本はどうやったら売れるのか? 出版営業が語る「100万部のつくり方」
出版社の花形といえば編集。
でも、出版社には「営業」という仕事があります。
そして、有名な編集者ほど、転職する際には「その出版社に良い営業がいるかどうか」を基準にするという話も聞きます。そんな出版営業の役割とは?
今回は100万部突破のベストセラー『人は話し方が9割』を生んだ、「すばる舎」の営業部・副部長、原口大輔さんと「ライツ社」の代表取締役・営業責任者、高野の対談の模様をお伝えします。場所は大阪の「まちライブラリー もりのみやキューズモール」。イベント開催時の概要はこちら。
12,000字を超える長い記事ですが、かなり具体的に営業のことを知れると思います。それではどうぞ。
100万部突破までの年表
高野:よろしくお願いいたします。
原口:よろしくお願いします。「100万部のベストセラーはどうつくられるのか?」的なことなんですが。高野さんどうですか?
高野:すごい無茶ぶり。打ち合わせとぜんぜん違う。いや、ぼくも知りたいのでみなさんと追体験できればいいなと。今日は『人は話し方が9割』が100万部にいくまでの年表をつくってまいりましたので、それに沿って話していけたらなと思っております。
企画スタート 「話し方」にテーマが決まるまで
原口:『人は話し方が9割』の著者の永松茂久さんという方にお会いしたのが、ぼくが前職の「きずな出版」にいたとき。ぼくが「話し方の本を書いてほしい」ってお願いしたのが最初です。普通、営業は著者さんとあまり接点がないんですよね。でも永松茂久さんは営業も企画から入ってという方で、ぼくも衝撃でした。
高野:「企画の話がどう始まったのか」という部分ですね。
原口:でも当初は無理だって言われたんです。
高野:そうなんですね。
原口:そのあと、「すばる舎」に入ってから久々にお会いする機会をいただいて、それから何度もお願いしたんですが、なかなか決まらず、最後に「すばる舎」の編集長からもお願いして「そこまでおっしゃるなら」と決まった企画なんです。
高野:スタートまでかなり粘り強くいったんですね。
原口:はい。ぼくは一つ思いがあって。永松茂久さんの著書はたくさんあるんですが、『感動の条件』という本が10万部を超えていたんですね。「それを超える本をいつか永松さんとやりたい」という思いがずっとあったんですよ。
そもそも出版営業とは
高野:ありがとうございます。いま、原口さんの話は企画目線も入っていると思うんですけど、そもそも出版営業ってどういう仕事ですか?
原口:出版社がつくった本を流通させるため、取次を通して全国の書店さんに配本をしてもらって、本屋さんで「売ってください」「これ置いてください」とお願いする。ざっくりと言うとそんな感じですね。
高野:そうですね。だから本屋さんに仕事で行ける職業という、本屋好きにはたまらない仕事ですね。原口さんの特徴としては、「企画も好きだな」というのは思っていて。年表で「2019年3月に企画スタート」って書いていますけど、このころぼくと原口さんとで夜2人で飲んでいて、仕事も終わったしリラックスタイムだと思っていたら、いきなり原口さんが「永松さんと話し方の本をつくろうと思っていて。ちょっとタイトルを考えたんだけど見てくれないかな?」って。それが100個以上あるんですよね。いまからビール飲むのに……すごい仕事になってきたみたいな。
原口:申し訳ありません(笑)
軸になったのは、ある成功体験
原口:100個以上考えた中から10タイトルまで絞っていったんですが、最終的に「このタイトルでいきましょう」ってなったのは一つ成功体験の要素があって。
高野:はい。
原口:ぼくは「経済界」という出版社にもいたんですけど、そのとき『人は「話し方」で9割変わる』(初版発行:2006年)という新書が経済界から出ていて。初版6000部ぐらい。これがかなり売れたんですが、もう13年ぐらいたっている。だったら「もしかしたらいけるのではないか」というふうに。じゃあ、ストレートに『人は話し方が9割』でいこう!とスタートしたんです。
原口:『人は「話し方」で9割変わる』のときにぼくがなにをしたかお話しすると、「売れているからもっと広げるために話題性をつくりたい」と思って。旗艦店で実績をつくり、ほかの書店さんに話して広げていったんです。旗艦店というのは初動がよかったり、売れるお店です。
