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6.出版社の輪郭をゆがませよう

NewsPicks Publishing編集長の井上慎平さんとライツ社編集長の大塚の対談をお送りします。

目次
1.もともとはひとり出版社をやろうとしてた
2.出版社以外の企業が、本を出していく可能性
3.読者を消費者にしたくない。読者と一緒に育っていきたい。
4.NewsPicks Publishing編集長が考える「ビジネス書づくり」3つの条件
5.反対に、ライツ社は何がしたいんですか?
6.出版社の輪郭をゆがませよう

大塚 この前、あるパン屋さんに企画を提案したんですけど。

井上 はい。

大塚 はじめは、そのパン屋さんが本づくりに興味あるって話を聞いたんです。で、最初はそれならライツ社と一緒に本をつくって、本屋さんで売れるようにしましょうって話をしようと思ってたんですけど。いや待てよ、なんか違うなって思ったんです。

井上 何が違うんですか?

大塚 それってただ、パン屋さんが著者になるだけやなって思って。普通やなあって思って。で、反対に、本屋さんじゃなくてパン屋さんで売れる本つくりましょうって提案に切り替えたんですよ。

井上 おお。

大塚 たとえば内容は、絵本+その絵本に出てきたパンがつくれるキットを合体させた商品、とか。

井上 おもしろい。

大塚 僕たちには、モノをつくる力、編集する力がある。それにライツ社にはクラウドファンディングの実績もあったので、お金の集め方も提案できる。ようは出版社の持ってるスキルを全部提供します、というスタンスの提案に切り替えたんですよ。

井上 市場とスキルをスライドさせたわけですね。

大塚 そうです。出版業界からパン業界へ。で、それは小さな事例やけど、じゃあそれがもっと大きな規模で実現できたらどうなるのか。本を通して、その業界のコミュニティが活性化したり、同じ方向を向いておもしろいことをやっていこうって人が関われる機会になっていく。

おもしろい著者を出版業界に引っ張って来るんじゃなくて、僕たち編集者が向こうに行っちゃう。

井上 いやそれおもしろいな。

大塚 NewsPicks編集者がどっかの業界にぴょーんて行って、なんかやってくるとかおもしろいですよね。

井上 編集者出向制度。いいですね。

大塚 編集者の持ってるスキルって絶対転用できるものだと思うし。

井上 うんうん。

大塚 ちょっと、話どんどんずれちゃうんですけど。書店の価値についても話したくて。

井上 うん。

大塚 さっきのパン屋さんと出版社が一緒に何かを企画する話って、広告代理店っぽい仕事じゃないですか。

井上 たしかに。

大塚 じゃあ代理店がすればいいやんって。でも、大事なポイントが一つあって。広告代理店って「販路」を持ってないんですよ。

井上 あー。

大塚 流通と。だから、何かをつくっても売ることがそもそも難しい。

井上 はい。

大塚 たとえば地方の自治体が観光PR目的で代理店にお金を払って、ウェブサイトをつくって、チラシを駅前に置いて、ポスターを貼って、イベントをやってっていうのがこれまででしたけど、でもそれだけで終わりではないんじゃないかって思うんです。

井上 うん。うん。

大塚 観光PRの仕事を出版社が受けたとしたら。たとえばライツ社のある明石だったら、まず明石の本をつくって、それと一緒に明石の名産のタコの缶詰とか、つまり食品や雑貨、商品を何でも組み合わせて全国の書店に流通できるんですよ。最後の出口まで、責任を持って。

それって営業と書店の力なんですよね。全国に案内できる営業マンと、流通してくれる取次と、リアルな売り場として8,000店舗もの書店がある、出版業界のすごい能力なんですよね。

井上 そうですよね。売り場として、本屋さんって信頼されてますもんね。

大塚 そうそう。実際、ウィー東条っていう広島県のすごい田舎にある名物書店にこの間行ったんですけどね、なぜか売り場の一等地に、ほかの地方の特産物の「かつお節」が置かれてあって、それが飛ぶように売れてたりするんです。

井上 本屋に置いてあるって価値が大きいわけですよね。

仮にその仕事を受けて、本をつくって、3,000冊の本が売れたとして、その人たちが読んだ時間で言うと、3,000冊×3時間みたいな。とんでもない効果ですよね。

大塚 そう。さらに、その何倍もの時間、ずっと書店に、その本や雑貨が置かれていて、お客さんの目に留まっている。

だから、どこかの企業や自治体が本をつくりたい、何かを伝えたいって思ったときに、出版社に頼むって選択肢がもっとわかりやすくあって、「ちっちゃい(小さい)もん連合」に所属する編集者を指名できる、みたいなことができればすごくいいと思うんです。

井上 うん。

大塚 地方再生に強い編集者だったら井上さん、とか。

井上 うん。

大塚 業界っていう国境を超えて外に出れば、出版業界はもっと活性化する。

井上 編集者集団みたいなのつくってもいいですよね。クリエイター集団だったら「チョコレイト」とか、ちょっと前やったら電通辞めた人で「パーティ」とかできたじゃないですか。

大塚 チョコレイトに書籍編集者、入ってないですもんね。反省…。

井上 つくりますか。

大塚 僕が言ってもダメなんで、井上さん。

井上 …いやいやいや。井上。大塚ペアでちょっと旗振りながらやってもおもしろいですね。

大塚 出版社の輪郭、歪ませたいですよね。

井上 おー!いいですね。

大塚 もう、その、ガチガチじゃないですか。

井上 うんうん。ただのマーケティングに留まらない歪ませ方ってわくわくしますよね。

大塚 そうです。そうです。

井上 確かに、今、若い人に「出版社入って、編集、営業で何年か下積みしてから本つくって、重版バンバンかけれるように頑張ってよ」って、自分で言っててもわくわくしない。

大塚 笑

井上 口説ける気がしない。

大塚 そうですね。

井上 うんうん。新しい仕事つくりたいなあ。それはわくわくするなあ。

大塚 あ、そろそろ時間ですね。東京戻る前に海行きます?

井上 行きます行きます。ていうか帰りたくないです。

大塚 じゃあ、恒例って言ってもまだ2回目ですけど海で写真撮って終わりにしましょう。

井上 はい。

大塚 遠くまでありがとうございました!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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