4.NewsPicks Publishing編集長が考える「ビジネス書づくり」3つの条件
NewsPicks Publishing編集長の井上慎平さんとライツ社編集長の大塚の対談をお送りします。
目次
1.もともとはひとり出版社をやろうとしてた
2.出版社以外の企業が、本を出していく可能性
3.読者を消費者にしたくない。読者と一緒に育っていきたい。
4.NewsPicks Publishing編集長が考える「ビジネス書づくり」3つの条件
5.反対に、ライツ社は何がしたいんですか?
6.出版社の輪郭をゆがませよう
井上 僕、自分が本をつくるときに、3つの条件を決めていて。
一つは、社会のここを変えたら、既存の価値観ががらっと置き換わるよね、という問題意識(=イシュー)。次に、本を出すことでこういう社会にしたいんだ、というビジョン。でも、その二つだけやったらポエムになっちゃうので、最後ちゃんとそこに解決策(ソリューション)。
大塚 問題意識とビジョンと解決策。
井上 はい。ソリューションだけの本はつくらない。
大塚 ずっとお話を聞いていると、井上さんって、本をつくってるっていう感覚じゃないのかもしれませんね。
井上 んん?
大塚 課題とビジョンと解決策を、本という商品にしてはいるけど、最終的にはそのセットをいくつも用意して世の中を変えていきたい。
井上 そうですね。うん、そうですね。でも、ほんまに、そっちのタイプですね。うん、うん。
大塚 部数のゲームより?
井上 うーん。でも、「経済と文化のあいだの話」に戻ってくるんですけど、そこで「売れる売れないは二の次」って言ってしまった瞬間に、嘘になるんですよね。
「数字(売上)なんか関係ないねん」っていうのは絶対言わへんぞっていうのは決めてます。だから、2社目でダイヤモンド社に行ったんです。
大塚 ビジネス書で一番数字を上げてる会社ですもんね。
井上 一番数字を上げてるし、やっぱり、今のビジネス書を売っていくゲームの中で、一番腕のある人たちが集まってる。
大塚 じゃあ課題は、ライツ社も、これから始まるNewsPicks Publishingチームも、メンバーは少数ですけど、それで大手と同じように、10万部、100万部を出せるかどうか?
井上 10万部なあ。
大塚 でも、それができると思ったからいったんじゃないんですか?
井上 表現が難しいんですけど。数字にはこだわるんだけども、例えばじゃあ前の出版社やったら10万部出たけど、今回の僕たちだったら5万部っていう結果は、ありやなって思ってるんですよ。
大塚 へえー。
井上 なんでかというと、評価っていうのを、カウントつまり部数でしかできなかったら、それがすべてになるけど、実際に見たいのはどういうふうに社会に影響があったか、みたいなことで。
大塚 なんか、新しい評価の尺度があればいい?
井上 はい。部数って粒度がめちゃくちゃ粗いじゃないですか、人間を1カウントとしかできないって。視聴率と一緒ですよね。で、読んでくれた人たちがどんな人たちかはわからない。
大塚 それがあらゆるメディアの課題なのかもしれないですね。
井上 そうです。誰が読むか、誰に読まれたかっていうのが大事になってくる。これはきれいごとじゃなくて。
広告の世界でも、もう1PVの価値がどんどん下がってるんです。その中で広告の価値を高めようと思ったら、誰が見てるかっていうデータをちゃんと追跡して、それを商品にしなくちゃいけない。時代の流れはもうそっちに行ってるんです。粗い指標、粗いザルに頼ってずっとやる、っていう流れは終わってきてるんじゃないかなって。
大塚 誰に読まれたかわかるようにできたらいいのか、本も。ウェブはちょっとできてますもんね。
井上 できてますよね、紐づけがね。
大塚 NewsPicksができてることですよね。
井上 まだまだですけどね。で、本を読んで、僕たちのやりたいことに共感してくれる人と、継続的にコミュニケーションしたい。
大塚 うんうん。
井上 本って、1冊出して、その度にゼロからPRして、あそこに売り込んで、みたいな、その繰り返しに疲弊感あるじゃないですか。
でも、継続的に「あ、NewsPicksから新刊出たんや、なんやろう?」って見てもらえる人がいるっていうのは、理想的な状態。それをつくりたいんですよね。毎回楽しみにして待っててくれてる人リスト、みたいな。
大塚 嬉しいですね、そのリスト。眺めるだけでも。
なんか、ほんまに些細なことなんですけど、ライツ社では小さな「おたより」を本に挟んであるんですよ。それへの反応がたくさんあって。
井上 へえー。
大塚 よくある出版目録じゃなくて「おたより」。
井上 (おたよりを受け取る)
井上 ありがとうございます。ほんまや、おたよりって書いてる。
大塚 はい。
井上 タコ。タコ可愛いなあ。
大塚 内容は、創業理念を込めた挨拶と、これから出る本の予定と、既刊本のおすすめと、何か月かに1回更新するお手紙。お手紙は「これは何月何日に書いてます」って書き出しで、最近あったことを書いてます。
びっくりしたのが、「このおたよりを見て出したくなりました」ってアンケートハガキをめちゃくちゃ返してくれるんですよ。
井上 うんうん。
大塚 で、何に感動してもらえてるかって言ったら、本の内容はもちろんなですけど、ライツ社の創業理念なんです。「これを読んで応援したくなりました」ってハガキに書いてあるんです。
井上 ああ、なるほど。つまりライツ社の「やりたいこと」に読者が共感してくれている、と。
大塚 たぶん。だから、目録にして本を紹介するよりも、僕たちはこういうものです、これがしたいから出版社やってますって伝えることがすごく大事なんやなって思いました。
で、それが、定期的に本を買ってもらえることにつながってる。ちっちゃい規模だけれども。
井上 いやー。どうします、10月に僕たちが創刊して「NewsPicksのおたより」とか入ってたら。
大塚 ちょっとNewsPicksっぽくないですけどね。「おたより」という単語が(笑)
井上 社内的にも。「おたより?」ってなる。
大塚 おたよりっていう響きには、つくりたいのは「出版社とお客さん」っていう関係ではないっていう気持ちを込めたんです。
井上 対等ですよね。そうそう。対等でいたい。
大塚 憧れられる出版社。それこそ岩波さんとか早川さんとか、歴史ある出版社の役割を、新しい出版社がやる必要はない。
井上 まったくないですよね。
大塚 違う役割を果たさないとって思ってる。
井上 これだけいろんな出版社があるんですからね。こういうコミュニケーションをちゃんととって、単発のコミュニケーションから抜け出したいですよね。それはあらゆるものを疲弊させていくから。モデルとしても、あえて言うと、ダサいと思うし。
大塚 うんうん。それこそ、本自体がおたよりになればいいなって思うんです。僕たちは今こんなことに興味があって、こんな本つくりましたよって。そしたら読者は「じゃあ読みます」って、手紙みたいに読んでくれて。で、たまにイベントをして、今度ここで会えるから遊ぼうねってって言って、来てもらえて。そんな関係性。
井上 すごくいいですね。本がおたより。