中学生と一緒に、実在するという『怪談売買所』に行ってみた
ことしも兵庫県の職場体験プログラム「トライやる・ウィーク」で中学生たちがライツ社にやってきました。出版社の仕事を体験してもらう中で、一緒に「明るい出版業界紙」の取材も体験してもらいました。
今回中学生たちと取材に向かったのは兵庫県尼崎市にある「怪談売買所」。
七月にライツ社から発売された『怪談売買所〜あなたの怖い体験、百円で買い取ります〜』は、実際にこの怪談売買所で一話百円でやりとりされた怪談を集めた実話怪談集なのです。
店主の宇津呂鹿太郎さんにお話を聞くために尼崎までやってきました。
なんでこんな不気味な場所に出店してるのか
ー:昨日みんなに『怪談売買所』の原稿を読んでもらって、それぞれ質問を考えてきてもらったので、質問させてもらえたらと。
宇津呂さん:はい、よろしくお願いします。
ー:じゃあ……そういえばだれから聞くかとか決めてなかったけど、じゃんけん?
中学生一同:はい。じゃんけんぽい!
宇津呂さん:じゃあ負けた人から(笑)。
Aさん:なぜここにこの店を開こうと思ったんですか?
宇津呂さん:最初から「あ、ここにこのお店を開こう!」と思ったわけではないんですよ。
たまたまなんですけど、ここって、さっき来ていただいた通り、みんなシャッターが閉まっていて、ほとんどのお店がもうやってないんです。
来ても店が開いていないし、買い物もできない。だからだれも来ないんです。
だからここの市場の人が、もう一度この市場に多くの人に来てほしいと思って、さまざまな取り組みをしていました。
その一環として、ここでトークイベントをやろうという企画が出たらしいんです。
その時に、夏といえば怪談だろうということで、ぼくが怪談を語ることになりました。
それが縁で、前からアイデアとしてあった怪談売買所をこの市場の人に話したら、「おもしろいですね。やりましょうか」ということになって、怪談売買所を始めることになったんです。
だから、偶然の重なりで怪談売買所をやることになったんですよ。
ー:それにしても、これ以上ないような場所ですね(笑)。こんなに雰囲気のある場所はほかにないでしょう。
宇津呂さん:そうですね。ちょっと一つ路地を入っただけでこの雰囲気ですからね。
なぜ一話百円なの?
Aさん:じゃあつぎは、なぜ百円なんですか?
宇津呂さん:いい質問ですね。
この店でやり取りするのは怪談なんです。そして、怪談というのは「物」ではないんです。目に見えないものの価値を理解することは難しい。
たとえば、この前の体育祭で百メートル走で一位になったという体験を、「その体験を話すからお金ください」と言っても、だれもお金をくれないでしょう。
反対に、体験した本人にはその価値がわからなくても、「その話は素晴らしいですね、じゃあ一万円どうぞ」と渡しても、お客さんは驚いてしまいます。
ぼくはどんな小さな、どんな些細な話でも聞きたいのですが、そうなると、お客さんは逆に来てくれなくなってしまいます。
だから、いくらが妥当か考えたときに、百円くらいが妥当ではないかと思いました。
やっぱりここって市場なんです。市場である以上は、お金をもらって品物を渡すという、お金の取引が行われる場所なんですね。
幽霊を見たらなにをする?
Kさん:宇津呂さんは幽霊を見たら何をしますか?
宇津呂さん:幽霊を見たら何をするか…まずは写真を撮って動画を撮りますね。
ー:(笑)。
宇津呂さん:現在はスマートフォンなどで簡単に撮影できますからね。
まあ、証拠を残すためにということと、話しかけたりするかもしれません。
ただし、状況によりますよ。幽霊を見る機会はなかなかありませんから、そんな機会があったらいろいろ試してみたいと思いますね。
ただ、実際にその場面になったときに、ほんとうにそういうことができるかどうかはわかりません。
怖くなって逃げてしまうかもしれませんし、その辺りはわかりませんね。
現時点では「あそこに幽霊がいる!」という状況には陥ったことがないので。
Kさん:見たことはありませんか?
宇津呂さん:見たことはありますよ。
見たことはありますが、その時は幽霊だとは思いませんでした。普通に生きている人間だと思ったんです。
「あんなところにおじいちゃんがいるんだ」と思っていました。でも、つぎに見たらもういなくなっていたんですね。
それはバスの中だったので、降りることもできなかったんです。バス停まで到着していなかったから。
さっき見たらおじいさんがいたけれど、つぎに見たらもういない...ということは、あれは幽霊だったのかと後から思ったことはありましたね。
幽霊が入ってきたりしないですか?
