文化度を上げる=来店頻度を上げる。これからの本屋がやるべきこと
「もう出版不況とは言わせない。これからの出版業界を変える4つの話」#2
目次
1.バカ売れの90年代からの直下とV字回復 (6/25 更新)
2.文化度を上げること=来店頻度を上げること (6/26 更新)←now!
3.書店と出版社で「いまさら」な出会いを増やそう (6/27 更新)
4.「本に関わる人」はもっと自信を持っていい (6/28 更新)
文化度を上げること=来店頻度を上げること
- 井上さんが出版営業を改革している一方で、百々さんも書店としてはあり得ないことをいっぱいされていく、というのがあったんですよね。不況になってからですよね、いろいろやり出されたのは。
百々 そうですね。同じように見えてるんで、小売業としての限界が。
- 限界はいつ感じたんですか、最初に。
百々 出版不況って言われだしたときからですね。それまでは何も考えなくてもよかったんだけど。知識を求めようと思ったら本。本を読んでいる人が「情報通」。趣味でも仕事でも、情報を自ら取りにいく人。でも、「あの人情報通だね」っていう言葉なんか、もう今ないでしょ。世の中全員、情報通だから。
- 死語になってる、確かに。
百々 情報は取りにいかないと手に入らない時代やったんで、本は売れてましたね。でも、インターネットができてから、誰もが情報が取れるようになっていった。本屋さん、図書館に行かなくても。
人口が減っていくっていうのがニュースとして出始めたのもその頃ですよね。もう絶対回復することはあり得へん、消費がね。どんどん消費が少なくなるし、出版業界だけじゃなくてあらゆる商売が淘汰されていくのは当たり前やけど、じゃあ本屋は淘汰されていいの?って。
- 実際、本屋さんはどんどん潰れていってしまった。
百々 しょうがないと思うんです、会社としては。でも一方で、文化としてなくなっていくのはいいの? 僕がちっちゃいときに行ってた本屋も、もうない。ちっちゃいとき、あそこに住んでて、そこにあのちっちゃい本屋があって、それで自分の家にあの本があったから、それを何回も読んで自分がいろいろ身に付けられた。そういう本屋が、もうないんや。そういう原体験が、あの辺に生まれた子どもにはもうないんや。そんなんでええんかな思って。
- 書店空白地帯、ですね。
百々 どんどんそうなっていく時代に、本屋が利益なんかを追求してはいけないな、と。あとから絶対簡単についてくる。利益を求めるのに、利益を追求するなんてアホやな、みたいに思っているから。僕は、ずっとそれは変わらないです。文化を追求してかなくちゃいけないな。利益はあとからついてくるっていう。
- 利益はあとから。
百々 その方向にシフトしていったのが、出版不況になってからの僕のキーワードですね。だから、儲かるための仕事とか、僕自身は1冊幾らの報奨金(※)付きますとかっていって心が揺らいだこと、1回もないですもんね。その本がニーズに合ってるの? 出版社の思惑で売りたいものを必要ないかもしれない人に無理やり売ってる感しかないから。それ、いつか飽きられる。本屋さんなんか、お客さんに飽きられた瞬間に存在意義なんてないから、そうはしたくないんで、一見無駄なことばっかしてますね。
※報奨金:出版社の販売促進活動の一つとして、指定銘柄1冊ごとの売り上げに対して出版社が書店に特別に支払うお金のこと
- そこがきっかけやったんですね。
百々 そうやろうね。
- じゃあその話がOBOP(※)とかにつながっていく。
※OBOP=OsakaBookOneProject:チェーンの枠を超えて大阪中の本屋と問屋が、大阪を舞台にした小説の中からほんまに読んでほしい1冊「大阪ほんま本大賞」を決定。大賞に選ばれた本は、数千・数万部単位の重版がかかるほどの影響力がある賞。その売上の一部で大阪の子どもたちに本を寄贈している。過去5回で約500万円分の図書を寄贈
百々 そうなったときに、もう今は一地域のお客さんだけ、自分のお客さんや場所だけカバーしとけばいいってもんじゃないな、と。もっと広い視点でやらないといけない。企業は利益を追求するためにあるので、相反するのかもしれないけど、僕の中で整合性があって。実際、儲けられるような仕組みも考えるし。
チェーンは違うけど、お金が集約される場所は違うけど、文化としての発信は同じ方向を見て、みんなでやらなくちゃ意味がないなと。一つのマーケットの層に向かってね。
- なるほど。でも出版業界の方から「文化」って言葉を聞くたびに、正直なんか逃げ道というか言い訳めいた響きに感じるときもあります。
百々 前提として、絶対に人口は減っていくんです。だから、何もしなかったら絶対に売上は下がる。それに対する僕の回答は、じゃあ日本人の文化レベルを2倍高くすればいいんでしょ、なんです。
- 文化レベルを2倍?