いまはもうなくなってしまったんですけど、「ブックファースト 渋谷店」という書店があって。1階が話題書と雑誌など。2階が新書や文庫コーナーでした。『人は「話し方」で9割変わる』は新書なので2階で置いてくれるんですけど、1階に置いてもらわないと数字がはねなかったんですね。で、1階の話題書担当さんに「すみません。『人は「話し方」で9割変わる』絶対に売れるので置いてください」ってお願いしに行ったんです。でも置いてくれないんですよ。
それを何度か繰り返していくうちに、ぼくも吹っ切れまして、ほかに案内する自社の新刊が4、5点あったんですけど、「この新刊を置かなくていいから、この『人は「話し方」で9割変わる』を50冊置いてください」。「1週間で半分売れなかったらもう二度とお願いしません。だけどここで3面に置いてください」ってお願いしたんです。「それだったらもうわかった。でも売れなかったら次は絶対に言うなよ」って言われて、「わかりました」って置いてもらいました。
そしたら翌週、ビジネス書ランキングで8位に入ったんです。「売れましたね」と。「じゃあまだ売ってください」って追加をお願いして。そのまた翌週にはビジネス書で3位。その翌週に行ったら今度は1位。総合ランキングでも10位に入りだして。総合に入ってからはどんどんランキングから売れたんです。
そのあとなんだかんだあって、3ヶ月連続で総合1位になったんです。1日に多いときで30冊売れるんですよ。閉店しなかったら1店で5000冊売れていたかもしれない。毎週200冊持って行かないと足りなかったんですよ。その成功体験があったんです。
初版7000部で発売 勝負は発売1ヶ月後
高野:ぼくがおもしろかったのは、そういう成功体験もですけど、以前「ここの書店のこの人に売ろうと思って企画をつくった」みたいにおっしゃっていましたね。
原口:最初は永松茂久さんのファンの方が買うと思っていて。それはすごくいい話なんですけど、それ以外のナチュラルな動きは発売1ヶ月以上たってからが勝負だなと思っていて。そのためにはなにが必要かって言うと目的買いではなく……衝動買い。たとえばイオンとかのショッピングセンターに入っている書店さんで、パート帰りの主婦の方が「気になるな」って買ってもらえる本をイメージしました。
高野:すごく企画から入るんだとか、棚を考えるんだというのは、逆に弊社はあまりやってないのですごいなと思いました。2019年の9月に初版7000部で発売しているんですけど、これってすばる舎さん的には多いんですか? 少ないんですか?
原口:多いですね。うちと近い同業他社さんとかだと、だいたい5000部前後とか4500部の初版がラインかなと思いますね。
高野:そうか。ではけっこう期待をかけて?
原口:そうですね。ただ最初は、うちの営業マンは8人いるんですが、ぼく以外は知らないわけですよね。いままでの本の実績を追いかけて、「これはもう著者さんのファンがいるからね、そういう感じの売れ方をするんじゃない」って。実績を見るのは大事なことなんですけど、そこが最初はきつかった。
高野:スタート段階ではけっこうみんな、まあそんな。
原口:のってない。
高野:そんなにいかないでしょみたいな?
原口:そう(笑)。
高野:なるほど。では初版の営業のときは仕掛け店をいっぱいつくっていたとか、そういうわけではない?
原口:そこまでなかったですね。いわゆる大型書店さんというところにはある程度の冊数は入るんですよね。7000部なんで。
高野:なるほど。発売して初速はよかったですか?
原口:そうですね。まあ、一安心みたいな感じでしたね。
高野:年表に「40代女性を中心に幅広い読者に受け入れられる書籍と確信し」って書いていますけど、それは単純になんで確信できたんですか?
原口:さっきも言った通り、予想通りの方たちが買って行ったんですよ。大阪に「未来屋書店四條畷店」というところがありまして、そこでどの方向からでもこの本が見える、お客さんがよく通る位置の仕掛け台があって、そこで置いてもらったらめちゃくちゃ売れました。年末年始に売れがよくて、これは絶対にサラリーマンじゃない人が買っているって確信したんですよ。これは一般の方が買っている衝動買いだって。そこで、これはもう10万部はいくって確信しました。
高野:それを確信したのはすばる舎さん全体で確信したのか? ほかの営業の方は?