Kさん:なんか、こういう雰囲気じゃないですか。
宇津呂さん:はい。
Kさん:幽霊が、あ…みたいな感じで入って来たりすることはありますか?
宇津呂さん:ぼくはそんなに幽霊が見えるタイプではないので、わかりませんよ。
でも、お客さんの中には「あそこに女の人が立っているよ」とか言う人もいましたね。
ちょうどそこの、フライパンがかかっているでしょう? あの辺りに二十五歳くらいの女性がいたんですって。
で、「あそこに女の人がいるよ」とか言われたこともありました。ぼくは見えないので、確認することはできませんが。
そんな話もありますし、また、お客さんが出ていくときにこの怪獣がいるんですけど、怪獣の右側の肩から女性が何度か覗いたとか、そんな話も聞かれます。
Hくん:やばい、怖くなってきた。
一同:(笑)。
宇津呂さん:でも、ぼくはわからないので。
ただ、こういう雰囲気を出して怖い話ばかりしていると、やはり幽霊のような人も来るのかなと思いますね。見えたらいいんですけどね。
特に一番怖い話が載っています
Kさん:あともう一つ質問があります。この本の怖さは、宇津呂さんにとってどのくらいですか?いままで聞いた話の中で。
宇津呂さん:今回の本に関しては、とにかく怖い話ばかりを求められたので...。
ー:そうなんですね(笑)。
宇津呂さん:そうなんですよ。なかなか編集の方が納得してくれなくて。「もっと怖いの、もっと怖いの」という感じで(笑)。
ですから、今回の十三の話はほんとうに怖い話が多いですね。特に一番怖いくらいの話が多いですね。
たとえば、お母さんにそっくりの人がやってくる話とか、まああれは…。
ー:怖いですね…。
宇津呂さん:ほんとうに怖いですよね。
ほんとに実話ですか?
Kさん:よく、ほんとうにあった怖い話みたいなのがあるじゃないですか。
宇津呂さん:そうですね。
Kさん:ああいうのはやっぱり心の中では作り話じゃないかなと思うこともあって、でも今回はほんとうにこの場所に来たりして、話が実際にあったんだなという実感があったんですが、どうですか。
宇津呂さん:たしかにそうですね。あのお母さんが訪ねて来る話や、携帯電話の動画が消えない話、それらは同じ人から聞いた話なんですけど、その人に関しては実は…名前が出ていますよね? 本名なんです。
ー:ほんとうですか?
宇津呂さん:ほんとうなんですよ。一応、「書いていいですか?」と聞いたときに、名前を仮名に変えることもできますと提案したんです。でも、その人に関しては「本名でお願いします」と言われたんです。
ー:そうなんですね。
宇津呂さん:はい。だから、ほんとうにあった話なんです。
Kさん:うわぁ、もっと実感しました。
体験した人の素顔が見えるのは珍しい
Hくん:本には十三本の怖い話が載っていましたが、実際には何本の怖い話を聞いたんですか?
宇津呂さん:正確な数はわかりませんが、普段聞かれると、もうわからないので、だいたい七百話~八百話くらいと答えていますが、実際には千話を超えていると思います。その中でほんとうに怖い話は数が限られてきます。
ほとんどの場合、親しい人が亡くなった時に最後のあいさつに来てくれるという虫の知らせの話だったり、金縛りを経験した話だったりします。
ー:担当編集から、たとえば金縛りの話でも話す人によって違うと聞いたのですが、ほんとうなんですか?
宇津呂さん:そうですね、夜眠っていて目が覚めると体が動かせない状態です。それだけの話でも、十人が体験すると、感じ方は十人とも異なるんですね。
だから「あ、亡くなったおばあちゃんが来てくれたのかな」と思う人もいれば、「昨日、お地蔵さんを蹴っ飛ばしてしまったからその報いが当たったんだろう」と思う人もいるでしょうし、さまざまです。
一つとして同じ体験はないので、ぼくはそれぞれの体験をすべて大切にしたいと思っています。
ー:今回の本も話し手の表現はこだわったと聞きました。
宇津呂さん:そうですね、やはり来店された方々の描写ですね。お店に入ってくる瞬間から始まり、話し始めるまでのお客さんの様子や、どのように話しかけてきたのか、ここに来てどのような印象を持ったのかなどです。
ー:最初に絵が入っていて、語っている人のイラストがね。
宇津呂さん:そうですね。怪談の本はたくさんありますが、話だけが載っていて、体験した人の表情が見えないこともあります。
体験した人の素顔が見えるっていうのはすごく珍しいし、逆にそこがすごくおもしろいところかなと思うんですよ。
怪談の世界に入るきっかけになった人
Mさん:わたしは本が好きなんですが、宇津呂さんは好きな作者の方はいますか?