百々 具体的な数字に置き換えるんだったら、例えば月に1回、五人家族がそれぞれ本屋さんに来てるとする。それをおじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、子どもそれぞれが、2回ずつ来てくれるようになったらいいっていうのをしたいわけですね。
つまり1人当たりの来店頻度を上げたい、という。みんながみんなに向けて、いつまでも文化度の薄い本を店頭の一等地でバーンと広げててもしょうがない。それはもう、人口が少なくなっている今、パイの奪い合いの話になってくる。文化を上げるっていうのは来店頻度を上げるっていうこと、1人当たりの。人口が減る分、来店頻度を増やして売上の総数を一緒にしちゃおうっていう考えです。
- めっちゃわかりやすいですね。文化って、ちょっときれいごとに聞こえるけど、そう言われると現実的にできることが考えれるなと、すごくイメージが膨らみました。来店頻度を上げる。
百々 本屋が街に点在しているんだったら、みんなでその街のお客さんの層の文化意識を高く、文化度を高くしていくのが、それがみんなにとっていちばんの幸せですよね。お客さんにとっても。もっと深くいろんなことを本によって知ってほしい。でもそれは1店舗では難しい。みんなで協力していきたいなっていうのが、OBOPの始まりですよね。
- だから、大阪の本屋が、大阪を舞台にした小説を選んで、大阪の人に売るんですね。
百々 そう。一人勝ちなんかもうあり得ない。一人勝ちって、言っていいのは1年ぐらいでしょ。めっちゃ儲かるシステムを考えても、今の時代は2年、3年持たないと思う。
でも、来店頻度を上げるのは、そんなに不可能じゃないと思ってて。失われた子どもたちの数を取り戻すのは不可能やけど、文化度は上げれるかな、って。
- 確かに。
百々 大阪だけじゃなくて、いろんな地域がそうやってくれたら、日本人の文化レベルが、知識レベルが高くなって、本屋さんも出版業界も、ひいてはよくなっていくかなっていうところですよね。
- すごいイメージが湧きました。
百々 エーミールの話しましたっけ。
- 百々さんの本の原体験の話、ですか。
百々 アストリッド・リンドグレーンっていって、『長くつ下のピッピ』とか書いてる人がおるねん。『長くつ下のピッピ』だけが取り上げられるんやけど、僕が幼稚園のときに読んだ本があって。『エーミールと60ぴきのざりがに』っていうのが原題やったかな。このお話は、村議会議員になったエーミールが、もともとちっちゃいとき、いたずら好きで、お母さんに、エーミールみたいな子が増えるかもしれんから、エーミールがやったいたずらを書き留めて、広くみんなに読ませるようにしてくださいって頼まれました、っていうところからスタートする。エーミールのいたずら記録。幼稚園のときにそれ読んで、エーミールになろうと思って、今に至る。ほぼほぼ僕、エーミールですよ。
- 原動力というか。
百々 小学生、幼稚園のときにそんなふうに思うって、児童文学ってそういう力あるじゃないですか。
- 影響力が。
百々 児童文学の影響力はすごいと思う。そのまま影響受けて大人になってる人ってめちゃめちゃおる。本人はもう忘れてるかもしれへんけど。価値観とか人生観が変わる「売り物」って、本くらいしかないんですよね。
- OBOPの寄付も、そういうことにつながっている。
百々 そうそう。
- 原体験。
百々 ある施設ではね、子どもたちだけで会議やったんです。この施設はこんだけお金をもらえました。だからみんなで、こんだけ分、本買っていいですよ。でも逆にこんだけしかないから、みんなで話し合って決めましょう、みたいな。本を手に入れることも重要ですけど、本を選ぶ体験はもっと重要ちゃうなかなって。
- めちゃいいですね。
百々 『仮面ライダー大図鑑』とか『かいけつゾロリ』の最新刊。「ゾロリめっちゃいいで。俺のこの前の読んだやつ話したろか」みたいな。
- 熱量が。
百々 たぶん、その子もOBOPの寄付が始まってからゾロリのシリーズを読むようになって、前の前の人が買っていったやつがたまっていって、読んでいってるのかもしれない。で、最新刊が欲しくってみたいな。なんかすごいいいでしょ。
- すごい。火種がそこで起きてる感じ。
# 3 書店と出版社で「いまさら」な出会いを増やそう へ(つづく)(6/27 21時 更新)