原口:徐々に「これはいいかもな」という感じで。何刷かそのときまでに刷ってはいるので。細かく最初は刻んでいたんですよね、3000部ずつとか、多くなってきたら6000部とか。それもすごいことなんですけど。
高野:その段階だと営業ってなにをしているんですか? チェーンのたとえばTSUTAYAさんの本部のバイヤーに案内するとか、そういうのは想像できるんですけど。
原口:そうですね。ナショナルチェーンと言われているところをメインに案内をしながら、だんだん地方の書店さんに。
高野:広げていく?
原口:そうですね。ジワジワと広げていったというかたちですね。
高野:なるほどね。ぼく自身広げて失敗した記憶がよみがえってきましたけど(笑)。
原口:そういうこともあります(笑)。
10万部突破 緊急事態宣言発出、しかし
高野:それで2020年の2月に10万部を突破しているわけです。
原口:ありがとうございます。
高野:10万部突破して……ここがおもしろいですよね。つまり2020年の2月に仕掛けていこうってなっているわけですよね。JR東日本のドア横広告、金額で言えばすごく高い。その最高峰の広告を4月に仕掛けていますが。
原口:そうなんです。いよいよ明日勝負だと。高野さんがおっしゃったようにドア横の大きい枠の広告で勝負しようって。
高野:初めて5万部刷っていますね。
原口:ところがどっこい、初の緊急事態宣言が出まして。世の中の本屋さんがほとんど閉まってしまっていて。だから配本ができないんですよね。
高野:そうですね。納品できない。
原口:はい。納品できない(笑)。電車も人が乗ってないのでスカスカ。
高野:どういう気持ちだったんですか?
原口:いやー、「終わった」と思いましたよ。かつ、おうち時間を過ごそうってなったじゃないですか。「話し方」ってなおさらやばいなって(笑)。
高野:そうですよね。対面とかいらないでしょみたいな。
原口:だから本当に著者の永松さんと「大輔、これきついな」ってなってしまったんですよね。
高野:そして? しかし?
原口:「しかし」なんですよ。
高野:しかし売れている……。
原口:いろんな要因があったと思うんです。身近な人とのコミュニケーションだったり、オンラインでどうやって相手に伝えればいいんだろうっていう需要。これは持論なんですけど、そのとき『鬼滅の刃』がはやっていたんですよ。
高野:すごかったです。緊急事態宣言のときですよね。最高の盛り上がり。
原口:お客さんが『鬼滅の刃』を買いに行こうって行ったときに、『人は話し方が9割』がランキングに入っていたので、これ気になるなという方がけっこういらっしゃったのではないかなって。ぼくはすごくランキングを重視しているんです。ランキングに入っていれば信頼感があるし、2回3回同じお店に行った際に目に入れば「じゃあやっぱり買おうかな」って思う。
高野:では、そのときに『人は話し方が9割』はランキングの棚にあったんですか?
原口:そうです。ナショナルチェーンや全国にある書店さんでランキングに入れるのが目的だった。そうすると展開場所が増える、信頼度が上がる、というところをめちゃくちゃ意識していたんです。
書店で仕掛ける方法
高野:それはどんな営業だってランキングに入れたいです。書店さんにどういう営業をしたんですか?
原口:そこまできていたら、衝動買いという売れ方をしているので、自信を持って話題書に置いてください、仕掛けてください、という話を広げていきました。
高野:ぼくも書店員さんに「仕掛けてください」って言うと「君は毎回それしか言わない」って言われたりするんですが(笑)、そんな仕掛けてくださいで仕掛けられるものですか。
原口:営業を長くやっていると多少なりとも書店員さんとの関係性があるので。「置いてください」だけで本が売れないとお互いのwin-winにならない。いかに売れる提案ができるかが大事かなという、そこだけだと思うんです。
高野:なるほど。
原口:だからそのやり取りの中でだんだん「これはいいね」って言って「じゃあもっとやろうか」って動く。
高野:そうか、100万部いくにはシステマチックにやっているのかなと思ったんですけど。
原口:もうパッションです。
高野:パッション(笑)。だから、8人で頑張って営業していたという。
原口:そうですね。
高野:大手とはちょっと違いそうな。
原口:本当に草の根営業というか、そういう感じで展開していきましたね。
20万部突破 「王様のブランチ」で紹介
高野:『王様のブランチ』はもうなにも知らずに出たんですか?