宇津呂さん:たくさん好きな作者がいますが、怪談に関して言えば、小さいころからすごく影響を受けた方が2人います。
一人目は、みなさんも知っていると思いますが、水木しげるさんです。
『ゲゲゲの鬼太郎』のアニメを見て妖怪という存在を知り、そのあとは親に妖怪図鑑などをいっぱい買ってもらったんです。だから、それですごく影響されましたね。
見えている世界だけがすべてではなく、見えない世界もあり、その見えない世界にはさまざまな存在がいて、ときおり何かのきっかけで見えてしまったり、声が聞こえたりするということがあるのかなと、そう思いましたね。
水木しげるさんにはほんとうに影響を受けましたし、いまでも大好きです。
それから、小さいころに影響を受けた方は、この方は知らないかもしれませんが、中岡俊哉さんという方です。
彼は放送作家であり、本を書いている作家でもあり、評論家でもあり、さらには心霊研究家という肩書も持っています。
「こっくりさん」ってしっていますか? それがすごく流行ったことがありますが、それのきっかけを作った人でもあります。
テレビにも出演して、心霊写真の鑑定や霊視をしたりしていますし、本も出版しています。
だから、中岡俊哉さんには小さいころからとても影響を受けました。霊の世界というものがこういうものなのかと、なんとなく自分が知るきっかけになったのです。
魔術の通信教育
Mさん:では…宇津呂さんは、こっくりさんや、たとえばトイレの花子さんなど、そういうものを信じたりやってみたりしたことはありますか?
宇津呂さん:小さいころはほんとうに全部信じていました。
本に載っていることはすべてほんとうだと思っていたので、幽霊は存在するし、妖怪もいるし、UFOもあるし、宇宙人は地球に来ていると信じていました。地底には地底人もいる(笑)。
信じていると、自分でも実践したくなるんですね。小さいころからわたしの親は本はなんでも買ってくれました。おもちゃはなかなか買ってもらえなかったのですが。そうした中にこっくりさんのやり方などが書いてある。
はじめてやったのは小学生のころでした。でも、うまくいかなくて。そのあと、高校生になったときに、放課後にクラスの友達と三人でやりました。そのときは十円玉がすごく動いて、ちゃんとした会話が成り立ったんです。
だから、「これすごい! ほんとうにできるんだ!」と思い、家に帰って一人で試してみようと思いました(笑)。そしてしばらくそれをやっていました。週に何回か、夜一人で部屋にこもって、電気を消してろうそくを立てたり…。
それ以外にも、わたしは呪いとか魔術とか占いなど、そういったものにもとても興味がありました。高校生のときにちょっとそういう……魔術に傾倒したことがあって。雑誌の『ムー』って知っていますか?
Kさん:はい。
宇津呂さん:ありますよね、オカルト雑誌の。その『ムー』を読んでいたら、うしろのほうにいろんな広告が載っているんですけど、その広告に魔術の通信教育があったんです(笑)。
ー:まさか(笑)。
宇津呂さん:本部が神戸にあるんですけど、「通信教育で学べるんだ」と思って。
毎月五千円かかるんですね。わあ、五千円か、高いなあと思いながらも、ちょっと申し込んでみました(笑)。
教材が送られてくるし、本も送られてきました。それでちょっとやっていたんですけど、やはり高校生で当時の五千円は大きな出費でした。
すぐに続けられなくなり、お金がなくなって三カ月ほどでやめてしまいました。でも、その間は真面目に教材を読んで実践しましたね。
一同:(笑)。
宇津呂さん:おもしろかったですね。そんなことをけっこうやっていました。心霊スポットに行ったりもしましたし、それ以外にもいろいろなことをやりました。わら人形を作って友達に呪いをかけてみたりもしました...(笑)。しかし、効果はありませんでした。
ー:実際に全部やってるっていうのは、なかなかないですね。
宇津呂さん:そうですね、わたしは実践主義なので(笑)。経験こそが何よりも大切です。
しかし、こんなことを真似するのはダメですよ。良い子は真似しちゃダメです。
私からも質問です
宇津呂さん:じゃあ、ぼくの方からも質問させてもらっていいですか?
ー:はい。ぜひぜひ。
宇津呂さん:さっき、自己紹介の際に、怪談が苦手ですと言っている人もいれば、ホラーゲームとかはけっこうやっていますと言ってくれた人もいましたけど、いままで怪談の本を読んだことがあるという人はいますか?
