職場体験の中学生と一緒に取材したら図書館の熱い部分が見えてきた
職場体験、みなさんはしたことありますか?
中学生のときに近隣の企業でお仕事体験をさせてもらうやつです(ライツ社のある兵庫県では「トライやる・ウィーク」という名称)。
実はライツ社にも、市内の中学生が職場体験にきてくれました。 編集や営業のお仕事を体験してもらうなかで、一緒に「明るい出版業界紙」の取材も体験することに。
向かったのは「Library of the Year 2021」 優秀賞・オーディエンス賞を受賞したあかし市民図書館です。
この日のスケジュール
9時 「明るい出版業界紙」読む
10時 図書館への質問を考える
12時 お弁当
13時 図書館へ行って取材
14時半 ライツ社へ帰る→次の日の説明など。
15時 解散
Mくんには、事前に聞きたいことを書き出してもらいました。
お弁当も食べて準備万端。いざ取材です! あかし市民図書館の企画広報・鳥澤さんが対応してくれました。
忙しい若者は図書館に来ない?
ー今日は、Mくんに聞きたいことを考えてきてもらったので、ざっくばらんにお答えいただければと思います。
鳥澤さん:よろしくお願いします。
Mくん:ではさっそく質問です。図書館にはご高齢の方も来ると思うんですけど、年齢層的にどんな人たちにもっと図書館に通ってもらいたいですか?
鳥澤さん:年齢層で見ると、高齢の方に比べると若い方の利用が少ない状態ですね。子育て世代の方も利用されていますが、お子さんが赤ちゃんのときが一番多く、だんだん利用は減っていきます。高校生、大学生の利用が少なく、社会人になるとすこし利用が増えていきます。図書館は公共施設なので、いろんな人に使ってもらいたいですね。
ーこの層に来てほしいというより、少ない層をもうすこし底上げしたいという。
鳥澤さん:そうですね。おそらく高校生・大学生のみなさんは学校の勉強があると思うのでなかなか来る時間がないのかもしれませんが、ぜんぜん使わないというのはもったいないと思うので、市民のみなさまに平等に使ってもらうためのサービスを考えていきたいと思っています。
ー来てもらうためにどんな取り組みをしているんですか?
鳥澤さん:たとえば、中高生、大学生向けのティーンズコーナーがあります。
ーあの真ん中の棚が丸くなっているところですかね。
鳥澤さん:そうです。児童向けの棚か大人向けのむずかしい棚しかない、となるとちょっと極端なので、その「中間地帯」をつくったんです。おすすめの本を見てもらったり、以前は、ボードゲーム大会などのイベントを開催したりしていました。
ーそんなのやっていたんですね!
鳥澤さん:人狼ゲームとか市販のボードゲームなんですけど、学校も年齢もバラバラの知らない人と交流ができる、図書館を「ちょっと集まる場所」というところにしてほしいなと。まず来館してもらって、一緒に本も見てくれたらというのもあって開催しました。
ーきっかけづくりをしているんですね。
鳥澤さん:そうですね。広報手段といいますか。ふつうのお店と違って、テレビのCMや折り込みチラシ、というのがなかなかむずかしいので(笑)。
ーたしかに図書館のCM見たことない。
鳥澤さん:広報出せる形といったら公的な「図書館ニュース」や「広報あかし」など、わざわざ手に取ってもらわないと見ないものになる。ウェブ広告のように自動的に出てくるというわけではないので、まずは知ってもらう、というところをがんばりたいなと。けれど、なかなか苦労しています。
ーMくんは図書館に来たとき、ティーンズ棚に目がいったりするかな?
Mくん:一応、見ますね。窓際のいすには高校生・大学生が座っているときが多くて、なかなか入りにくかったんですけど、ティーンズの机はけっこう空いていて、中高生が読むような本がたくさんあるので入りやすかったです。
鳥澤さん:そうなんですね。そういう意見を聞かせてもらえるとすごくうれしいです。ぜんぜん人が来てないのに「ここは中高生のための席です」とかって、なかなか言いづらいじゃないですか。でも、若い方からそういう意見をいただけると、理由や根拠を聞かれても「こういう意見があったのでこう進めます」と言いやすくなるので、とてもありがたいです。
45万冊を日々メンテナンス
Mくん:大人と子どもって考え方が違うと思うんですが、もし中高生と一緒に働くならどんな図書館にしていきたいですか?
鳥澤さん:おもしろい質問ですね! まずは、いろんな話を聞いてみたいなと思います。長く働いていると、「昔からこうだよね」とか「こうしなくちゃいけない」というのが固まってきてしまうので、そういう考えを柔らかく崩せるような心の持ち方はずっと持って仕事をしたいと思っています。
Mくん:今回、うちの中学校の生徒も職業体験に来ていますよね。
鳥澤さん:はい。ひと通り体験してもらっています。いまは受付カウンターのお仕事をやってくれていると思います。
Mくん:図書館ってどんな仕事があるんですか?