原口:書店のランキングに入っていて、番組側からきたという感じです。
高野:『王様のブランチ』って、ある書店さんのランキングに入っている本を紹介する番組なので、これはもう原口さんの目論見通り?
原口:「そろそろくるかな」って思いました。テレビって出版社側のことを考えて取り上げるわけではないので、コントロールが効かないですよ、こればっかりは。でも本当にいい出かたで1分ぐらいは取り上げてもらいましたね。
高野:すごいのは『王様のブランチ』に出てから2ヶ月で10万部刷っているんですけど。
原口:はねました。
高野:相当はねたんですね。このはねたときって、営業ってなにをするんですか?
原口:「もっといっちゃいましょう!」って。さらにここでも拡販という感じですよね。
40万部突破 「中田敦彦のYouTube大学」で紹介
高野:次のきっかけが「中田敦彦のYouTube大学」。
原口:そのとき日販上半期ベストセラーのビジネス書ランキングで、ダイヤモンド社さんの『嫌われる勇気』に負けていて。だけど、もしかしたら頑張れば下半期で1位を取れるかもしれないというところ。ちょうど「中田敦彦のYouTube大学」で紹介された本が売れるというときで、取り上げてくれないかなという感じで。
高野:それは狙えないですよね。
原口:狙えなかったんですよ。ただ情報はちょっとあって、都内の特定の書店に「けっこう来ているよ」という情報があったんです。その書店の担当がぼくだったんですよ。
高野:めっちゃ大人買いするんですよね?
原口:そう。けっこう目立っていたと思うんですよ。そうやっている中で、まさかの2020年11月8日に上げてくれたんですよ。「よっしゃ! きた!」と。そこからまた盛り上がりまして。
高野:テレビだったらちょっと前に連絡がきたりするんですよ。「この日に放送します」みたいな。それに合わせて頑張って営業するんですけど、中田さんはそんな余裕を持って連絡しないですよね?
原口:しないです。1週間前にわかって。
高野:1週間では本当になにもできないんですよ。書店さんに注文をもらって、そこから本を搬入したら届くのがそれだけで1週間すぎたりするので。そのときはどうしたんですか?
原口:直接送りまくりました。
高野:なるほど。直送。
原口:直接お持ちするとか送ったりとかガンガンしました。書店さんも喜ぶんですよ。200冊ぐらいを3人で持って行ったりとか。
高野:たいへん泥臭くやってますね。
原口:もう肩が上がらなくなるんですよ、50冊以上持って行くと(笑)。
50〜70万部 売上の壁の正体
高野:2020年の12月、日販年間ベストセラーのビジネス書で1位になって、そこからまた50万部積み重ねていくわけですけど、2021年の6月から12月って重版ペースが落ちている。70万部いってから85万部いくまでってけっこう時間がかかっているなと思って。
原口:そうですね。壁があるんですよね。
高野:なんの壁ですか?
原口:本当に展開しているけど売れない。いいところに置いているんだけど。たとえば書店さんに行ったときに「ちょっと落ちてきているけど場所を下げちゃったんですか?」「いやいや、むしろずっとやっていたよ」って。そういうのもいっぱい出てくるんですよ。これはしんどいです。
高野:展開がいいのにもかかわらず売れが付いてこない?
原口:落ちてきます。同じ場所の見せ方で同じように展開しているのに、だんだんゆっくりになってきてしまう。なぜかと言うと、毎回書店に来ているお客さんには「風景化」してしまうんですよね。ただのもう風景。だから通りすぎてしまうんですよ。それをいかに止めるかをすごく考えてやりました。
高野:止められるんですか?