〈みんな手を上げる〉
ー:へえ、全員ですか?
宇津呂さん:それはどんな本を読んだか覚えていますか?
Hくん:松谷みよ子さんの『怪談レストラン』。
宇津呂さん:ああ、あれはもう名著ですね。『怪談レストラン』のシリーズ。…ああ。ほかになにかあります?
Kさん:ひたすら人が死にまくる話がいっぱい入っている本とか…。
ー:(笑)。
宇津呂さん:中学二年生のみなさんにとって、怪談ってどうなんですかね。怖いじゃないですか、怪談って。
でも、怖いけど…読んでいるってことは読みたくなる部分があるってことですよね。どうなんですか? 実際、読んで怖いと思ったことありますか?
Kさん:わたしは小学校のときとかに、よく本屋さんで立ち読みで読んだりしたんですけど、小学校のころは「ああ、読まなきゃよかった」とか…。
特に、テレビとかって怖い話が多いじゃないですか。なんか、寝る前によくテレビ見るんですけど、わたしが小学校くらいのときに、特にテレビで怖い話が流れるのが多くて、UFOとかもすごく怖かったんですよ。
あの音楽が流れるだけでめっちゃ怖くて、目をつぶって、お父さんとかに「やめて!」って言うくらい怖かったんですけど、そのときは見なきゃよかったって思いました。
でもだんだん大人になってくるうちに、なんかちょっと癖になりました。
ー:(笑)。
宇津呂さん:いいですね。素晴らしい。
みなさんぐらいの世代とは、あんまり付き合いがないのでわからないので、こういう怪談などに関してはどういうふうに考えているのか、どんなふうに感じているのかなってちょっと気になったので。
ありがとうございます。また学校に戻ったら友達に話してあげてください。
不思議な体験…あります
宇津呂さん:...なんか、不思議な体験とか怖い体験とかはないですか? 幽霊見たりとか。
Hくん:ないなあ。
宇津呂さん:ない。ないですか。
Aさん:一回だけある。
宇津呂さん:一回だけある?
Aさん:わたし、猫二匹飼っているんですけど...
宇津呂さん:ちょっとそれ録音させてもらっていいですか。...お願いします。
Aさん:わたし、猫二匹飼っているんですけど、夜はゲージに入れるんですね。
それで、ゲージに入れるとき、猫ちゃん二匹逃げるんですよ。嫌だから。
それで、やっとゲージに入ったと思って二階に上がると、わたしの机の下に一匹いるんですよ。
おかしいなと思って、下に見に行っても二匹いるんですよ。
あれ、と思って、違う猫かなって思ってもう一度見ても、まんま一緒なんですよ。
下にも二匹いるし、上に一匹。二匹しか飼ってないのに、もう一匹いるのおかしいんですよ。
それから一階に見に行ってまた戻ったら、その二階の猫はいなくなっていたんですよ。
宇津呂さん:二階にいた猫がいなくなっていた。
Aさん:はい。なんだったんだろうなって思いました。
宇津呂さん:その猫は、実際自分のうちで飼っている二匹のうちの一匹の猫?
Aさん:はい。顔も…。
宇津呂さん:ええ! それおもしろいですね。猫のドッペルゲンガーですね、それ(笑)。
ー:なるほど(笑)。
宇津呂さん:へえ。いつも、よくそこの場所に行くとかではないんですか?
Aさん:はい。いつもはわたしのベッドの上とかにいるので。
宇津呂さん:あんまり机の下とかは行かない。
Aさん:はい。
宇津呂さん:はあ...不思議ですね。ありがとうございます。
一同:(笑)。
宇津呂さん:...ありがとうございます。あんまり聞かないですね。
だから、ぜんぜん見たこともない猫がおったとかね。あとは、ゲージに入れたはずの猫がいつの間にかこっちにおったという話はあるんですけど。
ゲージに入ったまま、別のところにも姿を現している猫っていうのははじめてなので。猫の怪談はけっこう多いんですけどね。
ー:そうなんですね。
宇津呂さん:はい。だからすごくおもしろいですね、いまの話。ありがとうございます。あ、これ百円をどうぞ。
ー:売買が行われましたね、いま。はい、じゃあ、こんなところで。ありがとうございました。
宇津呂さん:ありがとうございました。
中学生一同:ありがとうございました。
このあと宇津呂さんから怪談を買って「めちゃくちゃ怖い話をしてください」とお願いしてめちゃくちゃ怖い話をしてもらいました。
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