鳥澤さん:まずは基本的な貸し出し・返却をするカウンターの業務です。もう1つ奥にあるカウンターでは、利用者登録や本の予約、レファレンスといって「こういう本ありますか?」という問い合わせに答えていく資料調査のお仕事をします。
あとは、開架と閉架ってわかりますか? 書架の「架」という字を書くんですけど、開架というのがみなさんが手に取っていただける本棚で、閉架というのが表に並んでないわたしたちが裏から取ってくる書庫のことです。これらの書架の整理なども行なっています。
ー開架と閉架の割合ってどれくらいなんですか?
鳥澤さん:およそになりますが、3対2くらいの割合で開架のほうが多いです。国立国会図書館は、ほとんどが閉架です。公共の図書館はだいたい開架のほうが大きいかと思います。
ー閉架式の図書館もあるんですね。ちなみにあかし市民図書館の蔵書は何冊くらいあるんですか?
鳥澤さん:今はたしか、45万冊くらいだったと思います。
図書館の仕事はほかにも、返却された本を元の位置に戻していくときに、違うところにある本も見つけて戻すこともしています。一応、図書館としては読んだ本を元に戻してもらうようお願いしているんですけど、これだけたくさん本が並んでいるとわからなくなって、違うところに返っていることがあるんです。
ー大変そうですね。
鳥澤さん:あとは、資料の収集や受け入れの作業をしたり、ときには傷んでしまった本を取り除いたりするなかで、蔵書のバランスを取っていくというのも大切な仕事です。たとえば日本の料理って、おせちとかおそばとかいろいろあると思うんですけど、日本料理の棚に「おみそ汁の作り方」の本が一切ない、となるとちょっとバランスが悪い。
ーその判断もむずかしそうですね。
鳥澤さん:そうですね。特にパソコン関係の本は移動が多いです。新しい情報が載った本がたくさん出版されるので、古い情報とこまめに入れ換えなければいけません。また、リクエスト(購入希望)に応えたり、図書館としても買っていかないといけない本というのがたくさんあるので、新しい本で棚がいっぱいになると余剰本を書庫に移動させます。
ー全館でそれをおこなうのは大変ですね。
鳥澤さん:もう1つは、いままで来ていない人に来てもらうための企画を立てたり、今後の方針を考えたりする企画広報の業務ですね。イベントのときには、蔵書検索と実際に書棚の中身を見ておすすめのブックリストをつくったりもします。
私たちは売らなくても成り立つ、けれども
Mくん:この仕事に就いて一番うれしいこと、やりがいがあったことはなんですか?
鳥澤さん:わたし、もともとは土木関係の人間だったのですが、資料の保存や情報伝達、都市計画などに興味があったんです。都市計画では、どうすれば人が生活しやすいかや、成長しやすいかを考えていくんですけど、「知識」というのも大きな成長素材で、「知識」にアクセスするためにだれでもが使いやすい教育文化施設が図書館だったんです。そんな図書館をもっと身近なものにしたいと思っていました。
ーそうなんですね。
鳥澤さん:いろんな人がたくさん利用して、いかに知識を蓄えてもらえるかを考えていたので、仕事を通して新しく図書館のことを知ってもらえる機会ができたり、本を紹介して「こういうことだったのね」と言ってもらえたりすると、やっていて良かったなって思います。
ーなるほど。
鳥澤さん:たとえば、以前コロタイプというすごく古い印刷技術の展示をやっていました。160年前に開発された印刷方法で、日本では100年くらい前に使われていた印刷技術なんですが、版のみぞの深さで色の濃淡が決まるものなのですごく繊細に印刷できます。現在主流のオフセット印刷ではできない精度の表現ができるんです。現在それができる会社が日本で2社のみ、さらにカラー印刷ができるのは世界に1社しかない。というところを知ってもらいたくて展示をしました。
ー知りませんでした。
鳥澤さん:重要文化財もコロタイプで複製をつくられています。たとえば法隆寺金堂の壁画(国宝)は火災があったんですが、便利堂さんというところが複写のための原本を記録してくれていたので再現模写されたんです。そこまで重要なものなのになかなか知られていないのは、すごくもったいないと思いまして。そういう知らない世界をお伝えできたというところは、わたしとしてはすごく良かったと思っています。
ー書店の展示って基本的に本を売るための展示ですけど、視点がぜんぜん違いますね。
鳥澤さん:やはりそこは図書館と書店さんの違いです。わたしたちは売らなくても成り立ってはいくんですが、人が来なかったら予算はどんどん減っていきます。お金と直結するわけではないんですが、長いスパンで考えたときに、将来の利用者になる若い世代の方々に図書館の必要性を感じて使ってもらえるかというのはすごく大事だと思っています。