原口:展開場所の話もそうなんですけど、販促物も実はめちゃくちゃ替えていて。
高野:風景化させない。
原口:そうですね。電車の広告だったら電車のポップ、テレビに取り上げられたらテレビのポップ、長く使えるように部数を入れないものだったりとか、両面使い、サイズ感もいろいろつくったりして。とにかくいろんな販促物をつくってあの手この手で見せ方を変えて、書店さんもちょっとやる気になってもらったり。それを繰り返していくという本当に細かい作業です。
高野:だいぶ細かいですね。ちょっとすごいなって思ったのは次の……これ見えますかね? めっちゃ帯を替えているんですよね。
原口:正直もっと替えているんですよ。部数のところだけ数字変えたりもしている。これをやるのには理由があって、書店さんも飽きるんですよ。もっと言うと営業マンも飽きてくるんですよ。「すばる舎」も『人は話し方が9割』だけ売ればいいというわけじゃないので。
高野:営業も飽きるんですね?
原口:営業も飽きます。ぼくは一生飽きないんですけど(笑)。
とにかくロング飛行
原口:ぼくはやっぱり長く売ることに対してすごく重要視していて……。
高野:原口さんが?
原口:そう。たとえば本がテレビに出てバーンってはねました。「すげー!」って。そして一気に10万部刷りました、ってなるじゃないですか。そのあとってぼくは怖いことがあると思っていて、波がすごすぎると逆に落ち方がすごくなる。とにかくロングセラー。そこが一番大事かなって。そのときの感じで言うと、まだテレビで大きくは取り上げられてないから、まだ可能性あるよね。そこの繰り返しですね。
高野:もうちょっと具体的に、原口さんの具体的な営業としてはなにをしたんですか。
原口:「この本はさんざん売っているよね。だけどもうしょうがないからやろうか」という、飽きられたを通り越して「もういいよ、やるよ」みたいな感じでいってしまったという(笑)。
高野:悟りみたいな。
原口:「しょうがない、もう諦める」という。
高野:これ本当に非常になる問題で、同じものをずっと売っていても新刊がものすごく入ってくる状況なので。ぼくも何回も言われたことがあるんですけど「もう売り切ったかな」みたいな。でも売り切ってないんですよね、ぜんぜん。『嫌われる勇気』とかもめちゃくちゃずっと売れている。
原口:ずーっとロングセラー。8年ぐらいランキングで連続トップ10入りみたいな。そこをベンチマークにしていましたよ。とにかくロング飛行。長く長く売れるようにと考えていく。
高野:それってたとえば、みんなモチベーションが下がってきた、原口さんが営業をしたところで「やるよ」って言ってくれる人がでてきた、ちょっとずつそういう店舗をつくっていって、みんなのモチベーションとか書店さんのモチベーションも上がっていったみたいな感じですか?
原口:それもあるし、あと著者と一緒にイベントをさせてもらったりとか、それぐらいですよね。永松さんが「いいよ、なんでも協力するよ」って言ってくださって、たくさん売ってくださっている書店にお礼参りさせてもらったりとか。あとノベルティーをつくって本にシュリンクして巻いて。このボールペンがそうなんですけど。あとで皆さんにプレゼントしますので、終わってもしまだ時間がある方は、全員分持って来たので持って帰ってください。
高野:なんと! プレゼントを持って来ていて。こういうところが違うんだなと思いましたね(笑)。なにも持って来てない。
原口:そういうのもやりました。実際ボールペンと一緒にシュリンクで巻いて展開したらめっちゃ売れたとか。
85万部突破 日販年間ベストセラー1位
高野:2021年12月に日販年間ベストセラー1位。総合ですよね?
