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10年前の商品が売れることが、すごい。書店と出版社で「いまさら」な出会いを増やそう

「もう出版不況とは言わせない。これからの出版業界を変える4つの話」#3
目次
1.バカ売れの90年代からの直下とV字回復 (6/25 更新)
2.文化度を上げること=来店頻度を上げること (6/26 更新)
3.書店と出版社で「いまさら」な出会いを増やそう (6/27 更新)←now!
4.「本に関わる人」はもっと自信を持っていい (6/28 更新)

本屋と出版社で「いまさら」な出会いを増やそう

井上 僕、ミステリーって本当にこの10年ではまったんですよ。東野圭吾さんとか、それこそ池井戸さんにはまったり。

そういう話を7、8年ぐらい前に書店さんとしたときに、「いまさらですか」って言われて、喧嘩にまでは、もちろんならなかったんですけど、「いまさらですか」って言われたんです。でも、そのとき思ったのが、僕って新規読者なのになって。

 そのいまさらをつくることが大事。

井上 誰もが知ってる本を、昔の、5年前、10年前に読まれた本を、今、自分が感動して読んでるわけですよ。面白い!ミステリー小説!って。

 むしろそうやって時間を越えられるっていうのが、本の魅力ですよね。

井上 だから昔の小説だって売れるんですよ。

百々 そうそう。まだ絶版になってなかったら。たとえ平積み(※)してなくても、差し(※)でも、書店の棚卸しは何回も超えてるような本を、なんでやらん(展開しない)のって。

平積み:本の表紙を見せる並べ方。差し:本の背を見せる並べ方

井上 「あなたのお父さんとお母さんが青春時代にはまった本!」とかって言ったら。

 ちょっと読みたくなってきた。確かに、そんなことができるものってなかなかないですよね。

百々 あったとしてもマニアの世界やね。「30年前のアンティークです」とか。

 本ほど身近で、手頃で買えて、そうやって共有できて。

百々 書店も出版社も何してんのかなって思うでしょ。文化も消えるし、既刊が売れなければ作家は新刊を出せない。ということは作家の才能も消えていくし、全然いいことない。そういうのも、ちゃんとやってほしいなって思いますよね。なのに出版不況とか言ってぼやいてると、出版業界全体が。

 やるべきことがあるぞと。

百々 例えば新人作家ってまだ「種」なんです。これからどう咲くかはわかんない。そんな人たちが先輩作家の姿を見て、昔めっちゃ売れたけど、今は売れてない、とする。

そしたら、自分の12年後も見えますよね。育てる気あんのかなって。だからちゃんと作家を意識して、ちゃんと育て上げて、その後もちゃんと売る。まだ書いてもらい続けるためには、昔の本も12年たったら、もうそろそろ読者も1周してるから、またやりましょうって。

井上 うちは文芸の世界はわからないんで、本当にそんなに軽はずみなことは言えないんですけど、僕自身が本当この数年で、ミステリーっていうか小説にはまり始めたから、いくらでも新規読者がつくれるなと思った。

百々 全然いけますよね。

井上 それは本当、書店さんへの営業も頑張らなきゃいけないし、あと世の中の人に対して発信していくっていう。気づいてもらう。

ダイヤモンド社の営業チームが社内外で少しずつ認められるようになってきたころ、僕には一つの課題がありました。それは書店さんで場所をいただくことは大事なことなんだけど、同じぐらい大事なのが、世の中の人にダイヤモンド社の本を知ってもうらうこと。知ってもらって書店さんに来ていただくこと。いわゆるプロモーション機能がダイヤモンド社には必要だなと。

でも当時はこれができる人間が社内にはいなかった。幸運にもものすごい人に出会え、専門の部署を作ってもらい、今は営業とプロモーションチームが密接に連携することで、より息の長い販促戦略が立てられるようになった。『嫌われる勇気』が今年出版して8年目になるんです。

 もう、そんなに前なんですね。

井上 いまだに、うちのプロモーションチームと編集とで、いろいろな仕掛けをやってる。いまだにテレビに取り上げられるわけじゃないですか。うちだけじゃなくて、サンマーク出版さんとかも、アスコムさんとか。そしたら、必ず売上が跳ねるじゃないですか。それをフックにさらに売り伸ばせる。8年たってもまだ売れるわけですよ。

 まだまだ新規読者が。

井上 うん。まだ知らない人がいるんだって、100万部超えても。まだ知らない人がいるんだって。あと、もう一つ思ったのが、8年の間には日々書店さんを訪れる人がいて、たぶん『嫌われる勇気』っていう本の存在は知ってるけど、内容は伝えきれてなかったんだなって思う。タイトルだけは知ってたけど買わなかったっていう人が、テレビでこんな本なんですよって知ってくれることで、その人の胸に響くと買ってくれる。内容までちゃんと伝えられると、本はもっと売れる。