ちなみに、書店といえばあかし市民図書館のめずしいところがありまして、下の階のジュンク堂書店にも図書館の本の検索機があるんですよ。
ーありますね! すごく気になっていました。
鳥澤さん:一見、不思議に思うかもしれませんが、数年前に出版された本が欲しいときに、絶版していることがけっこうあるんです。そんなとき「図書館にならあるよ」となれば、本につなげることができる。
逆にあかし市民図書館は新しい本を大量に仕入れたりはしないので、予約がつくときはすごくたくさんついてしまうんです。最近多かった印象の本は、又吉直樹さんの『火花』で、(明石市立)西部図書館と合わせて蔵書10冊に対して、数百件の予約がついて。
ーそうやって連携されているのに驚きました。
鳥澤さん:わたしも初めて検索機があると聞いたとき、すごくびっくりして(笑)。そういった切り分けができているので、書店さんとも一緒に協力できているのかなと思います。
評価された「絵本の宅配便」の取り組み
ー今回、あかし市民図書館が「Library of the Year 2021」に選ばれたということで、おめでとうございます。この受賞の裏にもいろんな苦労があったのかなと思って、詳しく聞かせてください。
鳥澤さん:ありがとうございます。今回の受賞理由が一時的な取り組みに対してではなくて、これまでの取り組みに対して評価をいただけたのでうれしかったです。
ー評価理由は「官民協働での子育て支援拠点としての図書館政策」とありますが、どういったところでしょうか?
鳥澤さん:1つは、おすすめの絵本2冊をプレゼントする「ブックスタート」に関連したことです。いまはコロナで中止しているんですが、図書館のあるビルの6階に4ヶ月児検診を行っている「こども健康センター」があって、そこでスタッフが絵本の読み聞かせも行っていました。
赤ちゃんって、字はもちろん読めないんですけど、すごく絵をじーっと見る本があるんですよね。言葉がわからなくても、本によって反応が違っていて、お母さんたちも「え、こんなに見るの?」ってなるんです。
ーおもしろいですね。
鳥澤さん:ただ絵本をオススメするだけじゃなく、読み方や「まずは一緒に楽しむ時間を大事にしましょう」ということをお伝えするかたちでさせてもらっていました。自治体によっては「ブックスタート」で終わるところが多いですが、明石市では3歳6ヶ月児検診のときにも本を贈る「ブックセカンド」もあります。
ー「ブックセカンド」があるのはまためずらしいですね。
鳥澤さん:もう1点大きかったのが、ニュースでも取り上げてもらった、コロナ禍での「絵本の宅配便」ですね。
ー「絵本の宅配便」はどんな感じで始まったんですか?
鳥澤さん:あれは、泉(房穂)市長の発案で始まりました。
図書館も緊急時だったので、自治体の方と一緒に実現に向けてどうするのかという話をして。車の手配や本の選び方など別の部署の方ともかなり密にやりとりをして、本を届ける体制をつくることができました。そうして広いところで子育ての連携を取らせてもらったのかなと思っています。
ー混乱のなかで大変だったでしょうね。
鳥澤さん:興味深かったのが、届ける本について、ご希望の絵本があればそれをお届けしますし、特になければスタッフが選びますというサービス内容だったんですが、ほとんどの方が「選んでください」という希望で。わたしたちからしたら、すでに読みたい本があるのだと思っていたんですけど、そうじゃないんだな、ということなど、気づけた部分が多くあったので、スタッフにとってもプラス面が大きかったです。
ー自分のこどもに合う本って、意外とわからないかもしれないですね。
鳥澤さん:例えばリクエストに「5才、乗りものが好きです。5冊選んでください」って書いてあるんです。いままでそういう探し方をしたことがなかったので、スタッフはほとんど1日中絵本コーナーに張りつきっぱなしだったんですけど、おかげで絵本にかなり詳しくなったと思います。
ー評価の裏にはいろんな苦労があったんですね。話を聞けてよかったです。ありがとうございました。
Mくん:ありがとうございました。
ーMくんは今日話を聞いてみてどうでしたか?
Mくん:図書館は勉強しに来るところでそんなに深く考えたこともなかったんですけど、今回いろんな話を聞けて、図書館を見る視点がちょっと変わったな、と思います。
◇
当たり前にあると思いがちな図書館でのサービス。でも今回中学生のMくんと取材に行ったおかげで、その裏側の苦労や「図書館だからこそやらねば」と燃えている部分も垣間見えました。
ちなみに、職場体験中にMくんが本の帯コメントを書いてくれたのですが、その本ができました。Mくん、ありがとう!
「むずかしすぎて7回死にました」(14才・男性)
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