原口:はい。おかげさまで総合1位になりました。
高野:総合って、要するに文庫、コミックを除いた1位という。
原口:そうです。この間『スマホ脳』という新書があって、『世界一受けたい授業』で著者が来日して出演したり、めちゃくちゃ売れていたんですね。10月ごろ、途中段階で「どんな感じですか?」ってランキングを出している日販さんという。
高野:卸会社ですね。
原口:卸会社に聞いたら「いやー、『スマホ脳』はすごいですからね。無理ですよ、総合。もう新書ですし、売れていますし、これぐらいで覆されることないです」ってはっきり言われたんです。
高野:諦めますね。
原口:いや、諦めないです。逆に火が付きました。
高野:すごいですね。
原口:絶対ここから巻き返してやる、という感じで。もう2ヶ月なかったですね。営業マン、そして会社内の重鎮をほとんど全員集めて「もう1回いくぞ!」って。「やれること全部やりませんか?」って言って。チャンスがあるのにやらなかったら絶対もったいないでしょ。1位を取ったらなにか起きるかもしれないって、2020年の日販年間ベストセラーでビジネス部門1位をとったときも『おはよう日本』に取り上げられたんですよ。総合1位になったら絶対またくるからって。
高野:一番売れた本というのでニュース性があるということですよね?
原口:そうです。『おはよう日本』って全国だし、やっぱりNHKさんなので強いですよね。「それで取れたら絶対にはね上がるから」って言って
高野:「やるぞ!」って言ってなにやるものなんですか? 「やるぞ!」というまではぼくもできるけど。
原口:すでにもう売ってくれているところも、さらになにができるか、売りが落ちてしまっている書店さんにどうフォローができるかという。
高野:なるほど。フォローというと?
原口:ひとつは置いてくださる理由付けです。たとえば1冊売ってもらったらマージンをお支払いしますという条件を付けたりとか、いろんなことをしながら。ただでさえ条件が付いているのに上乗せでもっとやりますとか、この期間であり得ないパーセンテージ付けますよって感じでやったりとか。
高野:そうか、ここでベストセラーをとったら話題性があるから、この期間の粗利はちょっと少なくてもみたいな。
原口:そこらへんは粗利とかじゃないですよね。もうランキング1位を取りたいという思いですね。
高野:粗利とかじゃないんですよ。すみません。
原口:それは大事なんですけど、1位をとりたいという思いだけで超えたんですよ。『スマホ脳』とは最終的に5、6000冊ぐらい差で。
高野:ギリギリですね、そのレベルだと。
原口:そして、本当に『おはよう日本』に出まして。2019年の6月に発売してから単月で一番売れたのがこの2021年の1月だったんですよ。
高野:それすごいですね、普通下がってくるもん。
原口: 2021年の1月が過去最高の単月の売れ。だから発売してから2年以上たって一番の数字がたつんですよ。これはすごいことだと思うんですよ。
100万部突破 ミリオン達成
高野:このベストセラーを取ったことをはずみにして、かなりのペースで重版を決めていって、ついに2022年の2月ですか。
原口:はい。
高野:29刷目で、10万部の増刷って、もう自慢でしかないような。で、100万部。
原口:そうなんですよ。だからすごいときだと月に3万冊以上売れるんですよね。これ、日で換算すると1日に1000人以上が読んでいる計算になるじゃないですか。これすごいなって。この本はもちろんいろんなことをやったから、こうやって売れたのかもしれないですけど、ほかの売れている本でも、もっとやり方を変えれば、もしかしたらもっと数字がいくかもしれない。そういうのぜんぜんあると思うんですよね。
高野:お話を聞いていたら、かなり泥臭くされてましたが、ミリオンいったときのお気持ちはどうだったんですか?
原口:「最高だ」って満足するかなと思ったら、「これはもう、次いきたいな」という感覚になりましたね。「ここで満足してしまったらたぶん売れ落ちるな」って。
高野:感動したのと、ちょっと一緒に働けないかなとは思いますね(笑)。ぼく、日販年間ベストセラー1位が決まって、東京で原口さんと飲んでいて。たぶんそのときの部数は90万部ぐらい。いまでも覚えているのが、「原口さん、これミリオンいきますね。おめでとうございます」って言ったら、原口さんが「うん、でもダブルミリオン目指しているんだよね」って言って。「あ、こういう人じゃないとミリオンいかないんだな」って思いましたね、あのときは。
原口:これだけ本が売れないというなかでのミリオンセラーというのは、本当に宝くじに当たるかどうか……もっと難しいかもしれないレベルだと思うんですよ。でも夢を持ちたいじゃないですか。出版営業って夢があるなと思っていて。ちゃんと営業が書店さんに置いていただいて「売れました」ということができれば、「あ、この本良い本なんだ」って、続けて置いてもらって、また売れました。そういうのが繰り返しできればもっと売れる本って出てくると思うんですよね。それができるのはやっぱり現場、営業だと思うんですよ。だから、出版営業ってくそおもしろいなという。
高野:本屋さんの展開を一緒につくれる。それを全国でつくれるって、すごくおもしろいなと思いますね。じぶんが営業したおかげで書店の風景が変わるじゃないですけど。
原口:おもしろいもんで、どこに置かれているかって、現場に行ってみないとわからないですよね。データでは見れますけど。だから、どこのお店に何冊入荷しました。で、数字で売れ方を見ていて「うーん」って、展開を見てないからわからないですよね。もしかしたら全部ストックされているかもしれないし。
高野:極端に言えば?
