受けたのは応援したい思いがあったからですか?
(※一般的に新刊書店の利益は、1冊本が売れた場合、その売上の約2割。そのため、みせさき本屋での売上は、そこからさらに1割になる)

栄文堂さん:
それはもちろん!西部地区にしてもお店がなくなってきたり、新しいお店ができても姿を消してしまったり、ってことがあったので。
どこの地方もそうだと思います。本を置くことでね、興味を持ってそこの店舗に足を運んでいただけるのは、この地域としてもありがたいし、そうしていきたいと思っているんです。

ーやっぱり地元を思う気持ちは一緒なんですね。

栄文堂さん:
あとは、谷口さんや蒲生商事さんは西部地区の古い建物を壊さないで遺していきたいって一生懸命やっているので、声をかけていただいたときにはお手伝いしようって思っていて。

ーそうだったんですね。やはり人同士の繋がりが大切ですね。今日はお忙しいところありがとうございました。


実は、書店以外のお店が本を仕入れるサービスは、いくつかあります。代表的なものが、本の卸会社がやっている「ホワイエ」というもの。


個々の方にこうしたサービスを利用して、本を取り扱っていただくことも嬉しいですが、今回の取り組みのように、街のお店みんなでそこに住む人たちへの一つのサービスをつくっていくことは、とても素晴らしいと思いました。

ほかの地域でも、関東の書店チェーン「USAGIYA」さんでは「どこでも本屋さん」(今のところ宇都宮市限定)という取り組みがスタートしているようです。

ほかにも、「みせさき本屋」とは逆に、街の書店に自分の本棚を作れる、という取り組みをされているところもあります。こちらは兵庫県尼崎市のダイハン書房さん。

興味のある方は、ぜひぜひ調べてみてください。

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2016年創業。海とタコと本のまち「兵庫県明石市」の出版社です。writes.right.light「書く力で、まっすぐに、照らす」を合言葉に、ジャンルにとらわれず本をつくっています。 https://linktr.ee/writes_p

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