 それって8年もの間、本屋さんが置いてくれていた、目に留まるところに置いてくれていた成果でもあるわけですよね。

井上 連携プレーですよ。新刊、既刊って分けるでしょ。その考え方もあんまり、正しくて正しくないっていうか。読者が出会ったときが新刊なはずなので、その読者にとっては。勝手にこれは新刊だから、これは既刊だからって分けてんのはこっち側の論理であって、常に新刊中心の営業になっちゃうとよくない。もっと売り伸ばしに力を入れるべき本を見逃すなよって。本は置いてみるまでどう動くかなかなか予測のつかない商品なので、大事なのは動きが見えた時にそれを見逃さずにどう動くかが重要なんですよ。

 それができてないのに、また新刊を出してっていうサイクルになってしまうと。

井上 1日200点、これだけバンバン新刊が出てきちゃうと。

百々 12年前の新刊が1回転して知らない世代がもう1回出会う、ていうのは絶対にありますよね。

井上 ビジネス書にもバイブル的な本がいっぱいあるじゃないですか。うちの『入社1年目の教科書』っていうのが7年目になるんですけど、もちろん1年目の売上を超えることはできないんですけど、2年目以降は、3年目、4年目、5年目って仕掛けて、ずっと右肩上がりになったんです。それは『入社1年目の教科書』ってタイトルの通り、読む人は毎年変わったりとか入れ替わるので、どの時代でも通用する内容の本であれば、そうなる。

百々 それは狙ってつくったんですか。

井上 いや狙ってつくったわけじゃないです、当時はもちろん。だから結果的に、よくこれ書店さんからも聞かれるんですけど「トレンド何なんですか」って。そこまで明確に言えないと思うんですよ。大事なのって、売れたあとにそこからいかにより長く売り伸ばしていくか、だと思って。

 お客さんに届けることができるか。

井上 毎年毎年、新入社員の方がバイブルとして手にとって、またそれを3年目、5年目になったときに、次に入ってくる後輩のために何冊か買ってくれてたりしていて。

 そういえば、僕も前職で買いました。

井上 時間かければ、これだけ書店さん、なくなったとはいえ、全国まだ1万2000店舗もあるんです。アメリカは日本の国土の26倍あって、3,000店舗しかないんですから。

 10年前のものが売れる業界って、あんまりないですよね。でも古びない情報が、本の中には確かにあって、古びない本質が書かれていて、だからちゃんとそこで売れる。中身が伴ってるからっていうのは、すごい事例ですよね。

井上 そういう本がたくさんあるから。てことは本当に、ほとんどの本が知られてないってことなんですよ。棚に並んでるだけじゃわかんないんですよ。車とかなら全部スペックがわかるじゃないですか。冷蔵庫にしても、何ができるのかって、買う前から。

 機能ですからね。

井上 でも本はわかんないんです、読むまで。読み終わるまで。

だからうちは今、書店営業の部長が全国各地を回って、うちの様々な売上データをもとにまだまだ本は売れますよ!という勉強会を開催しています。北海道から沖縄までちょうど100か所を越え、延べで3000人を超える書店員の方に参加いただき、ほとんどの書店さんでその後売上がしっかり伸びています。その結果を見ているとまだまだ本は売れることを実感しています。

- 本当に、コツコツと。有言実行。

百々 思ってたのと全然違う方向に転じることもある。

井上 だから本当もったいない。

百々 (ライフネット生命創業者で読書家の)出口さんがいっつも言うのは、「本を選ぶのどうしたらいいですか」って講演会で絶対質問される。「どうやって選んでるんですか」って。それ二つありまして、一つは本屋さんに行くこと。店頭で、いろんな新刊が出てくる中、ポップを書いてくれたやつは絶対見るようにしてます、と。

もう一つは書評です。書評を書くような人が、変な書評を書いただけで、お金よりも大事にしている権威が失墜する。その人たちが自分のプライドを掛けて書いている書評やから、なんなら本より面白いって。

 自分の思想ですもんね。

百々 書店の店頭でポップ見たり、書評見てたら、外れる本なんか1回もないですって。みんな、自分で本を選ばなくちゃいけないわけじゃなくって、新聞読んだり本屋さんに行けばいいだけの話ですよって。

 それだけみんなが何を読んだらいいのか、わからないんですね。

# 4 「本に関わる人」はもっと自信を持っていい へ(つづく)(6/28 21時 更新)

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ライツ社
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