原口:そう。極端に言えば。それで売れてないのかもしれない。
高野:だいぶ嫌われていますね。
原口:でも、それは結局行かないとわからないですよね。だからこそ、出版営業って大事で、「こういう展開されているから売れているよ」って。で、その情報を広げられるんですよね。ここでこういう展開をしたらこういうお客さんに刺さっているから、もっとここのお店だったらこういう展開をすれば売れるんじゃないですかって。
関わる人全員の熱を集める
高野:本を売り伸ばすのに一番大切にしていることとか大事なことというのはなんですか? もう、まとめに入っています(笑)。
原口:ぼくが大事にしているのはイベントをけっこうやっているんですよ。ランチミーティングという時間をつくったり。
高野:社内のイベントですね?
原口:編集者さんの中でも、たとえば主婦の方やお子さんがいらっしゃる方、いろいろじゃないですか。普段なかなか話ができなかったり、仕事の話しかしないと考えていることってわかりにくい。だからぼくはランチミーティングをやったり、1回「屋形船にみんなで行こう」って企画したりとか。ぼくらが求めているのは、「営業が売ってくれないから」「編集が良いものをつくってくれないから駄目だ」とか、そうじゃないですよね。読者さんに良いものをつくって、本屋さんに売ってもらおうという、そこなので。そのために「いろんな話を中でやろうよ」「同じ気持ちを忘れないように言おうよ」って。
高野:本を売るのに関係しているのかわからないけど、関係しているんだっていうのはすごい。
原口:最初は「屋形船? えー……いいけど」みたいな人が、「めっちゃ楽しかった」って言ってくれて。「あれ、またやらないの?」みたいな。それでだんだん盛り上がって距離も近づくというか。
高野:今日聞いて新鮮だったのは、ほんとうに本を売るのって毎日毎日、すごく泥臭いというか、積み重ねてちょっとずつやっているんだなと思ったんですけど、社内の一緒に売る人に対しても、本当に関わる人全員の熱を集める必要があるんだなというのはすごくおもしろかったです。
原口:めちゃくちゃそれが大事なのではないかな、ってやっぱり思いますね。
高野:では最後になるんですけど、ミリオンセラーはどうやったらつくれますか?
原口:ぼくが知りたいんですけど(笑)。つくれるというか、想いをずっと思い続けることが大事なのではないかなと思います。たとえば、1万部とか2万部でもすごいんですよ。
高野:うん、最高ですね。
原口:増刷がかかるってすごいことだと思うんですよ。それは買ってくださる方がいらっしゃるから。だから、それを重ねていくことの結果としてミリオンというのはあるので。だから感謝を忘れずにやること。ありがとうございます!という気持ちでいったほうがいいなというふうに思います。
高野:原口さん、ありがとうございます。まねしようって思って今日来たんだけど、ちょっとまねできないなという部分もあるなというのがわたしの結論です。
原口:いやあ、盛り上げていきましょうよ(笑)。
高野:はい、本当に盛り上げていきましょう。ありがとうございます。
(一同拍手)
『人は話し方が9割』ですが、現在は120万部を突破し、さらに冊数を伸ばしています。
帯はホログラムです。書店で見かけた際はぜひ手に取ってみてください。
『人は話し方が9割』誕生秘話を読みたい方はすばる舎さんのnoteもおすすめです。リアルなやりとりがわかります。
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